FC2ブログ

アイヲシル(6/14)

2020.10.14.Wed.


  あまり人のいなくなった静かな校内。俺が更衣室で着替えている間、阿賀見は職員室の横の生徒指導室で待っていた。

「お待たせ」

 阿賀見の向かいに腰をおろす。

「じゃ、話して」
「実はさ」

 阿賀見は身を乗り出し、話し出した。

「女の子二人から付き合って欲しいって言われたんだけど、どっちにするか選べないんだよね。どっちも可愛くて好みだし、でも俺、二股って女の子泣かしちゃうような最低な男にはなりたくないし、今、すっげえ悩んでんの」

 ふぅん、と頷きながら内心溜息をついた。くだらない話を俺にしてくるな。どちらを選ぼうが俺には関係ない。そもそもそんなこと自分で決めるしかないだろう。自慢話なら他所でしてくれ。

「そういう話は僕の苦手分野だ。たいしたアドバイスは出来ないよ」
「いやいや、先生が一番うってつけだと思うよ。俺ね、こう見えて恋愛に対しては真面目なんだ。固いっていうか、古いっていうのかな。友達に相談しても、両方と付き合っちゃえとか不誠実なこと言って来る奴ばっかりでさ。先生は絶対そんなこと言わないでしょ。だから先生に相談してんの」

 なるほど、そういう理由で俺が選ばれたのか。では、受身の告白で悩むのなら、

「二人とも選ばないという選択肢もある」
「なるほどね、そうきたか。いや、実に先生らしいよ。でもね俺、女の子は大好きなんだ。二人とも可愛いし、付き合ってもいいって思うんだよね。最近じゃ悩みすぎて疲れてきちゃって。いつまでも返事を保留してるのも悪いし、そろそろ答え出さなきゃいけないでしょ。ほんとに俺困ってんの、先生」

 阿賀見は目を閉じ、肩を落として溜息をついた。俺からしたらどちらか一方に選べない時点で二人ともそれほど好きではないのだから、選ぶ選ばないの問題ではないと思うのだが、近頃の生徒は、まずは付き合ってみてから感情を確認し、育てていくという傾向があるようなので、違う価値観に戸惑いながらも、ありきたりな質問を阿賀見に投げかけた。

「どちらが好きなんだ?」
「どっちも同じくらい」
「どちらが好きなタイプなんだ?」
「どっちも同じくらい」

 どちらか一人に決める気があるのだろうか。それとも俺がからかわれているのか。

「では、より思い出すことの多い子にしたらどうだろう」
「思い出すことが多い子……」
「思い出すとドキドキして、胸が苦しくなる子」
「先生、そんな恋愛したことあんの」

 顔を覗きこまれ、言いすぎたかと後悔する。

「昔の話だ」
「知りたいなぁ。教えてよ」
「いまはきみの話だろう」
「いやいや、人生の先輩である先生の話も参考に」

 調子のいい奴だ。

「本当に昔の話だ。自分でも好きなのかどうかわからないのに、気がつけば姿を探して目で追っていた。声を聞いただけで心が乱れた。自覚する前に夢中になっていたんだろうな。ごまかしようのない気持ちを受け入れるには勇気がいったよ。その時にはもう手遅れなのかと思ったこともあったけどね。あんな苦い思いはもう二度とごめんだよ」

 高二の体育祭前後は本当に辛い思い出が多い。今ではもう昔のことだと笑って話せる。

「で、その人とはうまくいったの?」

 テーブルに手を重ね、その上に顎を乗せて俺を見上げる。生徒会室で木村もよくその体勢で俺を見ていたっけ。姿が重なり、懐かしくなる。

「さぁね、それは秘密だよ。自分の話をする気がないならもう帰りなさい。時間も遅い」

 立ち上がると阿賀見も渋々といった顔で立ち上がった。拗ねたような顔をしている。どうしてそんなところまであいつに似ているのかと思う。

「あ、またその目」
「え?」
「いままた俺のことすっごい優しい目で見てた。なんなの、やっぱり気になる」
「そうだな、きみが俺の知り合いに似てるからかもしれない。懐かしくなるんだ」
「へぇ、俺って先生の知り合いに似てるの? ってことは、その人も相当カッコいいんだろうね」
「うん、まぁ、そうだな」
「ってそこ、つっこむとこでしょ。ナルシストみたいで俺が恥ずかしいじゃん」
「あ、ごめん」

 阿賀見が吹き出した。

「先生ってほんと真面目な。まぁそこが先生のいいとこなんだろうけど。ねぇ、まさか、さっきの話の人じゃないよね、俺に似てるのって」

 探るような目。阿賀見の勘が鋭いのか、俺が不用心だったのか。

 俺は取り繕う笑みを浮かべ、「別人だよ」と答えた。

「だよね」

 俺の言葉を信じたらしい阿賀見はそれ以上追求してこなかった。

 木村と阿賀見、決定的に違うのは、阿賀見は女性しか好きにならないというところだろう。これから阿賀見を見るときは気を付けた方がよさそうだ。



オゾマシア 1

非BL。個人的探してた漫画
関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する