アイヲシル(12/14)
2020.10.20.Tue.
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明日からの海外出張は二週間弱と少し長い。ドイツに一週間、そのあとアメリカという日程。
「ドイツの仕事はこれが大詰め。これをうまくまとめたら俺の評価もあがる。もしかしたら今度のアメリカでの仕事を任せてもらえるかもしれない」
夕食後、ソファに座りながらバレンタインにもらったチョコを口に放りこんで木村が言う。明るい顔で目が輝いている。そんなに仕事が楽しいのかと驚いてしまう。
「あー、もう無理。口ん中が甘ったるい」
食べかけの生チョコの蓋を閉じ、その箱をテーブルに放り投げた。
今年のバレンタインもたくさんのチョコレートを持って帰って来た。20個近く。明らかに義理とわかるものが大半だが、中には気合の入っていそうなものもある。
総合商社の海外営業部、その中でもおそらく木村は有能な方だろう。女子社員から目をつけられないはずはない。女性には優しい木村のことだから受けもいいだろう。嫉妬するなというほうが無理な話だ。
「腐る前に責任持って食べるんだぞ。俺は手伝わないからな」
今年俺がもらったチョコは5個。3個は先生から、あとの2個は学生から。もちろん全て義理。こんな行事は必要なのかと首を傾げてしまう。
「一ノ瀬からもらったチョコなら喜んで食べるんだけどなぁ。おまえはいつもくれないね。なんで」
「毎年たくさんもらってるんだ、十分だろう」
その中に埋もれてしまうのは嫌だ。
「もしかして妬いてるとか?」
「お返しが大変だと同情してる」
「あー、それ言わないで。頭が痛くなる」
頭を抱えて俺にもたれかかってきた。膝の上に頭を乗せ、下から俺を見て来る。
「明日から二週間いなくなるけど我慢してね。今夜はいっぱい可愛がってやるからさ」
「馬鹿なこと言ってないで風呂に入ってさっさと寝ろ。明日は早いんだろう」
「へいへい」
起き上がって風呂場へ。しばらくしてシャワーの音が聞こえて来た。
テーブルに乱雑に置きっぱなしのチョコを紙袋に仕舞う。けっこう重い。俺の気持ちまで重くした紙袋をテーブルの脇に置いた。
木村の携帯電話が鳴った。23時過ぎ。こんな時間に誰からだろう。急用かもしれないと思い、携帯を手に取った。ディスプレイに黒坂という名前が表示されている。例のクソ上司か。まだ鳴り続ける携帯を持って浴室へ向かう。途中で留守電に切り替わった。聞くつもりはなかったが、ふと魔がさしたというか、クソ上司の声を聞いてみたくなり、電話を耳にあてた。
留守電のガイダンスのあと、ピーという発信音。そのあとに続く声。
『こんな時間にごめんね。明日のドイツ出張、初日はフリーになったから一応報告をと思って。せっかく二人で行くんだから、どこかお洒落なレストランで食事がしたいわ。木村君、詳しいんでしょ、明日はエスコートよろしくね。じゃ、明日遅刻しないで来るのよ。おやすみなさい』
プツと通話が切れた。
女性の声だった。黒坂という人が木村の直属の上司だという言うことは知っていたが、女性だとは聞いていなかった。意図して隠していたのか、わざわざ言う必要もないと黙っていたのか。
どちらにせよ、俺にはショックだった。電話の女性はずいぶん親しげに木村に話しかけていた。馴れ合いの含まれた口調で、明日から二人きりでドイツだと言い、レストランでの食事に誘い、自分をエスコートしろとまで言っていた。木村に好意を持っているとわかる弾んだ声で。
黒坂から何度か電話がかかってきていたことを思い出す。そのほとんどは仕事のことだろうが、今思うとやけに回数が多かったような気がする。俺が学校の先生に電話をすることなんてほとんどない。職業柄なのかもしれないが、そんなに何度も個人に電話をしなければいけないのかと、一度芽生えた疑念は、どうしても物事を穿った見方にさせてしまう。
