FC2ブログ

OVERDOSE (6/9)

2020.09.23.Wed.


 陣内が来ることはもうないとわかっていても、ジムに行くとつい陣内が来ていないか探してしまう。そして失望する。

 何度か電話をしてみたが繋がらなかったり、繋がっても忙しいようですぐ切られてしまったりでろくに話も出来ない。もう随分長く陣内に会っていない。どうしているのだろうか。

 店にヒシがやってきた。カットしながら、陣内のことを聞いてみた。

「一ヶ月くらい前に会いましたよ。モデルの女連れて、今から海外に行くって言ってましたけど。それから音沙汰なしですね」

 モデルの女と海外旅行か。呆れつつ、内心はむかついた。女と旅行に行く暇があるなら俺のところに電話の一本ぐらいかけられるじゃないか。

「あ、そうだ、北野さん、今度鉄雄の店がオープンするんですよ。って言っても、鉄雄の親父さんの名義なんですけど。バーなんで、飲みに行ってやってください」
「へぇ、鉄雄君の。オープンはいつ?」
「来月です。もしかしたら陣内さんも来るかもしれませんよ」

 義理堅く、身内思いの陣内のことだ、きっと顔を見せるだろう。タイミングが合えばヒシの言う通り会えるかもしれない。

「是非寄らせてもらうよ」
「わかりました。日にちが決まったらまた連絡します。あとで携帯の番号教えてください」

 最近俺は知り合いが増えた。携帯のメモリーも公私共にたくさん登録してある。それもこれも陣内に出会ってからだ。

 陣内は頼り甲斐がある。そして面倒見が良い。人から好かれる奴のそばにいると、周りにいる人間にもいい影響があらわれるのだろう。俺はあいつのおかげで随分助かっている。

 9月の頭に、ヒシから連絡があった。10月1日に鉄雄の店のオープンが決まったそうだ。必ず行くと返事をし、電話を切った。陣内に会えるだろうか。考える自分に気付き、顔を顰めた。どうかしてる。最近俺は陣内のことばかり考えている。

 あいつは俺の好みじゃないし、だったとしてもあれが俺に組み敷かれるようなタマじゃないことはわかってるはずだ。そんなことをしようとしたら確実に殴り飛ばされる。最悪殺される。

 あいつに抱いているのは純粋な友情。それ以外、ない。

 ~ ~ ~

 今日は夕方から暇になるのでジムに向かった。試合を控えた選手のスパーリングの相手をし、それが終わると一人でサンドバック相手に打ち続けた。

 シャワーで汗を洗い流したあと、更衣室で携帯を開く。以前ハッテンバで出会った青年のアドレスを探し出して電話した。ちょっとした気晴らしにはいい相手。

「俺だけど」
『連絡くれてありがとう。ずっと待ってたんだよ』
「今晩、いけるかな」
『あ、ごめん、今日はちょっと……』

 と口ごもる。理由なんて聞かなくてもわかる。

「突然ごめんね、じゃ、また」

 電話を切った。

 ジムを出て二丁目へ。いつもの店で酒を飲む。今日も機嫌が悪そうだね、とマスターが苦笑する。そんなつもりはない。

 マスターの彼氏が店にやって来た。仕事終わりらしくスーツ姿。カウンター越しに二人がキスするのを見せつけられた。

 上着を脱いだマスターの彼氏の腕は太く逞しい。陣内といい勝負。

  マスターの手伝いをする彼氏の体をツマミに酒を飲んだ。いつの間にかずいぶん飲んでいて、ひどく酔っ払ってしまった。

「大丈夫? タクシー呼ぼうか?」

 心配そうなマスターの申し出を断り店を出た。足がふらつく。素直にタクシーを呼んでもらえばよかったかもしれない。

 駅へ向かって歩きながら陣内に電話をする。留守電に繋がった。切ってからもう一度電話した。数コール目、陣内が電話に出た。

「俺だ」
『北野さん、どうした』
「今なにしてる?」
『なにって、知り合いの店で飲んでるけど』

 知り合いのところには顔を出すくせに、俺のところには来られないのか。だんだん腹が立ってきた。

「今から迎えに来い」
『は? なに言って……、あんた、酔ってるな』
「いいから、迎えに来い」
『わかったわかった、誰か迎えに行かせる』
「駄目だ、お前が来い」

 電話の向こうで溜息が聞こえた。

『どこにいる?』

 笑いを含んだ陣内の声。

「新宿、二丁目」
『近くについたら電話するから、そうだな……仲通りの交差点付近で待ってろ、20分で行く』

 言って電話が切れた。会える。陣内が迎えに来る。急いで指定の交差点に向かった。そこで電話が鳴るのを待つ。クラクションに顔をあげると、交差点に入ってきた車の助手席から陣内が顔を出して手招きしているのが見えた。運転席には知らない男。一人じゃないのか。

