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宇宙人の恋(1/4)

2020.11.01.Sun.
<前話「ズッ友だょ」>

 書き上がった新作を持って藍田の部屋を訪ねたら電話中だった。慌てて受話口を塞いだ藍田が「しーっ」と口に人差し指を立てる。なので静かに部屋に入り、鞄を下ろして床に座って電話が終わるのを待った。

「ごめんごめん、なんだっけ。あ、違う違う、テレビだよ、もう消した。……えっ、うん……いま? 本気? もう、なに考えてんだよ、ばか」

 藍田がチラッと俺を見る。怪しい目付き。小さく笑ったかと思うと、藍田はズボンとパンツをずり下ろし、性器を出して扱き始めた。

「んっ、はあっ、あっああ……」

 耳にスマホを当てたまま、俺が見ている前で服の中に手を入れ自分で乳首も弄る。突然のことにぎょっとしたが、すぐ我に返って目を逸らした。こいつは性に奔放な男だ。好きでもない男と平気でセックスができる。この前は俺ともセックスした。

「ああっ、気持ちいいっ、もう俺の手ベトベトだよお、触ってよ、ねえ、俺のちんぽ触って、亮くんのちんぽ俺にしゃぶらせてよお」

 ベッドの壁にもたれながら藍田は自慰を続ける。新しい男は亮という名前らしい。藍田はどこで見つけてくるのかすぐ新しい男ができる。そしていとも簡単に深い仲になる。そして大抵、うまくいかずにすぐ別れる。少し前に付き合っていた既婚者には、男だからという理由で振られてずいぶん荒れた。肉体関係から入るのではなく、お互いよく知りあってから付き合えばいいと俺は思うのだが、藍田に言わせれば、相手のことを知りたいならセックスが一番手っ取り早いらしい。

 電話の相手の亮くんともすでに経験済みだろう。

「あっああっ、亮くん俺もうイッちゃうよおっ、イクゥ、イクッ!」

 藍田は俺をじっと見据えたまま扱く手つきを早くした。俺としてはあまり見たくない光景なので視界に入れないよう、持ってきた原稿用紙をパラパラ見直した。

 終わったらしく、藍田はぐったり四肢を投げだした。緩慢な動きでティッシュを取って後始末をし、亮くんとやらに「今度はちゃんと亮くんのちんぽハメてよ、愛してる、またね」と赤面ものの台詞を言って通話を切った。

「ごめんごめん、彼氏がさ、1人エッチの声聞かせろって言うからさ」
「今度の男は悪趣味だな」
「そう? 男ならたいてい一回は相手にねだるもんじゃない? 井上も好きな子と電話してたらエッチな声、聞きたくなるでしょ?」
「ならない」
「もう童貞じゃないのに、あいかわらずだなあ、井上は」

 藍田が笑う。俺がおかしいのか藍田が普通なのか、こいつと一緒にいるとその基準がよくわからなくなる。

「で、今日はなに、どうしたの?」
「率直な感想を頼む」

 テーブルの上をすべらせ、原稿を藍田のほうへ向けた。藍田は「ちょっと待って」と言うと手を洗って戻ってきた。そういえばちんこ握った手だった。どれどれ、と原稿を手に取り読み始める。

 俺と藍田の性格はほとんど真逆、正反対と言っていい。それなのに高校を中退した藍田とはなぜか今日まで付き合いが続いている。最初は学校でゲイがバレた藍田が自棄を起こすのではと純粋な心配だった。それが杞憂だとわかってもなんとなく連絡を取り続けた。藍田の裏表のない素直な性格が好ましく、気安い関係でいられたからだと思う。

 藍田が原稿を読んでいる間、俺は勝手にコーヒーを作り、持参した文庫本を読んで待った。藍田は普段本を読まない。部屋にあるのは漫画ばかりだ。小説は読むと眠くなると言う。でも俺の原稿だけは眠らず読んでくれる。面白いのかと問えば「意味わかんない」「つまんない」とばっさりだ。ではなぜ最後まで読めるのかと問うと、「井上ってなに考えてるかわかんないじゃん。でも小説読んだら、頭のなか覗いてるっていうか、オナニー覗いてる気分になる」実に藍田らしい言葉が返ってきた。

 確かに創作行為は、己のうちから噴きあがるものを外に吐き出すオナニー行為だと言えるだろう。そして俺の小説を読んだ藍田は俺を「変態性癖の持ち主」だと分析した。人外やSFめいたものを書いているせいだと思っていたが、この前は俺が好感を持っている相手がいることを見抜いたのだから、藍田の分析は案外馬鹿にできない。

 俺の方が眠くなり始めた頃、藍田は原稿を読み終えた。俺に原稿を返しながら「頭大丈夫?」と真面目な顔で首を傾げた。

「レポートの提出が重なっているときに書いたから少し正気じゃない部分があったかもしれない」
「だいぶ正気じゃないと思うけど」
「どのへんがおかしかった?」
「全部。どうして主人公はモアイ像の前に穴掘ってそこに精子溜めてんの?」
「モアイ像がかつて人間たちと交流のあった宇宙人と交信するための建造物だと仮定して、男は実はその宇宙人の子孫で本来の自分の姿を模して作られたモアイ像に恋心を抱くんだ。しかし相手はただの石だから性行為はできない。だからモアイ像の前に穴を掘ってマスをかく。実りの無い行為だとわかっていても、それが男の幸せなんだ」
「ほんと、頭大丈夫かよ。勉強のしすぎなんじゃない? ちゃんと寝てる?」

 本気で心配をされてしまった。

「そうか、駄目か」

 俺としては前回に引き続き恋愛小説のつもりで書いたのだが、頭のおかしい内容になってしまったようだ。

「そういえば、好きな子とはどうなのさ。ちょっとは仲良くなった?」

 テーブルに肘をついて顔を覗きこんでくる。俺の恋愛話を楽しむようにニヤニヤ笑っている。

「俺のことはいい」
「こんなの書くなんて溜まってんじゃないの? また俺とやる? 適度に発散しとかないと体に毒だよ」
「簡単に言うな。お前も新しい男がいるんだろ。今度の相手は続きそうなのか?」
「そんなのまだわかんないけど、亮くんは俺にメロメロだよ。毎日メールも電話もしてくれるし、休みの日はデートしてるし」
「だったら裏切るような真似はやめておけ」
「そうだね」

 乗りだしていた体を戻すと藍田は俺に手を出した。

「じゃあ、合鍵、返して。亮くんとヤッてるときに乱入されたら修羅場るから」
「それもそうだな」

 鞄からこの部屋の合鍵を探しだし、藍田に返した。

「もう俺に渡さなくてもいい恋愛をしろよ」
「言われなくても、毎回そのつもりですう」

 藍田は口を尖らせた。



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