アイヲシル(7/14)
2020.10.15.Thu.
<1→2→3→4→5→6>
料理をする時間がある時は木村が食事を用意する。俺はその手伝いと後片付け担当。
今日は珍しく木村が早く帰って来た。なので木村が作った夕飯を食べ、風呂に入ったあと、映画館に見に行きたくても時間がとれず行けなかった洋画のDVDを見た。こんな風にゆっくり過ごすのは久し振りだった。
ソファに座る俺の膝の上に木村の頭が乗っかっている。柔らかな髪を無意識に指ですいていた。
木村が大きな欠伸をした。
「眠いならもう寝るか?」
「いや、最後まで見る。次いつ見れるかわかんねえし」
無理をするなと言っても「無理なんてしてない」と木村は答える。心配されたくないのだろう。それが俺には少し不満だった。俺には意地を張らずに弱音を吐いてほしい。もっと頼ってくれてもいいのに、俺では力不足なのだろうか。
学生の頃と比べると木村はずいぶんかわったと思う。大人になったと言うか、以前のような子供じみた言動が減った。
学生の頃の木村は、とにかく常識に欠ける発言や行動が多かった。時と場所をわきまえず俺のことを好きだと言ってくるし、誰に対しても俺への嫉妬を隠さなかったし、人目を憚らずスキンシップを求めてきた。
それが減ってきたのは大学に進んだあたりからだ。羞恥心を持ち合わせていないのかと疑うほど自分に正直に行動していたのに、いつからかそれをぐっと我慢するようになった。と言っても、その時の木村は「よし」と言われたのに餌を取り上げられた犬のような、大変不満そうな顔ではあったが。
それでも二人きりになると以前と同じように俺に関わる感情は垂れ流しの状態だった。
それもかわってきたのが大学三年あたり、俺が留学から帰ってきた頃からだ。いや、留学中から少し変化はあった。
寂しい、早く帰って来て、という内容の電話がだんだん減り、頑張って来い、という俺を励ます内容にかわった。あの頃から木村は確実に変わって行った。
それを成長と呼ぶのだろうが、甘えられることが嫌いでなかった俺は、それが少し寂しかった。
なんだか自分だけ取り残されて行くような焦燥感。俺も木村に似合う男になりたいと思うのに、木村の進むスピードは速すぎてなかなか横に並ぶことができない。俺がこんなだから木村も安心して頼ってこられないのだろう。
今の俺にできることは、ただ心配してやることだけだった。
早く寝ろと言っても聞かないなら、寝るように仕向けるしかない。
「俺は眠いからもう寝ようかな」
そう言えば木村もきっと寝ると言い出すだろう、そう思っての発言だったのだが「誘ってる?」と木村は首を捻ってニヤついた顔をこちらに向けた。
「馬鹿なこと言ってないで寝たらどうだ。俺はもう寝るからな」
頭をどかせ、立ち上がる。案の定、「じゃ、俺も寝るかな」と木村も立ち上がった。
そのとき木村の携帯電話が鳴った。「ごめん」と断りを入れ、携帯を耳にあてる。
「はい……えぇ、大丈夫です」
仕事の電話のようだ。俺に背を向け、話をする。
「えっ、今からですか? えぇ……はい……あぁ、わかりました、だったら今から電話して聞いてみます。はい……そのあとに……メールにしますか? わかりました、じゃあ、黒坂さんの携帯に電話します。じゃ、あとで」
会話を終了した木村が振り返った。
「ごめん、ちょっと電話しなきゃいけなくなった。いつ終わるかわかんないから一ノ瀬は先に寝てて」
そう言うとどこかに電話をかけた。今度は英語交じりのドイツ語で話をしながら仕事部屋に入って行く。
せっかく今日はゆっくり休ませてやれると思ったのにまた仕事に邪魔された。話し声が聞こえてくる仕事部屋の扉を見ていたら溜息が出た。
俺が待っていても何の力にもなってやれない。リビングの明かりを消して、一人で寝室に向かった。
木村がベッドにやってきたのはそれから二時間近く経ってからだった。

