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結成秘話(2/4)

2020.12.01.Tue.
<1>

 後期のクラス替えで俺と三宅はBクラスになった。成績の良い奴からAクラス、Bクラス、Cクラスと割り振られていくので、正直Bクラスになったことに不満があった。

「ウケて絶対Aクラス行こうぜ」

 前向きな三宅の言葉に気持ちを切り替えてネタを作る毎日。三宅も武井と組んでいたときの名残りでネタを作ってくれるがどれもつまらない。なのでもう作らなくていいと止めた。俺は慎重に言葉を選んで勇気を出して伝えたのだが、三宅は「ほんとに作んなくていいの?」と俺一人に書かせることに罪悪感があるようで、自分のネタを否定されたことはまったく気にしていないようだった。むしろ肩の荷が下りたような顔をしていた。

 俺が作ったネタを見ながら三宅はよく笑った。否定から入る豊田とは大違いだ。相方が自分のネタを受け入れてくれることが、こんなに心強いことだとは知らなかった。

 ネタ合わせも三宅は積極的に時間を作った。俺の言うことを素直に聞き入れた。俺の意図を読み取ることも早かった。サボり癖があり、構成を変えようとする豊田だとこうはいかない。

 三宅とは馬が合った。話しだすと何時間でも喋っていられたし、お互いどちらかがそんな気分でないときは数時間黙って同じ空間にいてもぜんぜん苦にならなかった。空気と同等に扱いながら、そこにある存在に妙に安心した。コンビを組み出して三ヶ月ほどだが、昔からの知り合いのような気安さがある。

 それは三宅も同じ感覚でいてくれていると思いたい。三宅の図々しい一歩手前の遠慮のなさとか人懐っこい性格のせいで誰に対しても同じに見えるが、俺にだけは違うと自惚れでもなく思う。俺と対するときは身内に向けるのと同じ気楽さで気負いがないように感じる。俺もそうだからだ。

 今日もネタ合わせのために俺の部屋に来た三宅は、手洗いうがいをしたあとコンビニで買ってきた商品を断りなく冷蔵庫にしまい、勝手にテレビをつけて床に寝転がった。自宅のように寛いでいる。

「ミヤ、これ」

 プリントアウトした漫才台本を三宅に渡した。寝転がったまま目を通し、時折声を出して笑う。三宅の笑い声が好きだ。いつも自信をもらえる。

「やっぱ夜明のネタって面白いな」

 と起き上がってテレビを消した。俺の書いたネタはテレビに勝てたらしい。三宅は無意識のうちに褒めて伸ばすを実践する奴だ。こんなにいい奴なのに、俺の口車に乗ってピン芸人になると解散した武井は本当に馬鹿だと思う。

「夜明と解散して、豊田ってほんともったいないことしたよな」

 悪戯っぽく三宅が笑った。俺と似たようなことを考えていたらしい。

「俺にとってはありがたいけど。売れる未来しか見えねえもん」
「んなわけねえだろ。ほらネタ合わせするぞ」

 台本を見ながらネタ合わせ。この三ヶ月で修正してきたのもあるが、三宅は俺が指示しなくても俺の欲しい間でツッコミを入れる。豊田みたいに自分が目立とうともせず、「ツッコミ」の役割に徹したツッコミだ。力まずに、自然体で驚いてみせたり怒ってみせることがうまい。武井と組んでいるときの三宅の評価はぶっちゃけ悪かったはずだが、俺と組みだしてから「三宅、おまえうまいじゃないか」と講師も同期たちも驚いて見る目を変えた。

 武井は俺の言葉を信じたままピンで頑張っている。ネタにもなっていないめちゃくちゃなネタが一周まわってウケ始めてきたから、三宅を横取りしたと恨まれることもない。すべて順調に進んでいると思っていた。