「後ろに乗って」

 言われて後部座席に乗り込む。それと同時に車が走り出した。

「あんたの店でいいな?」

 振りかえって陣内が言う。俺は頷いた。車内が酒臭い。俺も人のことは言えないが、陣内もだいぶ飲んでいた様だ。

 車がマンションの前に止まった。少しウトウトして動作がのろくなった俺は陣内に抱えられ、車をおりた。

「俺も手伝いましょうか」

  運転席の男が言うのを「お前はここで待ってろ」と断り、陣内は俺を担いでマンションに入った。

 エレベーターで11階まで行き、部屋の前。

「鍵は」

 言われてポケットを探り、部屋の鍵を渡した。扉をあけて中に入る。陣内が手探りでスイッチを探し、明かりをつけた。

「寝室のベッドに」

 俺をソファに座らせようとする陣内に寝室を指差す。陣内は黙って俺を寝室につれて行きベッドに寝かせた。腰に手をあて、溜息をつく。呆れている。

「酔っ払いめ、大丈夫か」
「水、持って来てくれ」

 寝室から出るとミネラルウォーターを持って戻ってきた。

「ここに置いとくぜ。あとはもう一人で平気だな」

 帰ろうとする気配。久し振りに会ったっていうのにもう帰るのか。一年近くまともに顔をあわせて話をしていないんだぞ。なんとかして陣内を引き止めたかった。

「水、飲ませてくれ」

 俺は我儘を言った。陣内はベッドに膝をつくと俺の首の後ろに腕をまわして頭を持ち上げた。ペットボトルを口元に持ってきて、水を飲む俺を黙って見ている。

 飲み終わり、俺も陣内を見た。衝動をおさえられず、陣内の首に抱きついてキスをした。陣内は動じずにそれを受けている。俺だけが馬鹿みたいに興奮していた。

 口をはなしても陣内は表情ひとつかえずに平然と見てくる。手にはまだペットボトルを持ったまま。

「前にされた時にも思ったんだけど」

 陣内が口を開いた。口調も至って平静だ。

「北野さんのキスって随分おとなしいんだな。ゲイってのは皆こんなもんなのか」

 馬鹿にするというわけでもなく、ただの好奇心、疑問に思ったから口にしただけ、そんな口調で訊く。

「そんなの人それぞれだと思うけど──ッ」

 言い終わる前に頭を引き寄せられ陣内にキスされた。噛みつくような激しいキスに目が白黒する。一瞬呼吸の仕方を忘れた。喘いで空気を吸い込む。それが追いつかないほど、陣内のキスは深く激しい。 キスというより陵辱に近い。

 陣内が口を離した時、お互いの唇に唾液が糸を引いた。熱い吐息が顔にかかる。

「どう? 俺のキスって下手なのかな」

 と真顔で聞いてくる。

「……腰が抜けた」

 答えて顔を背けた。恥ずかしい。どうしようもないくらい、あの乱暴なキスに感じてしまった。

 陣内のごつい手が俺の顎を掴んで正面を向かせる。間近に陣内の顔。

「あんたってほんと、男にしとくのが勿体ないくらい綺麗な面してるよな」

 目を細めて言う。

「女顔だって意味じゃない。あんたはどう見ても男にしか見えないからな、男として綺麗だって、褒め言葉だ。あんたは嫌がるかもしれないけどな」

 嫌じゃない。それどころか顔と体が熱くなっていく。心臓がどきどきしている。なんだこれ。陣内相手に、何ときめいてるんだ俺は。

「君は、俺の顔が好きか?」
「あぁ、見ていて飽きねえよ」
「だったら俺も、少しは自分の顔が好きになれそうだ」

 ふっと笑って陣内は立ち上がった。

「じゃ、俺は行くわ。下に人待たせてるからな」
「今日はありがとう、悪かったね」
「まったくだ、これは大きな貸しだぜ。鍵は新聞受けから中に戻しておくから、あんたはこのまま寝てろ」

 言って陣内は部屋から出て行った。扉の開閉のあと鍵が閉められ、玄関に鍵が放りこまれる音が続いた。

 まだ俺の心臓はどきどきしていた。

 陣内にキスされながら俺はなんて思った? このまま抱かれてもいい、抱いて欲しいと思わなかったか?

 どうしたんだ俺は。 酒のせいか? 悪酔いしてるのか? そうだ、飲みすぎだ。それともどこかで転んで頭でも打ったか。俺はタチだ。今までも、これからもずっと。その俺が、タイプでもない男に抱いて欲しいなんて絶対にありえない!



3巻楽しみ!
関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する