FC2ブログ

夢の時間(1/2)

2014.05.21.Wed.
※アンケート1位小説「親子」

 暑苦しくて目が覚めた。また大地が俺のベッドに潜り込んでいるのだ。

 大地が3歳の時に妻が亡くなった。人が死ぬということを理解できていなかった大地は、夜寝るときになって「お母さんがいない」と泣き出し、どこへ行ったのかと俺に聞いてきた。

 帰って来ることを信じて疑わずに泣く我が子が不憫で、俺まで一緒に泣いて、その夜は過ごした。

 毎日泣いていた大地も次第に母親が帰ってこないことを理解したらしく、泣くことはなくなったが、俺のそばを離れなくなった。

 保育所へ預けに行く朝も大泣きして大変だった。帰ってくれば食事の支度の妨げになるほど俺にべったりで、寝かしつけたあと布団を出て仕事をしていても俺がいないとわかるとまた泣きだす。

 夜中にいなくなるという恐怖心からか、大地は俺の服を掴んだまま放さなくなった。苦肉の策で、布団を出るときに着ている服を脱いで行くと、大地は朝まで寝てくれるようになった。

 それから毎日、俺は自分の匂いのついたシャツを一枚、大地に持たせて寝かしつけた。さすがに小学校高学年になる頃に無理矢理やめさせたが、それまでの習慣とは恐ろしいもので、ちょっと寝つきの悪い夜、大地は洗濯物の中から俺のシャツを持ち出して寝るようになってしまった。

 息子の将来が心配になって夜に洗濯機をまわすようにしてからは、洗濯物と一緒に寝ることはなくなったが、かわりに俺のふとんに潜り込んでくるようになった。幼いころに刷り込まれたものの印象とは相当強いらしい。高校二年になった今でも続いているのだから、三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。

「大地、暑いから自分のベッドで寝なさい」

 俺の背中にぴったりくっついている大地の腰を叩いた。背後で「うーん」とうなり声。

「勉強して疲れてんだから寝かせてよ」
「自分のベッドで寝なさい」
「こっちのがぐっすり眠れんの」

 伸びてきた大地の手が俺の体を引き寄せる。いつの間にかこんなに大きく、逞しい青年に育っていたのか。その力強さに感心しつつも、実の息子に後ろから抱きしめられる格好には気恥ずかしさがあった。

「はなしなさい、大地」
「やだ。もう、うるさいから静かにして。俺、明日も学校」

 俺の背中に額をグリグリ擦りつける。大地とぴったり触れ合う背中を中心に体が熱くなってくる。ちらほら夏の気配が見えてきた夜に、大の男が二人、寄り添って寝るにはあまりにむさ苦しい。しかし受験生だからと勉強を頑張っていた息子を叩き起こしてまで追い出すのは気が引け、そのままにした。

 大地の手が何かを探してゴソゴソ動く。布団の中から逃がしていた俺の手を見つけると握ってきた。さすがにこれは。

「おい、大地」

 スゥスゥと寝息が聞こえる。寝てしまったか。

 溜息をついて大地の手を見る。俺の手を覆い隠すほど大きい。俺がいなくならないように、小さい手で服を掴んだまま眠っていたあの大地がここまで立派に育ったのか…。

 ファザコンというか俺の匂いフェチなところは少々気になるが自慢の息子だ。今日くらいはいいかと俺も目を瞑った。


 大学生の当時、妻が住んでいたマンションの前にいた。

 辺りは真っ暗。俺の目の前に、付き合った当初の、若く美しい妻の姿があった。彼女をマンションまで送った帰りに初めてキスをした。いま俺はあの日と同じことを繰り返している。妻はもういないのに。

 ならばこれは夢だろうか。

 夢なのにあの日と同じように緊張して、触れるとすぐ顔をはなした。やわらかな感触に有頂天になった。あの時俺はもう一度キスしようと思ったが、彼女は「また明日」とマンションへ入って行ってしまった。だから俺がいま妻としているこの二度目のキスはありえないことだ。事実と違う。やはりこれは夢なのだ。

 夢の中の妻は大胆だった。俺に抱き付いて激しく口づけしてくる。舌まで入れてきた。俺もそれに応えた。妻の体温、妻の粘膜、妻の味、妻の興奮、それらすべてを受け入れ飲み込み、最高潮にまで気持ちが昂ぶった。

 久しぶりの妻の体が恋しくて強く抱きしめようとした。するりと妻が逃げていく。おい待て。待ってくれ。腕を伸ばすとさらに遠くへ離れていく。待ってくれ。行かないでくれ。

「まって……」

 自分の声で目が覚めた。朝日の射し込む明るい部屋の天井へ向かって俺は手をのばしていた。恥ずかしさと寂しさを噛みしめながら手をおろした。口の中が潤っていた。唇は濡れていた。舌にまだ妻との接吻の感触が残っていた。夢なのにあまりに名残が生々しい。

 あ、大地。思い出して隣を見ると大地の姿はなかった。先に起きたようだ。時計を見ると六時過ぎ。

「父さん、朝ごはん出来たよ」

 すでに制服に着替えた大地が部屋に顔を出して言った。

「あぁ、あとで行く」

 大地が顔を引っ込めてから布団をはいで中を見る。朝立ちを息子に気付かれなかっただろうか。


 仕事が終わって帰ると家のなかは真っ暗だった。今日は帰りが遅くなると、今朝、大地が言っていたことを思い出した。親の常としてつい「彼女か?」とからかうように言うと大地は「違うよ」とぶっきらぼうに答えていた。
 
