FC2ブログ

結成秘話(1/4)

2020.11.30.Mon.
<「コンビ愛」→「相方自慢」>

※エロなし、養成所時代

 お笑い養成所の授業でもっとも重要なのが、ネタ見せの授業だ。

 俺たちの直前にネタ見せをしたコンビが可哀そうなくらいダダ滑りした。いや、滑ってもいないかもしれない。ボケとツッコミが明瞭じゃなくてただ世間話を聞かされているだけのような漫才。ツッコミの奴の声がいいから聞いてられるだけで、はっきり言って時間の無駄。

 講師にそれを指摘されたあと2人は捌けて行った。ボケのほうはなぜか自信満々の足取りで、ツッコミの方は肩を落として足取りも重い。ちゃんと状況が理解できているのはツッコミの奴だけらしい。名前は確か、三宅。

 授業が終わり、教室を出る。さっきのネタ見せの反省会のために相方の豊田を喫茶店に誘った。豊田は同じクラスの連中とこのあと遊びにいく話をしていたが、渋々やってきて「ウケたからいいじゃん」と不満そうに口を尖らせた。

 確かにウケはしたけど、それは俺たちの前にやった奴らが酷すぎてマシに見えてただけだ。先生からも形にはなってるがインパクトもないと言われたじゃないか。

「あ、そーだ、夜明、俺ボケ辞めたいかも」
「は?」

 豊田のいきなりの発言に面食らう。

「お前がボケやりたいって言ったんだろ」
「なんかさ、笑わせてるって感じじゃなくて笑われてるって感じがしてやなんだよ。ツッコミのほうがカッコよく見える。ていうか、わざとそういうネタ書いてない? もっと俺のキャラ際立たせて欲しいんだよなあ。自分でネタ書いてるからって自分ばっかおいしいとこ取りするのってずるくない?」

 馬鹿な主張に言い返す気力も湧かない。養成所に入って早々に「俺とコンビ組もう」と誘ってきたのは豊田のほうだ。豊田は学校では笑いを取れた人気者だったかもしれないが、話を聞いてみれば他人をイジるお笑い芸人の真似で笑いを取っていただけで、自分ではボケられずネタも書けない。

 自分が笑われることが許せない無駄に高いプライドは、この仕事には邪魔でしかない。ハズレの奴に掴まったとすぐ後悔した。とりあえず自分のプレゼンのためにコンビを続けてきたがそろそろ限界かもしれない。これ以上時間を無駄にはできない。

「じゃあお前がツッコミでネタ書けよ。それが出来ないなら解散な」
「俺書けないの知ってるじゃんかよ。お前のそういうとこほんとずりーわ」
「書けねえくせに文句言うほうがよっぽどずりーだろ」

 豊田の顔つきが変わった。「じゃあもう解散でいいよ!」と近くに置いてあった備品を足蹴にして去って行った。合流した先のクラスの奴らに愚痴っているのが聞こえてくる。「ケチ」だの「ズルイ」だの、ガキみたいな単語を聞き流してため息をついた。

 養成所を出て一人で近くの喫茶店に入った。そこにさっきダダ滑りした可哀そうな2人を見つけた。

「たけちゃんも一緒に考えてくれよ。俺一人じゃネタ書くの厳しいよ」

 と頭を抱えているのが三宅。

「だってさ、あらかじめ作られた笑いってやってる俺たちがつまんなくない? ああいうのって即興のべしゃりで笑わせるのがプロって感じするっしょ」

 楽観的を通りこして馬鹿なのが武井。2人は養成所に入ってきたときにはすでにコンビを組んでいた。自己紹介の時に高校が一緒の友達だと言っていた気がする。仲が良くて気が合うから一緒に芸人になろうとしたはずなのに、この2人もうまくいっていないようだ。

「俺たちはまだプロじゃないってば」

 三宅は疲れたように項垂れた。

「そもそも漫才が合わないな、俺には。コントしよう! 即興コント! リズムネタとかも入れたいな。子供ウケ良さそうだし」

 三宅は律儀に武井の思いつきをノートにメモしている。何でも言いなりで甘やかすから、この馬鹿はなにも学ばないんだ。

「あ、俺バイトの時間だから行くな! 大まかなコントの設定考えといてくれよ。あと時間あったらリズムネタも何個か」
「たけちゃんも考えろよ」
「考えとくって!」

 結局全部を三宅に押しつけて武井は店を出て行った。その直後に、三宅は特大の溜息をついた。こいつも相方で苦労しているらしい。席を立ち、さっきまで武井がいた席に座った。三宅が顔をあげ、俺だとわかると「なんだ、夜明か」と気の抜けた顔で言った。

「武井の馬鹿、あれ絶対何もネタ考えてこねえぞ」
「うーん、だろうな」

 と苦笑する。

「お前も相方に苦労してるな。なんであいつと組んだんだ?」
「高校が一緒で、2人ともお笑い好きだったから。なんかノリで行っちゃう?みたいになって。まさか俺が全部ネタ書かされるとは思わなかった。夜明のとこもうまくいってないの? さっきのネタ見せ、めっちゃウケてたのに」
「さっき解散した」
「えっ! なんで!」