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料理をする時間がある時は木村が食事を用意する。俺はその手伝いと後片付け担当。
今日は珍しく木村が早く帰って来た。なので木村が作った夕飯を食べ、風呂に入ったあと、映画館に見に行きたくても時間がとれず行けなかった洋画のDVDを見た。こんな風にゆっくり過ごすのは久し振りだった。
ソファに座る俺の膝の上に木村の頭が乗っかっている。柔らかな髪を無意識に指ですいていた。
木村が大きな欠伸をした。
「眠いならもう寝るか?」
「いや、最後まで見る。次いつ見れるかわかんねえし」
無理をするなと言っても「無理なんてしてない」と木村は答える。心配されたくないのだろう。それが俺には少し不満だった。俺には意地を張らずに弱音を吐いてほしい。もっと頼ってくれてもいいのに、俺では力不足なのだろうか。
学生の頃と比べると木村はずいぶんかわったと思う。大人になったと言うか、以前のような子供じみた言動が減った。
学生の頃の木村は、とにかく常識に欠ける発言や行動が多かった。時と場所をわきまえず俺のことを好きだと言ってくるし、誰に対しても俺への嫉妬を隠さなかったし、人目を憚らずスキンシップを求めてきた。
それが減ってきたのは大学に進んだあたりからだ。羞恥心を持ち合わせていないのかと疑うほど自分に正直に行動していたのに、いつからかそれをぐっと我慢するようになった。と言っても、その時の木村は「よし」と言われたのに餌を取り上げられた犬のような、大変不満そうな顔ではあったが。
それでも二人きりになると以前と同じように俺に関わる感情は垂れ流しの状態だった。
それもかわってきたのが大学三年あたり、俺が留学から帰ってきた頃からだ。いや、留学中から少し変化はあった。
寂しい、早く帰って来て、という内容の電話がだんだん減り、頑張って来い、という俺を励ます内容にかわった。あの頃から木村は確実に変わって行った。
それを成長と呼ぶのだろうが、甘えられることが嫌いでなかった俺は、それが少し寂しかった。
なんだか自分だけ取り残されて行くような焦燥感。俺も木村に似合う男になりたいと思うのに、木村の進むスピードは速すぎてなかなか横に並ぶことができない。俺がこんなだから木村も安心して頼ってこられないのだろう。
今の俺にできることは、ただ心配してやることだけだった。
早く寝ろと言っても聞かないなら、寝るように仕向けるしかない。
「俺は眠いからもう寝ようかな」
そう言えば木村もきっと寝ると言い出すだろう、そう思っての発言だったのだが「誘ってる?」と木村は首を捻ってニヤついた顔をこちらに向けた。
「馬鹿なこと言ってないで寝たらどうだ。俺はもう寝るからな」
頭をどかせ、立ち上がる。案の定、「じゃ、俺も寝るかな」と木村も立ち上がった。
そのとき木村の携帯電話が鳴った。「ごめん」と断りを入れ、携帯を耳にあてる。
「はい……えぇ、大丈夫です」
仕事の電話のようだ。俺に背を向け、話をする。
「えっ、今からですか? えぇ……はい……あぁ、わかりました、だったら今から電話して聞いてみます。はい……そのあとに……メールにしますか? わかりました、じゃあ、黒坂さんの携帯に電話します。じゃ、あとで」
会話を終了した木村が振り返った。
「ごめん、ちょっと電話しなきゃいけなくなった。いつ終わるかわかんないから一ノ瀬は先に寝てて」
そう言うとどこかに電話をかけた。今度は英語交じりのドイツ語で話をしながら仕事部屋に入って行く。
せっかく今日はゆっくり休ませてやれると思ったのにまた仕事に邪魔された。話し声が聞こえてくる仕事部屋の扉を見ていたら溜息が出た。
俺が待っていても何の力にもなってやれない。リビングの明かりを消して、一人で寝室に向かった。
木村がベッドにやってきたのはそれから二時間近く経ってからだった。

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