 親のひいき目抜きに大地はいい男の部類に入ると思うのだが、まだ誰とも付き合ったことがないようだ。部活に勉強に遊びにと充実しているのは結構だが、そろそろ彼女の一人も作って俺に紹介して欲しいものだ。

 夕食を済まし、風呂に入ったあとテレビを見ながら酒を飲み、いい感じに酔ったところでふとんに入った。瞼が重く、すぐに眠った。


 若かりし頃の妻がいた。また夢か。夢の中で会えるだけでも嬉しいものだ。妻は俺に抱き付くとすぐ口づけしてきた。舌を合わせながら妻の手が俺の股間へ伸びてくる。生前なかった積極性に戸惑いつつも俺のそこは喜んで硬くなっていた。妻の指が俺のペニスに絡みつく。しっかり握って擦り上げてくる。

「うう、う…」

 妻の頭が下へとおりていく。温かい口腔内に俺のものが包まれた。妻の口のなかで妖しく蠢く愛撫を受ける。胸の奥から衝動がこみ上げて小さな爆発を起こした。

 俺は妻の頭を押さえつけた。妻が顔を持ちあげる。

「大地っ?!」

 驚いて目を瞬かせる。大地に見えた顔が妻の顔に戻っていた。安堵して妻の髪を梳き、耳に触れ、首筋を撫でた。妻が強く俺を吸い上げた。その瞬間、俺は果てていた。

 ぐったりとふとんの上に四肢を投げ出した。その間も妻は俺の股間に顔をうずめ、最後の処理をしてくれていた。そこまで出来る女ではなかったのに夢とは都合がいいものだ。

 妻は俺のふぐりを口に含んで転がし始めた。

「もう無理だよ」

 俺の言葉を無視して妻は舌を動かす。妻の指がの俺の肛門に触れ、指先を中へ入れてきた。

「おいおい、何をする気だ」

 苦笑しながら妻の髪を弄った。いやに短く硬い。こんな髪型だったかな、と頭を持ちあげた。俺の股の間に埋もれる妻の顔…いや、違う。

「大地!」

 俺の声に大地が顔をあげた。舌なめずりをして熱い息を吐き出す。

「起きちゃった?」

 夢だ。夢だったはずだ。だって相手は妻だった。妻の顔をしていた。なのになぜ大地にかわっているんだ。夢だ。夢のはずだ。夢でなくては説明がつかない。

「母さんと間違えてただろ」

 俺が呆然としている間に大地は中に入れた指をぐりぐり動かし始めた。粘着質な音まで聞こえる。潤滑剤を使っているようだ。

「夢じゃ、ないのか」
「どっちでもいいんじゃない」

 興味なさげに呟くと大地が大きく口をあけて俺のペニスを咥えた。ついさきほど味わったのと同じ快感が与えられる。じゃあさっきのも妻ではなく、大地だったというのか。大地が俺のペニスをしゃぶり、出されたものを飲み込んでいたというのか。実の息子が!

「やめなさい……やめろ、大地……やめろ!」

 大声で怒鳴っても大地はやめない。そそり立ってきたものに一生懸命舌を這わせている。自分の男根越しに見る息子の顔にショックで頭がクラクラする。

「やめろと言っているんだ!」
「どうして。もう一回、やっちゃったじゃん」
「あれは夢だと思っていたから」
「じゃあこれも夢だと思えばいいじゃん」
「思えるわけがないだろう! どういうつもりだ!」
「父さんが好きだからに決まってんじゃん」
「なっ……?!」

 俺は大地の気が違ったのだと思った。血の繋がった親子で好きだのなんだの、ありえるわけがない。

 上体を捻り起き上がろうとした。その腰を大地がしっかり掴む。うつ伏せになった俺の尻たぶを左右に割り、その奥へ舌を入れてきた。脳天に丸太を叩き落されたような衝撃だった。

「やめろ! やめなさい! 大地!」

 とんでもない羞恥から全身の毛穴が開きブワッと汗が噴き出した。布団の上を泳ぐようにジタバタ暴れたが、大地の強い力によってすぐ引き戻された。腰を抱え上げられた屈辱的な格好で。

「大地、いい加減にしろ! いい加減にしないと怒るぞ!」
「いまやめたってどうせ怒るんだろ。それにもう手遅れだよ」
「手遅れって……っ」
「さすがにもう我慢できなくなったんだよ。俺は父さんが好きだ。父さん以外、誰も好きになったことはないよ」
「……っ!!」

 言い終わると大地は再び俺の肛門に舌を入れてきた。夢の中の妻と同じような動きを中で見せる。

 先日の朝、久しぶりに見た妻の夢。その中でした妻とのキス。もしかしたらあれも大地としていたのかもしれない。

 いったいいつから大地は俺にそんな間違った感情を抱くようになってしまったのだろう。どこで育て方を間違ってしまったのだろう。幼い頃に母親をなくした大地が哀れで甘やかしてきたのがいけなかったのか。俺の匂いつきのシャツで寝かしつけたのがまずかったのか。

 妻を忘れられず、再婚を諦めたのがいけなかったのか。大地に新しい母親が出来ていれば、父親への異常な執着を抱かずに済んだのか。

 そのどれもが当てはまるような気がした。その時最良と思えた選択すべてで、大地を歪めていったのかもしれない。




関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する