 ネタ合わせも終わり、腹が減ったので食事のため外へ出た。昼間はまだ暑いときもあるが、夜になると急に冷え込んで寒い季節。ポケットに手を入れて夜の道を歩く。

「あのさ」

 ぽつりと三宅が言った。

「ん?」
「芽衣子ってどう思う?」

 芽衣子は養成所で同じクラスの女の子。大阪から友達と上京してきた子で関西弁のテンポのいい漫才をやるコンビのボケ担当。

「面白いと思うけど」
「じゃなくて、女として」
「は?」

 内心うんざりした。養成所は圧倒的に男が多い。男女比は9対1ほど。芸人根性で女を捨ててる奴もいれば、男漁りに来てるのかと思いたくなるような奴もいる。見た目のいい芽衣子は割りととっかえひっかえ男を変える印象の女だ。

 くっついたり離れたり好きにしてくれて構わないが、同期とは言えライバル関係になる奴らと恋愛しようなんて俺は思わない。

 まさか三宅の口からその手の話を聞かされるとは思わなかった。三宅も顔は悪いほうじゃない。童顔で性格も優しいから女の子たちからいじられることもある。警戒心を抱かせない。恋愛対象として見られていない。

「まさか芽衣子が好きなのか?」
「わかんない」
「なんだそれ」
「日曜に遊びに行こうって誘われた」

 瞬間的にイラッとした。何にイラついたのか。恋愛にうつつを抜かす三宅に? 三宅をそそのかす芽衣子に? 他人のことなんかほっときゃいい。俺がイラついたって仕方ない。

「良かったな。彼女欲しいって言ってたもんな」
「そういえば夜明、最近彼女とどうなんだよ」
「別れたよ、とっくの昔に」

 大学の子と少し前まで付き合っていた。養成所の授業や三宅とのネタ合わせを優先していたら振られた。前からあまり長続きしないほうだったが、養成所に通い出してから二ヶ月以上続いたことがない。マメに連絡できないし、喧嘩して泣かれても面倒だし、いまは風俗で事足りている。

「養成所のなかで同期と付き合うのってどう思う? 別れたときとか、気まずいよな」
「告白もされてねえのに、もう付き合う気かよ」
「いや、もし、万が一のときの話」

 顔を赤くする三宅を横目に見る。三宅が芽衣子と付き合うのは嫌だな、と思う。学校のなかで芽衣子とイチャついて俺との時間が疎かになるのは困るし、ネタ合わせしたくても芽衣子とのデートを優先されたらめちゃくちゃ腹が立ちそうだ。

「芽衣子とコンビ組みたいなら、いつでも解散するぞ」
「えっ、なんでそういう話になるんだよ」

 不安な顔をする三宅に溜飲をさげる。

「冗談だよ」
「冗談に聞こえねえよ」

 ほっとして前に向き直った三宅を盗み見る。今のは完全に八つ当たりだったな。

 ラーメンを食べて部屋に戻った。1人でやってても集中できないから、という理由で三宅は家に帰らず俺の部屋で大学の課題を始めた。俺は漫才台本の見直し。テレビもついていないから静かだ。

 三宅はさっきから何度もあくびをしている。満腹で眠たいのだろう。

「そろそろ帰れよ」
「うん」

 頷きはするが腰をあげない。

「ちょっと寝ていい?」

 言うと俺の返事を待たずにベッドに潜り込んだ。外出着のまま布団に入られたくなかったが、さっさと掛布団に包まって目を閉じたので言うタイミングを逃した。

「起きたらちゃんと帰れよ」

 呻き声のような返事がかえってくる。三分も待たずに、三宅は寝息を立て始めた。起こさないようそっと立ちあがりコーヒーを入れた。ネタ帳を見返しながら台本に修正を入れていく。

 一時間ほど作業して三宅を振り返った。顔をこちらに向けて熟睡中だ。終電のことを考えたらそろそろ起こしてやったほうがいいだろう。

「ミヤ、起きろ」

 肩を揺さぶる。「んん」と呻くだけで起きる気配がない。

「電車なくなるぞ」
「うん……」

 顔を顰めて目をこする。うっすら目を開けたと思ったら「今日泊まっていい?」と寝起きの声で言う。一瞬言葉に詰まった。

「布団がねえよ」
「一緒に寝ようぜ」

 寝惚けているのか、三宅はふにゃりと柔らかく笑うと掛け布団を持ち上げた。端に寄って、空いたスペースをポンポンと叩く。

 こんな狭いベッドで男二人で寝るなんて、普段の俺なら絶対断ってる。しかも風呂にも入らず寝るだなんて、横でいるのがかわいい女の子だとしてもありえないことだ。だが今日はなぜか、体が動いた。三宅の横に体を滑り込ませながら、疲れたから仮眠を取るだけだ、少し寝てから風呂に入って歯を磨けばいい、と誰に対してだか言い訳をしている。

