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棚ボタ(1/2)

2021.02.22.Mon.
※初出2010年、旧題「腐女子を彼女に持つ男が直面した悩み」

 玄関に、枕を抱えた三島が立っていた。

「なんだ」
「彼女に追い出された」

 友人の三島は枕がかわると眠れないたちで、出張に行く時も荷造り用の鞄のなかに枕を詰めるほど精神が細やかなところがある。夜中いきなりやって来て泊めろと迫る図太い性格をしているくせに意外だ。

「またあれか」

 三島はそうだと頷いた。去年知り合い、付き合うと同時に同棲になだれ込んだ三島の彼女は、いわゆる『腐女子』と呼ばれるやつで、ある時期がくると「原稿が」「締め切りが」と仕事以外の時間を全て同人誌を制作する作業にあてるようになる。そのあいだ、彼氏の三島はほったらかし。構って欲しくてちょっかいを出すと本気で怒られ、邪魔だから、と部屋から追い出されしまう。そしてうちにやって来るのだからいい迷惑だ。

 学生時代、頼まれる度、講義の内容を写させてやっていたのが間違いのもとだ。こいつは甘やかすとその分つけあがる。今頃後悔しても遅いのだが。

 こたつに入った三島はそのまま寝転んだ。体が大きいために、入りきらない足が反対側から飛び出している。

「飯は?」
「食べてきた」

 天井を見ながらぼんやりと答える。もう眠いのかもしれない。寝るか、と訊ねると、うーん、と上の空な返事があった。

「なんかさぁ、俺と原稿と、どっちが大切なんだって気がするよな」

 視線は真上に向けられたまま三島がしみじみとした口調で言った。

「知るか。追い出されたんだから、答えは出てるだろ」
「冷てえな、慰めるのが親友だろ」
「犬も食わないまずい残飯を俺に食わそうとするな」
「俺たち夫婦じゃねえし」
「一緒に住んでるんだから同じようなものだろ」
「そういえばおまえ、いつ彼女作んの?」

 興味深々といった顔つきで三島が体を起こした。また余計なことを……。

「作ろうと思って作るもんじゃないだろ」
「おまえ、モテんのにさ」

 俺は三島を睨んだ。人の気も知らないで残酷なやつだ。

 俺が黙っていると、三島がハッと思いついたように顔を輝かせた。身を乗り出し、

「もしかして、ホモとか」

 小/学生みたいなテンションで訊いてくる。俺はわざとらしい溜息をついた。

「ほんとにそうだったらどうするだよ。彼女の影響か?」
「そうなんだよなぁ、最近、仲良さげな男見ると、もしかしてって疑ったりしちゃうんだよな、やばい傾向だよ」

 頬杖をつき、演技ぶったしかめっ面でうんうん頷く。

 三島の彼女が書いているのは漫画だ。以前三島が持ってきたので見たことがある。少女漫画に出てきそうなキラキラした男が、同じくキラキラした美少年と恋に落ち、セックスで締めくくられるハッピーエンド。これは全然ぬるいほうで、彼女が描くその多くは、強/姦、複数、調教、触手など、エグイ内容がほとんどらしい。とんでもないものを描いている。それでも最後はハッピーエンドになるというのだから、もはやファンタジーの世界だ。

「でもさぁ、実際のところ、男同士ってどうなのかな? いいのか?」

 おまえなら知ってるだろ、なんて口振りで俺に聞くな。どきっとするだろ。

「それこそ彼女に聞けよ、俺は知らんよ」
「なぁ、一回ヤッてみねえ?」

 さっきまでの気の抜けた表情をわずかに強張らせて三島は言った。冗談じゃない雰囲気。一瞬俺までマジになって三島を見つめてしまい妙な間があく。──いかんいかん。

「追い出されたいのか」

 いつもの調子を意識して切り返す。三島は表情を崩し、なんてな、と目を細めた。そのとき出来る目尻の笑い皺が俺は好きだった。もっと言えばその浅黒い肌も、硬くて太い髪の毛も、がっしりした体も、学生の頃から好きだった。

