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日常茶飯事(3/5)

2020.11.13.Fri.


 今日も翔と一緒に家を出て、「行ってらっしゃい」と手を振る翔と駅で別れた。

 昨夜の宣言通り、今朝は翔が朝食を作った。フレンチトーストなんて洒落たものが出てきた。キッチンには一通りの調味料や調理器具が揃っていたから多少は料理をする奴なんだろうとは思っていたが、実際にやるのはほとんど連れこんだ女だと高を括っていた。まさかこれほどとは。

「両親死んで親戚の家に引きとられたって話はしましたよね。そこで虐待されてたって。家事もほとんど俺がやらされてたんでこのくらいの料理ならできるんですよ。当時はむかつくし嫌だったけど、一人で暮らし始めたらあの頃の経験が役に立ってるんですよね。朝これ出してあげると女の子たちすごい喜んでくれるんですよ」

 重い話をさらっと言われて反応に困る。人の彼女を寝取ったこいつを心底憎めないのはこの境遇に同情しているせいかもしれない。

 会社についてからスマホをチェックする。真由からは相変わらず音沙汰なしだ。部屋の解約や家具の処分やら、本当なら話しあって決めるべきことはたくさんあると思うのだが、向こうが俺の顔も見たくないと言うならもう全部任せてしまおう。

 昼休みはコンビニで弁当を買い会社のデスクで食べた。そのあいだに即入居可の部屋を探す。会社からは近すぎず遠すぎず。交通の便がよくて、駅からそれほど離れてない場所。できるだけ静かで、でもコンビニやスーパーやドラッグストアが近くにあるとありがたい。駅周辺に飲食店があるとなおよし。欲を張ればはるほど検索結果の件数が少なくなる。見つかっても家賃が高かったり、部屋が狭すぎたり。今まで2LDKに住んでいたからワンルームは手狭に感じてしまう。最低でも1DKは欲しい。家賃は管理費みで10万以下。

 探していたら翔からメール。

『今日何時に終わります? 俺ちょっと遅くなりそうなんで、どっかで飯食って時間潰しといてくれませんか』

 今日も翔の家に行く前提の内容。荷物は受け取ったしもう行く必要はない。

『今日はネカフェに泊まる。お前の家には行かない』

 送信したらすぐ返事がきた。

『了解』

 ずいぶんあっさりしてやがる。また泊まって行けと粘られると思っていたのに。こういう引き際を心得てるところがモテる秘訣なのかもしれない。参考にしよう。

 もう昼休みも終わる時間だった。何件か資料請求と内見の予約を入れておいた。

 ※ ※ ※

 真由に追い出されてから五日目。コインランドリーで洗濯が終わるのを待ちながら不動産屋からもらった資料を見比べる。駅から少し遠いが一番家賃が安いAか、真下がコンビニでスーパーも近いBか、家賃は高いが新築で収納も充分なCか。非常に悩ましい。

 仕事で疲れた日に長い距離を歩くのは嫌だ。新築で綺麗な方がいいが家賃が予算オーバーしている。駅からそんなに遠くもなく利便性もよくて家賃も予算内のBが最有力候補だが、如何せん、最寄り駅が翔と同じ。真下のコンビニは以前、翔に頼まれた牛乳を買ったコンビニだ。朝な夕なにあいつの顔を見たくない。こんなことで悩むくらいなら、あいつの家の場所なんか下手に知りたくなかった。それもこれも翔が真由を寝取るからだ。

 翔からはどういうつもりか知らないが一日一回メールがくる。真由が部屋を解約しただとか、真由が俺のことを最低くそ野郎だと同僚に話しているだとか、知りたくもないことを教えてくれる。嫌がらせだろうか。返事はしないで放置だ。