「おやすみ」

 またふにゃっと笑って三宅は目を閉じた。無防備だ、と咄嗟に思った。三宅が無防備なのは今に始まったことじゃないし、相方の俺に無防備であってもなんら問題ない。なのに妙に危機感を持った。なんだかソワソワする。手の置き場に困る。息のかかる距離に三宅の顔がある。見慣れた三宅の顔。寝顔なんて何度も見てきたのになぜかまじまじ見てしまう。

 寝返りを打って三宅が腕と足を乗せてきた。さらに体が密着する。三宅の匂いがすぐそこにある。体温があがる感覚。

 横を向いて三宅の体を抱きかかえた。意外にも腕のなかにすっぽり収まった。甘えるように三宅が抱きついてくる。俺の胸に顔を擦りつけてスウスウと寝息を立てている。ぎゅっと抱きしめてみた。子供みたいに温かい体が心地よくて、いつしか俺も眠っていた。

w w w

 朝になってアラームの音で目が覚めた。三宅は俺にくっついたまま眠っている。その頬を指でつつく。鼻をなぞり、柔らかな唇に触れた。この口でいままでなにをしてきた? 何人の女とキスしてそれ以上のことをしてきたんだ?

 そっと布団を抜け出して風呂に入った。そこで一回抜いた。風呂から出ても三宅はまだのんきに寝ている。その寝顔を見ながら「こいつで余裕で抜けるな」と思った。相当溜まっている。そろそろ風俗に行って発散しないと、三宅相手に変な気を起こしてしまいそうだ。

「おい、ミヤ、いい加減起きろ」
「うえ?」

 寝惚け眼が俺を見上げる。「おっはー」と気の抜けた顔で笑う。三宅がかわいく見えるだと? 頭でも打ったか俺。怒りに似た熱いものがこみあげてきたがむりやり腹の底へ仕舞う。

 俺に叩き起こされた三宅は朝の支度を済ませると、昨日冷蔵庫に入れていたサンドイッチを食べて「またな」と帰って行った。なにあいつ。最初から泊まる気だったのか? これ案外イケるのか? おい待て。イケるってなんだ。

 今夜すぐにでも風俗へ行ったほうがよさそうだ。

 w w w

 週末に芽衣子と遊びに行った三宅から帰宅した夜に愚痴の電話がかかってきた。2人きりだと思っていたのに他に男女数人がいて、男たちは単なる財布要員だったらしい。

『楽しかったからいいけど!』

 と強がって言う。俺はその結果に安堵した。養成所に通えるのも残り数か月、時間を無駄にしたくない。

「風俗行って慰めてもらえ」
『やだよ! おまえと一緒にすんな。俺風俗ってなんか無理なんだよな。いきなり知らない人とそういうことできるもんなの?』
「知らない人だから即しゃぶってもらえるんだろ」
『見ず知らずの女の子にちんこ出せねえわ』

 三宅がそんなことを言うからうっかり想像してしまった。腹の奥がズクンと重くなる。「じゃあ俺にだったらちんこ出せるのか?」危うく訊いてしまいそうだった。絶対妙な空気になるやつだ。

 適当に心にもない慰めの言葉をかけて電話を切った。



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コメント
ノビの続編、
嫁に来ないかの続編、
コンビ愛の続編、



祭りですか?
めっちゃ嬉しいんですけど(*´▽`*)♪



お返事
そめお様

「ピーキー」の更新をしているあいだにせっせと書いていたものをいま放出中です!
続編ばっかりだわ、と反省していたんですが、嬉しいと言ってもらえて良かったです!書いて良かった!
コンビ愛続編が終わったら、つぎは旦那さん続編(完結編?)を更新予定です!もう昼下がりは終わったのだ…



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