FC2ブログ

アイヲシル(10/14)

2020.10.18.Sun.


 俺の嫌いな年末、いわゆる忘年会シーズンがやってきた。クリスマスが終わったあたりから、毎日毎晩、木村は忘年会という名の飲み会に出かけ、午前様の日々を過ごしていた。

「血ヘド吐いてなんぼの商社マン」

 心配する俺に、木村が諦めの表情で笑った。そこまでしなければいけないのかと俺は言葉を失くす。

 28日になり、ようやく木村の体は毎日の過酷な労働と付き合いから解放され、気の済むまでベッドの中で過ごすことが許された。朝食も昼食も抜きで眠り続け、起きたのは15時過ぎ。

「軽く食べに行こう」

 と誘われ、シャワーを浴びてすっきりした木村の運転でイタリアンの店に向かった。

「年末年始はどうするんだ?」
「なにが?」

 軽くパスタを平らげた木村は口を拭きながらきょとんと首を傾げる。

「実家には帰るのか」
「あぁ、俺はいい。一ノ瀬は?」
「挨拶には行こうと思ってる。おまえも顔くらい見せたほうがいいんじゃないか?」
「ま、考えとく」

 とナフキンをテーブルの上に無造作に置いた。

 木村は俺の兄にちゃんと挨拶をしてくれた。交際を許して欲しいと頭までさげてくれた。木村のご両親に挨拶をしなくていいのだろうか。そんなことをされるほうが木村には迷惑なのだろうか。

 俯いて考えていたら、

「なに考えてんの」

 と木村が手を伸ばして俺の頬に触れてきた。隣のテーブルには客がいる。咄嗟に身を引いて木村の手から逃れた。

「別に何もない。このあとどうするか考えていただけだ」
「そうだなぁ、映画でも観に行く?」

 と木村は伝票を持って立ち上がった。外食をした時はいつも木村が支払いをする。あとで払おうとしても「カッコつけさせてよ」と受け取らない。

 木村の提案に乗って映画館へ。9つのスクリーンが集まるシネコン。張り出された上映スケジュールを確認する。観たいと思うものが二人とも一致した邦画を観ることに決まった。

「待ってて」

 と木村は売店で飲み物とポップコーンを買って戻って来た。女性相手でも、こいつはきっとこんな風にマメなデートをするんだろうなと考え、苦い気持ちになる。

 年末だからなのか、今日は客数が多い。時間は19時なので子供の姿は少ないが、かわりに男女のカップルが目立つ。俺たちはどういう関係に見えているのだろう。

「先生!」

 先生と言う肩書きと、その声が自分に向かって言われている気がして声のしたほうを見た。見覚えのある顔が駆け寄ってくる。

「あ、阿賀見」

 私服姿は初めて見るので一瞬誰かわからなかった。制服を着ていないとやけに大人びて見える。

 阿賀見は俺の前までやってくると屈託ない笑顔で「偶然だね」と言った。

「そうだな、君は一人か?」
「いや、彼女と。映画見終わって、今はトイレの行列に並んでる」

 阿賀見の目が木村に向かう。妙に焦った。なんて紹介すればいいのか咄嗟にわからず、言葉に詰まる。

「あ、彼はうちの生徒で阿賀見君。こちらは友人の木村」

 木村は社交的な笑みを浮かべ「どうも、阿賀見君」と落ち着いた声で言った。阿賀見も「ども」と笑いながら会釈を返す。

「一ノ瀬が先生なんて呼ばれてんの初めて見た。へんな感じだな。どう、一ノ瀬はちゃんと先生してる?」

 と木村が阿賀見にたずねる。

「真面目すぎてちょっと面白みがないかな」
「そこがこいつのいいとこなんだよ」
「うん、それは俺もわかってる。先生って絶対ふざけたりしないんだよね。いつも姿勢正しく張り詰めてて、怒る時も静かにキレるからちょっと怖いけど、少なくとも俺は先生のこと、好きかな。話しやすいし、馴染みやすい感じがして」
「そうか、ありがとう」
「どうして木村さんが礼言うの」
「俺はこいつの一番親しい友達だから」

