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チクン

2020.12.16.Wed.
<「君と僕」→「初めての温度」→「嫌がる本当のワケ」→「知らない世界」→「初めての右手」→「デジカメを探せ」→「夏祭り 前」→「夏祭り 後」→「受験勉強」→「 St. Valentine's Day」>

※高1春、短め、エロなし


 高校にあがる時、村出身者は一つの試練を与えられる。今まで少人数で教師が生徒に付きっ切りが当たり前だったのが、急に大人数のクラスに放りこまれ、村出身者は必ずそれに面食らう。そして、知り合いが少ないという寂しさ、心細さを味わうことになる。

 俺と和也は幸い同じクラスだった。

 はじめは出席番号順で席が決まるので、石川と中沢は当然場所が離れる。俺は廊下側、和也は教室の真ん中あたり。

 始業のチャイムが鳴って、先生がくるまでのわずかな時間、チラッと和也を見ると、視線に気付いた和也も俺を見て、ニコッと笑った。それだけで癒される俺の心。

「なぁ、石川君」

 小さい声が俺を呼んだ。隣の席の女子、確か、江藤さん。

「なんえ?」
「岸ヶ丘村から来てるんやろ?」
「そうや」
「毎日大変じゃない?」
「そうでもないで、バス乗ってるだけやからの」
「えー、石川君て岸ヶ丘から通ってるん?」

 江藤さんの後ろの子も会話に入ってきた。村出身者はイナカモノとして珍しがられる。

 一応、普通に電気もガスも水道も通ってるんだけど。といっても、いまだにプロパンを使っている家も多いけど。

「冬は雪降って陸の孤島になるんやろ?」
「そうなる年もあるな」
「いやぁ。すごーい」

 と、2人はキャピる。やっぱり村の女と違う。村の女子は化粧なんかしない。髪を染めたりしない。みんな、それを高校に入ってから覚える。俺の顔がほんのり熱を持つのは仕方が無いことだ。

「私、一回も行ったことないねん、今度行ってみたい!」
「あぁ……ええんちゃう、でも何もないで」
「えー、山とか川とか?」
「うん、ほんまに、そんなもんぐらいしかない」
「うそー、おもしろーい!」

 何が面白いのか。住んでるこっちは、ちっとも面白くないぞ。

 教室に先生が入ってきたので、そこで会話は終わった。

※ ※ ※

「和也、さっきから何黙っとんねん」

 帰りのバス。いつもの後部座席に和也と並んで座っている。和也は元気がない。暗い顔で言葉数も少ない。

「どっか悪いんか?」

 額に手を当てたら、邪険に振り払われた。今日は俺たちの他に村の連中が乗っているから、恥ずかしがっているのだろうか。あまり気にせずにいたら、

「貴志と、同じクラスにならんかったら良かった……」

 と、和也がぼそっと言った。

「え、なんでな……」

 冷や水を浴びたように、心臓がひやっとした。どうして和也がそんなことを言うのかわからない。和也は俯き、膝の上の手をぎゅっと握り締める。

「なぁ、和也、なんでな、なんでそんなこと言うのんな」
「だって……今日、隣の女の子と話、しとったやん」
「え? あぁ、江藤さんらか?」
「村に行くとか行かんとか……楽しそうに。俺が昔、明子と話ししたら怒ったくせに」

 おう、そういえば、そんなこともあったっけ。あの時、明子に嫉妬して、和也に不機嫌に当り散らした。その時、初めて和也とキスしたんだっけ。

「怒うとるん? 俺が女とはなしとったから」

 顔を寄せ、小声で囁く。和也は赤くなりながら、頷いた。可愛い奴!

「怒んなや、世間話しとっただけやんか」

 和也の膝に手を乗せ、そこを撫でる。和也が俺の手を握ってきた。

「あんなん毎日見んのツライ。貴志と同じクラスになりたなかった。心臓、苦しい……」

 って、切ない顔で言う。俺の心臓までキュンッと痛んだ。ここがバスじゃなかったら抱きしめてキスしてるところだ。それを我慢して、

「あの子らと毎日話したりせんわ。あの子らは村が珍しいだけなんよ。すぐに飽きるわ」
「そやけど、貴志、かっこいいから、絶対モテるやん」
「モテへんわ、アホ」

 褒められて嬉しい気持ちと、和也がそんな心配をしてるのが可愛くて愛しくて、慰めて安心させなきゃいけないのに、つい顔がニヤけてしまった。

「今日、家、寄って?」

 縋るように俺を見て言う。俺はもちろん頷く。

「お前の部屋で、いっぱい、やらしいこと、しよな」
「……アホ」

 和也がようやく笑った。

 この時俺は、不謹慎にも、和也が女だったら良かったのになぁ、なんて思ってしまった。こいつが女なら、結婚して、ずっと一緒にいれるのに。男同士って、なんか、切ない。



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