あの女性と明日から二人きりで出張。そんなこと木村は一言も教えてくれなかった。こんなふうに木村以外の誰かから知らされるのは、本人の口から聞かされるよりショックが大きい。わざと隠していたのではないかと疑ってしまう。電話の女性と何かあるのではないかと勘繰ってしまう。
そんな疑惑の人物と一緒に明日、木村はドイツに発つのだ。
俺はリビングに戻り、携帯電話を元あった場所に置いて寝室に向かった。着替えをし、布団に潜り込む。木村の顔を見たくなくて、壁のほうを向いて寝た。今あいつの顔を見たら黒坂という上司のことを問いただしてしまいそうだ。仕事仲間に嫉妬して木村を煩わせたくない。ただの上司、仕事の出張、やましいことは何もないはずだと自分に言い聞かせる。
寝室の戸が開いて木村が入って来た。
「有? 寝たの?」
ベッドが軋んだ。横に座った木村が顔を覗きこんでくる気配。俺は目を瞑って寝た振りをした。
「有?」
肩をつかまれた。近くに吐息を感じる。目蓋が震えていることに気づかれるかもしれない。緊張して息を止めていたことに気づく。
木村の小さな溜息が聞こえた。
「おやすみ」
囁いて俺の頬にキスし、部屋の明かりを消した後、木村も布団の中に入ってきた。後ろから抱きすくめられる。
動けないまま暗闇の中で目を開け、俺は何をしているのかと急激に気持ちが沈んだ。明日から木村は出張だというのに、こんなモヤモヤした気持ちのまま見送らなければならないなんて。かといって、あの電話をなかったことにはできない。明日から出張というときに聞きたくなかった。盗み聞ぎをした罰だ。
翌朝、木村は俺の顔色が悪いことと、元気がないことを心配しながら家を出て行った。
もし黒坂という上司が木村に好意を寄せていたら。そしてもし、その上司がとても積極的な女性だったら。
誘われてソープに行ったくらいだから、そんな状況になれば木村はその女性と関係を持つかもしれない。
そんなことになったら、俺はどうすればいいんだ?
~ ~ ~
木村の留守をこんなに長いと思ったのは今回が初めてだ。
ドイツについた夜に連絡をくれたが、その横に黒坂がいるのではないかと思うと素直に喜べなかった。時間的に木村はそのあと夕食の頃だった。あの女性と一緒に。まわりからは恋人同士と見られたかもしれない。俺に見せるマメさで、上司をエスコートしたのだろう。
鉛でも入っているように心が重い。ぎゅっと締め付けられたように苦しくて痛い。人を好きになるというのは、どうしてこんな苦しみや痛みを伴うのだろう。
留学中は木村の存在で勇気をもらえた。気持ちを強く持って半年間、遠いアメリカで耐えることが出来た。
それなのに今はどうだ。たった二週間が果てしなく長く感じる。木村もあの時こんな気持ちだったのだろうか。それなのに俺は突き放すようなことしか言わなかった気がする。待っていてくれ、耐えてくれ。そんな言葉で励ましたつもりになっていた。とんでもない思いあがり。木村が俺に頼らなくなるわけだ。
一週間が経ち、いまアメリカにいる、と木村から連絡があった。その声はとても明るい。女性と一緒だからかと思ってしまう。嫉妬は人の心を醜くする。声を尖らせ、言葉に棘を生やし、ひねくれて本心ではないことを言わせる。
「楽しそうだけど、浮かれるのもほどほどにするんだな。仕事で行ってるんだから遊びは控えろ」
言ってからしまった、と思ったが、止まらなかった。
『どういう意味?』
声のトーンを落として木村が言う。
「おまえに好きな女が出来たら俺はいつでも別れてやるつもりだ」
『はぁ? 何の話してんの?』
電話越しでもわかる木村の苛立った声。それに俺の神経も逆撫でされる。
「俺もおまえも男だ。世間的に認められない関係を続けていたらおまえの出世にも響くだろう。別れるタイミングを探しているなら、いつでも遠慮なく言ってくれと言ってるんだ」
電話の向こうで木村の舌打ちと溜息が聞こえた。
