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続続続・嫁に来ないか(1/5)

2020.11.24.Tue.
<「嫁に来ないか」→「続・嫁に来ないか」→「続続・嫁に来ないか」>

※地味暗い、微エロ

「なんですかこれは」

 中田さんが俺の前に投げ出したのは週刊誌。見開きで白黒の写真。そこに写るのは、ちょうど店から出てきた俺とグラビアアイドルの神戸アリサちゃん。大きい見出しには深夜の密会デート!!という文字。

 これが発売されたのは今日。俺が中田さんに拉致されたのはその夜、というか数時間前。中田さんの行動力には毎回驚かされる。

「僕というものがありながら」

 ソファで足を組んで中田さんが俺を見下ろす。俺はといえば、中田さんの家に連れこまれてすぐ床に正座させられた。仮にも長年好きだった相手を床に正座させるか?

「っていうかあんた、俺のなんでもないだろ」
「恋人ですよ」
「ちげーわ」

 否定はしたが、実際俺たちの最近の付き合い方は恋人のそれと変わりがない。中田さんは毎日マメにメールを送ってくるし、俺も毎回無視し続けるのは悪い気がするから三日に一度くらい返信している。週一で中田さんは俺に会いにくるし、会えば必ずセックスする。

 自分の畑で収穫した季節の野菜を持参して手料理を振る舞ってくれるし、気付けば部屋のあちこちを掃除してくれているし、翌日のスケジュールを聞きだしてアラームセットしてくれたり、ゴミ出ししてくれたり。帰るときは名残惜しそうな顔で「また来ます」と俺にキスしてから帰る。恋人気取りというより嫁気取り?

 尽くされるのは快適だし、ぶっちゃけセックスも気持ちいいし、ご飯は旨いが、拒否したらどんな暴走をするかわからないから好きにさせてきただけで、恋人になったつもりはない。

 浮気アプリで常に監視されていると思うとうかうか遊びに出かけられないから、トラブルやスキャンダルを避けたい今の俺にとってはちょうどいい足枷にもなっていた。

 最近は俺を支持してくれるファンの平均年齢があがってきているらしい。つまり世間の認知度、好感度があがっているということだ。

 アイドルデュオとしてデビュー後、たった一年でメンバーの小東が大麻所持で解雇、デュオは強制解散して長らく崖っぷちだった俺にしては上出来だ。このままいけば、帯番組の司会も夢の話じゃなくなるかもしれない。そんな野望を抱いていた俺にとって力を持ってる業界の人間とのコネは何より優先されるものだ。

 この写真を撮られたのは、プロデューサーの古賀さんに食事に誘われた日だった。準レギュラーで使ってもらっている番組のプロデューサーだ。断るわけがない。そこには後輩アイドルの奏斗もいた。三人で楽しい食事。そこに突然現れたのがアリサちゃんと男性マネだった。

 だからこの見出しは大嘘だ。俺とアリサちゃんの他に古賀さんと奏斗、アリサちゃんのマネもいた。一部分だけを切り取ってわざと事実を歪曲したゴシップ記事。でもそれを間に受ける人は大勢いる。せっかく上向いてきた俺の運気と好感度。帯番組の司会という俺の野望がこんな記事のせいでまた遠のいた。一番頭にきてるのはほかならぬ俺だ。

「こんなもの信じるなんて、あんた意外に詐欺に引っかかりやすそうだな。事実なわけないだろ。他にあと3人いたよ。それは写さないように写真撮ってんの。で適当な見出しつけりゃ信じる奴がいるだろ、あんたみたいに」
「2人きりじゃなかったって、証明できないですよね」
「他に誰もいなかった証明、あんたにできんの?」

 できるわけがない。中田さんはむっと眉を寄せた。

「日付を見てください。この日は僕の誘いを断った日ですよね。大事な打ち合わせがあるからと」

 指摘に内心ぎくりとなる。

「打ち合わせだって誘われたのはほんとだよ。結果的にただ食事しただけだったけど、これも大事な仕事にはかわりない。農家のあんたには理解できないだろうけど、うちの業界じゃコネとかツテがものすごく大事だし重要なんだよ。それもわからないあんたに、仕事のことまで口出しされたくない。だいたい俺が誰と会おうがあんたに関係ないし、報告の義務もないよね」

 どうして仕事帰りにいきなり拉致されて、こんな取り調べをうけなきゃいけないんだ。しかも記事は事実無根。恋人でもない中田さんにとやかく言われるいわれはないし、俺も弁解する必要なんかない。まったく馬鹿馬鹿しいし、時間の無駄だ。