 こいつは彼女と同棲までしてるのに、俺はいまだに片思いを続けている。バカだと思うが、諦められない。だからこんな話題は危険だ。俺の気持ちを勘付かれてしまうかもしれない。

 しかし一方で、いまのはチャンスだったのに、と悔やむ気持ちもないではない。思い出作りというやつだろうか。最後に願いが叶うなら、俺は三島をきっぱり諦められる気がする。その代償は計り知れないが。

「最近ヤラせてくんないから、欲求不満なんだよ」

 言い訳するように三島は頭を掻いた。俺に、おまえと彼女の生々しい濡れ場を想像させないでくれ。それこそファンタジーの世界にとどめておいてくれ。

 テレビを見ながらしばらく雑談したあと、どちらともなく寝るか、となり、俺はベッドに、三島はこたつに寝転がった。

 ※ ※ ※

 どれくらい時間が経っただろうか。

「起きてる?」

 てっきり寝ているとばかり思っていた三島から声があった。壁のほうを向いたまま、起きてるよ、と返すと、背後で三島がごそごそ動く物音が聞こえた。

「なぁ」

 いきなり肩を掴まれた。驚いて振り返ると、すぐそばで三島が俺を見下ろしていた。

「やっぱりしてみないか?」

 ギシリ、とベッドを軋ませて、三島が俺の上に乗りかかってくる。

「な、なにを」
「頭から離れねえんだよ、一回、試してみたい」

 俺の胸に顔を押しつけ、駄目か? と上目遣いに訊いてくる。そんな目で俺を見るな。甘やかしたくなるだろう。

「本気で言ってるのか?」

 コクコク頷く。畜生、可愛いじゃないか。むさい三島のぶりっこにときめいてしまうなんて、俺も末期だな。

「どうなっても知らないぞ」

 体を起こすと、三島に抱きしめられた。男らしい力強さ。夢にまで見た愛しい男の腕の中。もう、どうなってもいいや。

 ※ ※ ※

 ベッドの上で胡坐を組んで向き合い、

「どうする? おまえ、どっちがいい?」

 挿入する側、される側を決めるために話し合っていた。

 興奮しきっている三島からは、普段より濃厚にオスのにおいが発散されている。いまからこいつとセックスするんだ、なんて強く自覚させられて、俺までのぼせそうになる。それを隠すために、俺は三島とは逆に興味がなさそうな、白けた態度を装った。

「俺はどっちでもいいよ。明日も仕事だし、やることやって早く寝たい」
「おい、この歴史的瞬間に淡白すぎるぞ。それとも経験者かよ」
「バカらし。じゃ聞くが、おまえは男のケツに突っ込めるのか? 男に突っ込まれて平気か? どっちなんだ?」

 腕を組んで三島は考え込んだ。どんな想像を巡らせているのか、時折顔をしかめたり、締りのないニヤけ面になったりする。ほんと、見ていて飽きないよ。

 決意したのか、三島がやけに凛々しい顔つきで言った。

「よし、俺が入れる」

 というわけで、歴史的瞬間における俺たちの役割が決定した。





というわけでお久しぶりです!
もうすぐ二月が終わりそうなのになにも書けていないので例のごとく昔のを引っ張りだしてきました。タイトルを変えたのは単純に長いからで特に意味はないです。
キーボードが不調で文章書くのがストレスだったので外付けのキーボード買ったんですけど今使ってるのと微妙に違うのでちょっと使いにくいんですよね。慣れるまで時間かかりそう。というのもありつつ、あと今は書きたい欲求はあれど書ける気分じゃないってのもあって新作更新がいつになるかまったく不明です。
こんなこと言っておいて明日明後日にぱぱっと書けたりするんですよねw
とりあえず明日は今日の続きを更新します。良かったら読んでやってください!
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