『おまえの性格考えたらいつかそんなこと言い出すんじゃないかと思ってたけど……、実際言われたら、かなりムカつくな』
声は押し殺していたが、木村がひどく怒っていることは伝わってきた。
『なんで今そんなこと言うかな。なんで今このタイミングで言い出すかな。俺が今まで何のために人一倍働いて来たと思ってんの? 俺がなんのために色んなことを我慢してきたの思ってんの? ぜんぶおまえのためにやってきたんだろうが!』
最後は怒鳴り声だった。それを聞いた俺も止められなかった。俺だって今までずっと色んなことを我慢してきた。それがすべて逆流して口から溢れ出してきた。
「これからは我慢せずに好きなことをすればいいだろ! 俺のためと言って俺のせいにするな! 俺だって馬鹿じゃない、おまえに浮気されたら腹が立つし、女と一緒にいたら嫉妬だってする、こんな惨めな気持ちになるくらいならおまえと別れた方がマシだ!」
『……それ、本気で言ってんの』
一瞬で我に返るような低く硬い声色。取り返しのつかない一言を発したと気付いて俺は言葉と顔色を失くした。
『ねえ、それ本気かって、聞いてんの』
鋭い声に何も言い返せない。
『もう無理。めちゃくちゃ頭に来た。今は冷静に話なんか出来ない。帰ってからゆっくり話そう。それまでにお前も頭冷やしとけ』
吐き捨てるように言い、通話が切られた。心が凍えるような冷たい声だった。怒鳴られるより迫力があり、返す言葉を奪われる。あそこまで木村が怒ったのは初めてのことだ。
携帯を持つ手が震えていた。もしかしたら俺たちは駄目になるかもしれない。俺が何もかも壊してしまった。
別れたくないのに、こんなに辛い思いをするくらいなら別れてしまいたいと思うのも事実だった。矛盾した思いから、あんな言葉を吐き出していた。
目から溢れて来た涙を拭う。
木村が帰ってくるまであと五日。こんな気持ちで五日も待たなければいけないのか。絶望的な気持ちになった。
煉獄しゃん涙
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明日からの海外出張は二週間弱と少し長い。ドイツに一週間、そのあとアメリカという日程。
「ドイツの仕事はこれが大詰め。これをうまくまとめたら俺の評価もあがる。もしかしたら今度のアメリカでの仕事を任せてもらえるかもしれない」
夕食後、ソファに座りながらバレンタインにもらったチョコを口に放りこんで木村が言う。明るい顔で目が輝いている。そんなに仕事が楽しいのかと驚いてしまう。
「あー、もう無理。口ん中が甘ったるい」
食べかけの生チョコの蓋を閉じ、その箱をテーブルに放り投げた。
今年のバレンタインもたくさんのチョコレートを持って帰って来た。20個近く。明らかに義理とわかるものが大半だが、中には気合の入っていそうなものもある。
総合商社の海外営業部、その中でもおそらく木村は有能な方だろう。女子社員から目をつけられないはずはない。女性には優しい木村のことだから受けもいいだろう。嫉妬するなというほうが無理な話だ。
「腐る前に責任持って食べるんだぞ。俺は手伝わないからな」
今年俺がもらったチョコは5個。3個は先生から、あとの2個は学生から。もちろん全て義理。こんな行事は必要なのかと首を傾げてしまう。
「一ノ瀬からもらったチョコなら喜んで食べるんだけどなぁ。おまえはいつもくれないね。なんで」
「毎年たくさんもらってるんだ、十分だろう」
その中に埋もれてしまうのは嫌だ。
「もしかして妬いてるとか?」
「お返しが大変だと同情してる」
「あー、それ言わないで。頭が痛くなる」
頭を抱えて俺にもたれかかってきた。膝の上に頭を乗せ、下から俺を見て来る。
「明日から二週間いなくなるけど我慢してね。今夜はいっぱい可愛がってやるからさ」
「馬鹿なこと言ってないで風呂に入ってさっさと寝ろ。明日は早いんだろう」
「へいへい」