 乾燥が終わった着替えを鞄につめていたら翔から電話がかかってきた。今日はメールではなく電話だ。ちょうどいい、余計な報告は必要ないと言っておこう。

「なんだ」
『数矢さんいまどこ?』
「……どこだっていいだろ」
『飯どうすか。急に予定空いちゃって』
「振られたのか」

 いい気味だ。

『そうなんですよ。かわいそうでしょ。あ、真由ちゃんじゃないですよ。あれっきり真由ちゃんとは何もしてないですから』
「うるさい」
『どうせ数矢さんも一人でしょ。だったら一緒に飯食べましょうよ。俺作りますよ。そろそろ家庭の味に飢えてるんじゃないですか? リクエストくれたら作りますよ』

 真由と同棲したばかりの頃を思い出した。あの頃は真由も俺に電話をして、帰りの時間と夕飯のリクエストを訊いてくれたもんだ。半年もしたら電話もしてくれなくなったが。

「お前、忘れてないか? 俺はお前が寝取った女の彼氏なんだぞ。普通気まずくて連絡なんかできないだろ」
『俺そういう感覚ないんですよね。それに数矢さんとは1回ヤッちゃってるし、遠慮する仲でもないかなって』
「遠慮しろ。飯は行かないし、もう妙な報告もいらないから」
『それじゃ数矢さんとの繋がりなくなっちゃうじゃないですか。そんな寂しいこと言わないでくださいよ。俺数矢さんのこと気に入ってるのに』

 男相手にもこういうことが言えるこいつは真性の人たらしなんだろう。それかただ面の皮が厚いか。

「じゃ、そういうことだから。もう連絡してくるな」
『鶏のトマト煮作ろうと思ってるんで、気が向いたら来て下さいよ。待ってますから』
「行かねえよ」

 通話を切り、コインランドリーを出た。飯の話をしたからか腹が鳴った。飲食店の看板を見ながら歩くがどれもいまいちそそられない。頭にあるのは鶏のトマト煮。もう鶏のトマト煮の舌になっている。近い味といえばトマトソースを使ったパスタだがそういう気分でもない。煮込まれてホロリと崩れる鶏肉が食べたいのだ。

 またぐうと腹が鳴った。翔の言う通り俺はいま家庭の味に飢えている。真由と同棲している間、帰りの早いほうが料理当番という決まりだった。料理は嫌いじゃないが、帰宅して夕飯の匂いのする部屋に入る瞬間が好きだった。自分で作ったものより、真由に作ってもらった料理のほうが何倍もおいしく感じた。俺のために手間暇かけてくれたということが単純に嬉しかった。

 洋食屋を見つけてメニューを覗きこむ。どれも美味そうだが鶏のトマト煮はない。またぐうと腹が鳴った。鶏のトマト煮が食べたい。誰かと一緒に食事をしたい。

 誘われたから行ってやるだけだ。来た道を引き返し、駅へ向かった。





これ書いてるときに私も鶏のトマト煮を食べたくなりレシピ検索して作ってみたんですが思ってた味と違う…となりました。
料理はねー、向き不向きがありますよ。

こないだ読んだBL漫画で、借金肩代わりして同居させるとか、借りたお金を体で返す、今度は俺が払うから抱いて!みたいなのが次々出て来て、過去に自分も似たようなの書いていたのでパクったと思われているんじゃないかとあわわわあわわわと焦りました。まあどこにでもある内容っちゃ内容ですけどね。でも一冊でこんだけ出ると泡吹きそうになりますよ…。
一応念のために、パクりはしてないです
ネタ元とか、オマージュです!みたいなのはちゃんと明記するようにしています。海外ドラマのこの一言が使いたかったとか、ひみつ○アッコちゃん見て思いついたとか。
あ、でも、あえて伏せてるものも実はあります。わかる人が見ればすぐわかる種を思いっきりバラ撒いてます。名前からしてそうじゃん!みたいな。「アレでしょ?」って言ってもらえる日を待ってるんです。「そうなんです私めちゃくちゃ好きだったんです!」って言いたいだけ。生ものなので先入観なしで読んでもらうほうがいいかなとも思ったり。まだ誰からもご指摘がないのが寂しいですが待ち続けます
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