 木村の笑みが濃くなる。

「ねぇ、先生」

 阿賀見が俺の腕を引っ張り、木村に背を向けた。声を潜め「俺に似てるのってこの人?」と言う。やはりバレたか。諦めて頷いた。

「そんなに似てるかなぁ」

 と自分の頬をさする。

「顔よりも、言動が似てるんだ」
「へぇ。ってことはあの人も相当女好きでしょ?」

 ふざけただけの軽い気持ちで発した一言だっただろうが、阿賀見の言葉は俺の心に鋭く突き刺さった。

「まぁ……、昔から女の子に好かれるタイプだったかな」
「やっぱねー。男の俺から見ても格好いいと思うもん」
「一ノ瀬」

 木村に肩を叩かれた。

「そろそろ上映時間だから、中に入るぞ」

 腕時計を指で叩いて木村が言う。

「あぁ、悪い。じゃあ、阿賀見、遅くなる前に帰るんだぞ」
「はは、まぁ、覚えてたらね」

 早く帰るつもりのない顔で笑う。彼女とデートしているのだから、いつまでも一緒にいたいのだろう。その気持ちはわかる。俺も昔は後ろ髪をひかれる思いで木村と別れていた。

「年末だからって羽目を外すな」

 最後の釘を刺し、木村と一緒に中に入った。

「最近のガキは口の聞き方も知らねえのか」

 しばらくして木村が不機嫌そうに呟く。あっけに取られその横顔を見た。どの口がそんなことを言うのか。

「おまえもひどいものだったぞ」
「俺の場合は使う相手を選んでたんだよ」

 そうだろうか。誰に対してもタメ口だったような気がするが。

「おまえもおまえだ、俺の時はうるさく注意してきたくせに、生徒が教師にタメ口きくのを許すのか。ちゃんと指導しろよ、なめられてんじゃねえの」
「なにをそんなにムキになってるんだ。彼はああいう子なんだ。昔のおまえに似てるんだよ」
「俺に?」

 眉を寄せ、睨んできた。そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないかと思う。

「ぜんぜん似てねえよ。おまえ、子供相手に妙な気起こすなよ」
「なに……馬鹿なこと言うな、相手は生徒なんだぞ」

 木村は黙って前に向きなおった。拗ねた顔でさっさと歩いて行く。もしかして阿賀見に嫉妬したのだろうか。こんな露骨な態度を見せるのは久し振りのことだった。

 6番スクリーンに入り、チケットを確認しながら一番後ろの座席につく。八割方席が埋まって来たところで照明が落ちて暗くなった。スクリーンに映像が映し出される。不意に木村が手を握って来た。驚いたが、こんなに暗ければ誰にも見つからないだろうと、俺も手を握り返した。

「さっきはごめん。変なこと言った」

 小さな声で木村が言う。

「……いや、気にしてない」

 気にしてないと返事をしつつ、今の俺にはこの聞き分けの良さが物足りなく感じてしまう。もっと俺にこだわって欲しい。

 我侭で自分勝手な願望だ。弱気になってまったく自分に自信が持てない。こんな俺は嫌だ。また自己嫌悪が積み重なっていった。



Artiste(1)

非BL。大人買いしてしまった
関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
お返事
はるりん様

こんばんは!コメントありがとうございます!
商社マンという設定なのでとにかく忙しく働いてもらっています。書いてる私は仕事内容よくわかってないですけど笑
目標のために大人になった木村と、以前はだいぶ強気だった一ノ瀬が弱気になってるところが確か書きたかったんです。記憶ももう曖昧ですけども。
すれ違いは恋愛の醍醐味!ですね!年末年始はお休みだったのできっとイチャコラしたことでしょうwちょっと省いてしまいましたが、正月明けのイチャイチャは書きました!楽しんでもらえますように!^^

管理者にだけ表示を許可する