 どうせ今日もやることやるんだ。だったらさっさと終わらせて眠りたい。

「もういいだろ、面倒臭い。風呂借りていい? 俺明日朝から仕事だから終わったら家まで送ってよ。ここまで連れて来たのあんたなんだし」

 話は終わりだ。立ちあがろうとしたら足が痺れてもたついた。膝に手をついてヨロヨロ歩きだす。

「帰ってください」
「は?」

 中田さんを見たらプイと顔を背けられた。

「関係ないとか、よくそんなひどいことが言えますね。これを見て僕がどんな気持ちになったか少しは考えてくださいよ。どうして突き放す言い方しかできないんですか。僕はいつも大澤さんのことを第一に考えているのに」
「そんなこと頼んでないし、だいたい俺、あんたの過干渉にはだいぶ目を瞑ってるつもりだけど」

 ムキになって言い返すと、中田さんは目を見開いて俺を見た。

「僕がしてること全部、迷惑だってことですか」
「当たり前だろ。部屋の掃除も飯作るのもあんたが勝手にしてることだ。第一、あんた俺にしたこと忘れた? 弱み握られてるから仕方なく合わせてるだけで、俺が望んだことなんかひとつもない。あんたが一方的に俺に付き纏ってるだけだろ。勝手に浮気アプリ入れて待ち伏せしたり、動画で人のこと脅したり。いつも恋人にそんなことしてんの? 今までまともに人と付き合ったことってある? 毎回強/姦して弱み握ってむりやり付き合わせてんじゃないの?」

 中田さんが傷ついた顔をする。それを見て俺は溜飲を下げる。

 これまでの鬱憤が堰を切ったように口から溢れた。アイドルデビューしてすぐ業界から干されかけ、数年経ってやっと仕事をもらえるようになったが、それもいつ絶えるかわからない細々としたものばかり。歌も出せない、ドラマにも滅多に呼ばれない。バラエティのワンコーナーがせいぜい。ロケばかりでやっと番組収録に呼ばれても後輩のバーターやサブばかり。

 アリサと写真を撮られて一番悔しいをしているのは俺だ。もっと警戒すべきだった。慎重になるべきだった。一番悔やんでいるのに、事務所の人間から一方的に責められて、どうして中田さんにまで責められないといけないんだ。

 この写真を撮られた俺は事務所に呼び出され、そこで説教された。大麻使用で引退した小東のことまで持ちだされ「懲りないのか」とさも俺が悪いような言い草だった。奏斗のイメージに疵がついたらどうしてくれるんだとも言われた。誰も俺を庇ってくれない。守ってくれない。事務所内での俺の立場は、小東の一件から何もかわっていないと身に沁みてわかった。

 中田さんが俺を責めるのは嫉妬だとわかっていても、いつもみたいに聞き流せなかった。中田さんくらい、俺の味方をしてほしかった。だからこれは完全なる八つ当たりだ。

「黙ってないでなんとか言えよ、それとも図星だった?」
「僕のことそんな風に思ってたんですか。あんまりです」
「よく被害者ヅラできるな。自分のしたこと忘れたのかよ。あんたに怯えるのも、振り回されるのも、なにもかもうんざりだ。頼むから俺の前から消えてくれよ」
「本気で言っているんですか?」
「ずっと本気だけど」
「……わかりました。もう僕からは会いに行きません。大澤さんが会いに来てくれるまで待ちます」
「そんな日、永遠にこないよ」

 意地の悪い心境でせせら笑う。中田さんはソファから立ちあがると尻ポケットからスマホを出した。

「見ててください」

 と言うとスマホを操作し、フォルダから例の動画と画像を呼び出した。またこれで俺を脅して言いなりにさせる気かと思ったが違った。中田さんは1つ1つを俺の目の前で消去していった。他に残っていないことを確かめさせると俺と目を合わせた。

「全部消しました。大澤さんを脅す材料はもうありません。だから安心してお帰りください」

 と玄関の方へ手を伸ばす。

「ほんとに帰っていいの?」
「もちろんです」
「一人で?」
「僕なんかと狭い車に2人きりなんて嫌でしょうから」

 東京からここまで車で二時間弱。時間はすでに22時を過ぎている。田んぼと畑と民家に囲まれたこの場所で簡単にタクシーがつかまるわけない。駅までどのくらい距離があるか見当もつかない。そんな状況をわかっていながら中田さんは俺を放りだそうとしている。

「あんたほんと性格悪いな」

 鞄を拾いあげ玄関へ向かう。あとをついて来るくせに中田さんは俺を引き止めない、何も言わない。靴を履いて玄関の戸を開けても、中田さんは冷ややかな顔のまま一言も喋らない。それどころか戸が閉まった直後、ガチャッと鍵までかけた。俺も感情に任せて言いすぎたかもしれないが、ここまで連れてきたくせに追い出すか? この仕打ちに体がブルブル震えた。もちろん、怒りでだ。

 今後一切、中田さんからの連絡は無視してやる。会いに来たって相手してやるもんか。

 スマホで地図を見ながら駅へ向かい、なんとかタクシーをつかまえ帰宅した。



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