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日常茶飯事(4/5)

2020.11.14.Sat.


 翔の部屋のインターフォンを鳴らすと、中から人の動く気配があった。近づいてくる足音のあと、扉が開いた。

「数矢さん、来てくれたんすね」

 と言う翔はパンツ一丁。

「ちょっとだけ、五分だけここで待っててください」

 言うと扉を閉める。離れていく足音のあと、中から微かに話し声が聞こえてきた。他に誰かいるらしい。パンツ一丁だったということはもしや……。電話してから来ればよかった。いや、「待ってます」と言っておいて誰か連れこむあいつのほうが悪い。なんにせよタイミングは最悪。

 とりあえず立ち去ってあとで連絡入れておけばいいかと思ったとき、勢いよく扉が開いて中から女の子が出てきた。真っ赤になった顔で軽く俺を睨みつけるとカツカツと靴を鳴らしながら通路を歩いて行った。

「ごめんごめん、お待たせ。入って」

 ズボンだけ穿いた翔が扉を押さえながら手招きする。

「悪かったな、連絡すればよかった。ていうかおまえ何考えてんだ。女連れこんでたならそう言ってくれれば帰ったのに」
「帰る家もないくせに何言ってるんですか。いいから入って」

 俺の腕を掴み強引に中に引っ張り込む。パンツ一丁の翔や、髪が乱れた女の子を見たあとなせいか、部屋の空気が籠っているような気がする。俺に断られたからすぐ別の女を呼んだんだろう。義理立てする関係でもないから、俺には関係ないけど節操というものがないのか。

「さっきの子は俺が呼んだんじゃないですよ。会いたくなっちゃったって、急に来たんです」
「別に何も聞いてないだろ」
「飯に誘ったくせに女連れこんだのかって顔してましたよ」

 あいかわらずエスパー並みに人の顔を読む。

「先に風呂入りますか?」
「いや、飯だけでいい」

 また人の考えを読もうとしているのか、翔は俺の顔をじっと見つめた。

「じゃあ、温めなおすんで、手洗って待っててください」

 床に落ちていた服を着ると翔は台所に立った。慣れた様子で食事の用意を始める。なにを言われるかと身構えていたのに、肩透かしを食らった気分だ。

 鞄を廊下に置いて手を洗った。俺はまた翔に引き止めるんじゃないかと思っていた。前みたいにヤラせろと迫られるもんだと決めつけていたが、女に不自由しない翔が俺にこだわる理由がなかった。自分が自意識過剰みたいで少し恥ずかしい。でもそうなると、翔がなんの目的で俺に連絡してくるのかわからない。知りあって日も浅い。寝取った女の彼氏を寝取るような男の考えることなんて、俺みたいな平凡な人間にはわからない。

「なにか手伝おうか?」
「じゃあこの皿持ってってください」

 渡された二つの皿。トマトソースで煮込まれたたくさんのキャベツと鶏肉。想像していた以上に美味そうだ。顔も良くて、ちんこでかくて、セックスもうまくて、料理もできる。そりゃモテるわ。

 食事の用意が整い、翔が「乾杯」と俺にビールを勧めてくる。一本だけなら、と乾杯に応じ口をつけた。冷えててうまい。翔が作った鶏のトマト煮も美味しかった。箸で鶏肉が簡単に崩れるほど柔らかく味も良く染み込んでいて、さっぱりとしたトマトソースなのに充分おかずになって箸が進む。一緒に煮込まれたキャベツがまた美味い。翔に勧められるままおかわりをしていた。

 満腹になってご馳走さまをして、気付いたらビールは3本目。いったいいつの間に。

「風呂入っちゃいますか?」

 食事の後片付けを済ませた翔が、台所から戻ってきて言った。

「いや、いい。ご馳走さま、美味かった」

 膝に手をあて立ちあがったらフラついた。

「酔ってるじゃないですか。今日は泊まって行ったらどうですか? どうせ今までネカフェで寝泊まりしてたんでしょ。たまには足伸ばしてゆっくり寝たいんじゃないですか? ベッド代わってあげますから、そっちで寝てくださいよ」
「いやいや、そんな口車に乗るか。お前になにされるかわかったもんじゃない」
「腹満たして酒も飲ませたのに、警戒心強いなあ。今日はなにもしませんから安心してくださいよ。信用できないって顔してるけど、俺、意外と約束守る男なんですよ」

 確かに前回、絶対手を出してきそうなのにこいつは何もしてこなかった。やっぱり俺が自意識過剰なだけなのかもしれない。男が男相手に自意識過剰だなんて恥ずかしすぎる。

「ほんとに信用していいんだな?」
「もちろん。今日は安心して眠ってください」

 嘘くさい翔の笑顔。でもこいつはこう見えて無茶なことはしない。相手から言質を取るまでは手出ししてこない。信用しろと言うなら、してもいいのかもしれない。ぶっちゃけ満腹になって酒も飲んだから今からネカフェを探してウロウロするのは億劫だった。それに時間も遅くなったからフラットシートの座席はもう空いてないかもしれない。座椅子タイプの部屋で一晩寝るのはきつい。

 俺の心の迷いなんて翔には筒抜けなんだろう。笑みを濃くして「強情はってないで」と俺の体を反転させ、背中を押した。目の前のベッドにつんのめる。どこの誰が触ったのかわからないブランケットに包まって、隣のブースの物音やいびきに眠りを妨げられることもなく、手足を思いきり伸ばせるベッドに抗う気力はいまの俺には残っていなかった。

「じゃあ、ちょっとだけ、一時間だけ横になる」

 ベッドに寝転がり、目を瞑ったのが間違いだった。



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コメント
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お返事
はるりん様

本当に駄目な主人公ですよw
ここはBLの世界なんだから攻めの部屋で寝たらだめでしょうが!って言いたい。なんかもうお約束のオチは見えてますけども、良かったら今日の完結まで見届けてやってください^^

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