起き上がって風呂場へ。しばらくしてシャワーの音が聞こえて来た。
テーブルに乱雑に置きっぱなしのチョコを紙袋に仕舞う。けっこう重い。俺の気持ちまで重くした紙袋をテーブルの脇に置いた。
木村の携帯電話が鳴った。23時過ぎ。こんな時間に誰からだろう。急用かもしれないと思い、携帯を手に取った。ディスプレイに黒坂という名前が表示されている。例のクソ上司か。まだ鳴り続ける携帯を持って浴室へ向かう。途中で留守電に切り替わった。聞くつもりはなかったが、ふと魔がさしたというか、クソ上司の声を聞いてみたくなり、電話を耳にあてた。
留守電のガイダンスのあと、ピーという発信音。そのあとに続く声。
『こんな時間にごめんね。明日のドイツ出張、初日はフリーになったから一応報告をと思って。せっかく二人で行くんだから、どこかお洒落なレストランで食事がしたいわ。木村君、詳しいんでしょ、明日はエスコートよろしくね。じゃ、明日遅刻しないで来るのよ。おやすみなさい』
プツと通話が切れた。
女性の声だった。黒坂という人が木村の直属の上司だという言うことは知っていたが、女性だとは聞いていなかった。意図して隠していたのか、わざわざ言う必要もないと黙っていたのか。
どちらにせよ、俺にはショックだった。電話の女性はずいぶん親しげに木村に話しかけていた。馴れ合いの含まれた口調で、明日から二人きりでドイツだと言い、レストランでの食事に誘い、自分をエスコートしろとまで言っていた。木村に好意を持っているとわかる弾んだ声で。
黒坂から何度か電話がかかってきていたことを思い出す。そのほとんどは仕事のことだろうが、今思うとやけに回数が多かったような気がする。俺が学校の先生に電話をすることなんてほとんどない。職業柄なのかもしれないが、そんなに何度も個人に電話をしなければいけないのかと、一度芽生えた疑念は、どうしても物事を穿った見方にさせてしまう。
あの女性と明日から二人きりで出張。そんなこと木村は一言も教えてくれなかった。こんなふうに木村以外の誰かから知らされるのは、本人の口から聞かされるよりショックが大きい。わざと隠していたのではないかと疑ってしまう。電話の女性と何かあるのではないかと勘繰ってしまう。
そんな疑惑の人物と一緒に明日、木村はドイツに発つのだ。
俺はリビングに戻り、携帯電話を元あった場所に置いて寝室に向かった。着替えをし、布団に潜り込む。木村の顔を見たくなくて、壁のほうを向いて寝た。今あいつの顔を見たら黒坂という上司のことを問いただしてしまいそうだ。仕事仲間に嫉妬して木村を煩わせたくない。ただの上司、仕事の出張、やましいことは何もないはずだと自分に言い聞かせる。
寝室の戸が開いて木村が入って来た。
「有? 寝たの?」
ベッドが軋んだ。横に座った木村が顔を覗きこんでくる気配。俺は目を瞑って寝た振りをした。
「有?」
肩をつかまれた。近くに吐息を感じる。目蓋が震えていることに気づかれるかもしれない。緊張して息を止めていたことに気づく。
木村の小さな溜息が聞こえた。
「おやすみ」
囁いて俺の頬にキスし、部屋の明かりを消した後、木村も布団の中に入ってきた。後ろから抱きすくめられる。
動けないまま暗闇の中で目を開け、俺は何をしているのかと急激に気持ちが沈んだ。明日から木村は出張だというのに、こんなモヤモヤした気持ちのまま見送らなければならないなんて。かといって、あの電話をなかったことにはできない。明日から出張というときに聞きたくなかった。盗み聞ぎをした罰だ。
翌朝、木村は俺の顔色が悪いことと、元気がないことを心配しながら家を出て行った。
もし黒坂という上司が木村に好意を寄せていたら。そしてもし、その上司がとても積極的な女性だったら。
誘われてソープに行ったくらいだから、そんな状況になれば木村はその女性と関係を持つかもしれない。
そんなことになったら、俺はどうすればいいんだ?