 とびっくりした顔をする。演技でもなくこいつは素で表情が豊かだ。さっきからいろんな表情を見せている。

「自分はネタ書かねえくせにああしろこうしろってうるさいからな。ボケがいいっていうからやらせたら、ツッコミのほうがかっこいいからツッコミやりたいとか言い出すし」
「ぶはっ、ツッコミがかっこよく見えるのは夜明だからだろ。豊田がやってもかっこよくなんないって」

 唖然とする俺の前で三宅は平然と言い放った。俺は自分の顔がそこそこ良い自覚があった。こんなことで謙遜したって仕方がない。学生時代はモテたし、大学でも養成所でも女の子から誘われることは多い。男からは顔がいいと得だと嫌味混じりに言われることはあっても、三宅みたいに少しの悪意も嫉妬もなく褒めてくれることは珍しい。

「俺のことかっこいいって思ってくれんの」
「うん、みんな思ってるだろ。夜明はオーラ違うもん。すでに芸人って感じする。ネタも夜明が書いてんだろ。ちゃんと形になってる。俺のネタとは大違い。目の付け所も他と違うし、ワードチョイスもセンスあるし、本当に面白い奴って夜明みたいな奴のことなんだろうなって実感したもん。かっこいいよ」
「べた褒め。ありがとう。照れるわ」

 頬杖をついて顔の火照りを隠した。見た目のことを言われていると思っていた自惚れも恥ずかしかったが、芸人としてお笑いを褒められたことがなにより嬉しかったし、こんなに混じりけなしにまっ正面から褒められて単純に照れ臭かった。三宅はプラスの感情を言葉にして相手に伝えることに躊躇がない。

 きっと性格がいいんだろう。だから三宅は同期の連中によくいじられている。構わずにいられないタイプだ。素直で人の言うことも全部飲みこむ。俺とは正反対。相方にはうってつけかもしれない。

「なあ、三宅」
「うん?」
「武井と解散して俺とコンビ組まない?」
「ええっ!!」

 店中に聞こえる大声。俺は苦笑しながら自分の口に人差し指を立てた。三宅が口を塞ぐ。テーブルに身を乗り出したら、三宅も同じように体を前に傾けた。きっと無意識のミラーリング。心配になるほど他人にたいして心を開きすぎだ。

「俺がボケ、お前がツッコミ。ネタは俺が書く。俺とコンビ組もう」

 囁くように言うと、口を塞いだまま三宅は首を横に振った。予想はしていたが、振られたショックは少なからずある。

「だって俺……武井がいるし……養成所に誘ったの俺だし……解散とか無理だよ」
「武井と組んでても一生売れないぞ」

 三宅は目を伏せた。薄々自分でも感じていたのだろう。

「今すぐじゃなくていい。武井とは無理だって三宅が思ったら、その時は俺に声かけてくれ」
「そんなのいつになるかわかんないのに」
「俺もまた相方探すから、お互いのタイミングが合えばってことで」

 何度か目を瞬かせたあと、三宅はコクンと頷いた。タイミングの合う日は案外早く来る気がする。

 w w w

 俺と豊田がコンビ解消したことはクラス全員が知っているようだった。ピンでやってた奴からコンビを組もうと言ってきたが断った。トリオでやろうと誘ってきたコンビもいたが同じく断った。やりたいネタの方向性が違うし、コント一本でやっていくつもりもない。それにもう少し三宅を待ちたかった。

 一週間ぶりにネタ見せの授業で三宅たちの姿を見た。三宅はあのあと即興コントの設定を考え、リズムネタも作ってきたらしいが、ただふざけているだけにしか見えないなんとも見苦しいものだった。当然講師の顔つきも悪く、お前らにはまだそんな技術はないのだからまずは基本からと厳し目に言われて三宅は肩を落としていた。

 三宅の声も動きも表情も悪くはない。ネタ次第では見られるものになる。はずだ。

 授業が終わってすぐ、三宅はちゃんとネタ合わせしようと武井に食い下がっていたが、「このあとバイトだから!」と振り切られていた。こいつは何をしに養成所へ来たんだと不思議で仕方ない。解散したあと同期の奴らと遊びまわっている俺の元相方の豊田も最近は授業をサボり気味だ。

 エレベーターを待ちながらスマホをいじっている武井の横に並んだ。

「武井はさ」
「えっ」

 いきなり話しかけられて驚いたように俺を見る。

「武井はコンビより、ピン芸人のほうが向いてるんじゃないか。そっちのほうがお前の個性が活きると思う」
「そ、そうかな? でも俺ネタ書けないんだよ」
「今日のコントよかった。1人で自由にやるほうが伸び伸びやれていいんじゃないか。三宅は良くも悪くも型に囚われてて、お前みたいな破天荒さとか自由さがないだろ。絶対お前はピン芸人向きだって」
「まじでそう思う? 夜明に言われたらめっちゃその気になっちゃうんだけど」

 戸惑いながらも武井の頬が緩み始めるのを見た。単純な男で助かる。

「お前は唯一無二の芸人になれると思う」
「ちょっと考えてみるわ」

 エレベーターに乗りこむ武井を見送った。一週間後。

「夜明ってまだ相方決まってない?」

 三宅から声をかけてきた。



スモーキーネクター

関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する