~ ~ ~
木村の留守をこんなに長いと思ったのは今回が初めてだ。
ドイツについた夜に連絡をくれたが、その横に黒坂がいるのではないかと思うと素直に喜べなかった。時間的に木村はそのあと夕食の頃だった。あの女性と一緒に。まわりからは恋人同士と見られたかもしれない。俺に見せるマメさで、上司をエスコートしたのだろう。
鉛でも入っているように心が重い。ぎゅっと締め付けられたように苦しくて痛い。人を好きになるというのは、どうしてこんな苦しみや痛みを伴うのだろう。
留学中は木村の存在で勇気をもらえた。気持ちを強く持って半年間、遠いアメリカで耐えることが出来た。
それなのに今はどうだ。たった二週間が果てしなく長く感じる。木村もあの時こんな気持ちだったのだろうか。それなのに俺は突き放すようなことしか言わなかった気がする。待っていてくれ、耐えてくれ。そんな言葉で励ましたつもりになっていた。とんでもない思いあがり。木村が俺に頼らなくなるわけだ。
一週間が経ち、いまアメリカにいる、と木村から連絡があった。その声はとても明るい。女性と一緒だからかと思ってしまう。嫉妬は人の心を醜くする。声を尖らせ、言葉に棘を生やし、ひねくれて本心ではないことを言わせる。
「楽しそうだけど、浮かれるのもほどほどにするんだな。仕事で行ってるんだから遊びは控えろ」
言ってからしまった、と思ったが、止まらなかった。
『どういう意味?』
声のトーンを落として木村が言う。
「おまえに好きな女が出来たら俺はいつでも別れてやるつもりだ」
『はぁ? 何の話してんの?』
電話越しでもわかる木村の苛立った声。それに俺の神経も逆撫でされる。
「俺もおまえも男だ。世間的に認められない関係を続けていたらおまえの出世にも響くだろう。別れるタイミングを探しているなら、いつでも遠慮なく言ってくれと言ってるんだ」
電話の向こうで木村の舌打ちと溜息が聞こえた。
『おまえの性格考えたらいつかそんなこと言い出すんじゃないかと思ってたけど……、実際言われたら、かなりムカつくな』
声は押し殺していたが、木村がひどく怒っていることは伝わってきた。
『なんで今そんなこと言うかな。なんで今このタイミングで言い出すかな。俺が今まで何のために人一倍働いて来たと思ってんの? 俺がなんのために色んなことを我慢してきたの思ってんの? ぜんぶおまえのためにやってきたんだろうが!』
最後は怒鳴り声だった。それを聞いた俺も止められなかった。俺だって今までずっと色んなことを我慢してきた。それがすべて逆流して口から溢れ出してきた。
「これからは我慢せずに好きなことをすればいいだろ! 俺のためと言って俺のせいにするな! 俺だって馬鹿じゃない、おまえに浮気されたら腹が立つし、女と一緒にいたら嫉妬だってする、こんな惨めな気持ちになるくらいならおまえと別れた方がマシだ!」
『……それ、本気で言ってんの』
一瞬で我に返るような低く硬い声色。取り返しのつかない一言を発したと気付いて俺は言葉と顔色を失くした。
『ねえ、それ本気かって、聞いてんの』
鋭い声に何も言い返せない。
『もう無理。めちゃくちゃ頭に来た。今は冷静に話なんか出来ない。帰ってからゆっくり話そう。それまでにお前も頭冷やしとけ』
吐き捨てるように言い、通話が切られた。心が凍えるような冷たい声だった。怒鳴られるより迫力があり、返す言葉を奪われる。あそこまで木村が怒ったのは初めてのことだ。
携帯を持つ手が震えていた。もしかしたら俺たちは駄目になるかもしれない。俺が何もかも壊してしまった。
別れたくないのに、こんなに辛い思いをするくらいなら別れてしまいたいと思うのも事実だった。矛盾した思いから、あんな言葉を吐き出していた。
目から溢れて来た涙を拭う。
木村が帰ってくるまであと五日。こんな気持ちで五日も待たなければいけないのか。絶望的な気持ちになった。
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こんばんは!コメントありがとうございます!楽しんで頂けているようでとても嬉しいです!
木村は思ったことをすぐ口に出す、感情表現ストレートな性格なので状況によっては激しやすい性格なのですね~。そのかわりきっかけさえあれば切り替えも早いので最悪な結末にはならないことお約束いたします!
正直今日の更新でほぼ結末迎えたようなもんですが、明日最後の更新もぜひお読みいただけたら嬉しいです!^^