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大人のスーツ(12/12)

2020.10.08.Thu.
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 一ノ瀬はキスに弱い。最後は酸欠にでもなったように喘いで呼吸をする。今も焦点を失った目がぼんやりと俺を見上げている。

「大丈夫?」

 額を擦り合わせて聞く。頷く一ノ瀬の服を脱がせながら、あらわれた肌にキスをしていく。ピクンと一ノ瀬の体が反応した。

 鉄雄さんの店の二階。仕事で疲れた時にたまに寝泊りさせてもらっている。まさかここに一ノ瀬を連れこむことになるとは思っていなかった。

 キスの場所を変え、反応を見せている一ノ瀬のものを口にくわえた。

「あっ、木村っ」

 起き上がろうとする胸を押し返す。一ノ瀬はフェラに抵抗があるみたいでなかなかさせてくれない。今日くらい俺のやりたいようにやらせて欲しい。

 先端の小さな口から溢れてくるものを舌の先で味わいながらそれを誘い出す。一ノ瀬の口からは押し殺すことの出来なかった声が漏れる。何よりも俺を昂らせる。

 いったん口をはなし、自分の指に唾液を絡めた。その指を一ノ瀬の後ろに入れる。

 留学したいと打ち明けられたあの夜以降、数えるほどしかセックスしていない。一ノ瀬の体は案の定緊張に硬くなった。

 二本目の指を入れ、筋肉をほぐす。俺の指が一ノ瀬の敏感な場所を擦ると、それに合わせて体がビクンと跳ねた。

 それと同時に一ノ瀬の屹立を握る手を上下に動かす。

「はぁ、あっ、あぁ……っ」

 前より感度がいいような気がする。浮気を疑ったが、一ノ瀬に限ってそれはない。きっと一ノ瀬も久し振りの行為に気持ちが昂ぶっているのだろう。

 俺の手の中で一ノ瀬が爆ぜた。手の平に受けたものを自分の猛ったものに擦り付ける。

 一ノ瀬の中から指を抜き、かわりに二人の体液で濡れ光るものを入れた。一ノ瀬の顔が苦しそうに歪む。

「ごめん、俺、余裕ない」

 ベッドに手をついて体を支えながら腰を動かした。締め付けが想像以上にきつい。搾り取られるような感覚に早くも限界が見えてきて焦った。

 一ノ瀬の足の下に膝を進め、背中に腕をまわして抱えあげる。

「あっ!」

 突然抱き起こされ、一ノ瀬が驚いて声をあげた。その口にキスしながら、一ノ瀬の前を触る。

「あっ、やめ……」

 と、俺の首にしがみ付いてくる。そのまま後ろに倒れ、今度は俺が下になった。

「動ける?」

 抱きついたまま一ノ瀬は首を振る。まだ無理か。下から突き上げた。

「あっ」

 深く突かれる度に一ノ瀬は声をあげた。唇を噛み、睫毛を震わせながら、俺と目があうと恥ずかしそうに目を逸らす。自慰の姿すら想像が難しい普段はすまし顔の折り目正しい優等生の一ノ瀬が、俺を咥えこんだらこんなにエロくなる。下からそんな一ノ瀬を見ていると目茶苦茶にしてしまいたくなる。凶暴な銀色の炎が頭の中で燃える。

「なんて顔してんの、おまえ」
「な、なに、がっ」
「エロすぎんだろ、たまんない、もっと乱れろよ」
「なに言って……っ」

 後ろ手に体を起こし、一ノ瀬の膝を抱えこんでまた上になった。

「先にイカせてあげる」  

 一ノ瀬の先端から零れるものを指に絡めて手を動かす。

「あぁっ、嫌だ、木村っ」
「名前呼んで」
「はなせっ」
「ね、名前、呼んで」
「論っ……はなせ、嫌……」
「イキたくない?」
「いやだ、こんなの……恥ずかしい」

 こんなに早く二度目を出してしまうことに躊躇っているのかと気付く。そんな事、気にする必要なんてないのに。

「二回位じゃ終わらせないよ。空っぽになるまでやるんだからな。早く出したほうが明日の体力残せると思うけど」

 最後の理性を剥がしてやろうと先端を揉みしだいた。声をあげ、一ノ瀬の体が痙攣する。白濁が噴き上げられ一ノ瀬の体を汚した。

 荒い呼吸をする一ノ瀬の口に舌を差し入れながら腰を動かした。少し休んだつもりなのにあっという間に俺も果てた。まさに三擦り半。俺は一回目だからご愛嬌と心の中で言い訳する。

「このまま二回目やっていい?」
「え……」
「ぜんぜん、おさまんない」

 一度吐き出したというのに俺のものは硬度も大きさも衰える気配がない。直に一ノ瀬の肌に触れて伝わってくる体温が、俺に貫かれ喘ぐ一ノ瀬の声が、俺を締め付ける一ノ瀬の体が、目の前に一ノ瀬がいるという事実が、俺の興奮を煽って休ませてくれない。

「おまえがアメリカなんて遠いとこに行くから、俺、欲求不満でたまりまくってんだからな」

 腰を打ちつける度、卑猥な濡れた音が聞こえる。一ノ瀬が俺の肩をぎゅっと掴んで顎をそらせる。

「浮気もしないでおまえのことばっか考えて、夢の中でやりまくって、夢精までして待ってたんだからな」
「論っ、あ、待て!」
「待てない、待ちくたびれて気が狂いそうだったんだぞ俺は!」

 怒鳴るように言いながら、今まで我慢していたものが噴き出してきた。自分でもコントロール出来ない欲望を一ノ瀬にぶつけた。

 ~ ~ ~

 気がついたら俺はぼんやり天井を眺めていた。正直、何度したのか覚えていない。肌寒さに体を震わせ、膝を引き寄せる。隣で一ノ瀬が布団に包まって眠っていた。

「一ノ瀬……」

 夢か、と思った。一ノ瀬はアメリカだ。俺の隣にいるはずがない、と。

 その頬に触れる。暖かい。手の平に包むと一ノ瀬がうっすら目蓋を開いた。俺と目が合うと、

「馬鹿」

 と夢の中の一ノ瀬は言った。夢でもこいつは俺を馬鹿呼ばわりするのかと苦笑する。

「がっつきすぎだ。おまえは理性のある人間だろう、獣じゃないんだから」
「何のことを言って……」

 はっとなって起き上がった。鉄雄さんの店の二階。ベッドの上。リアルによみがえる一ノ瀬との情事。

「俺!」
「なんだ? 寝ぼけてるのか?」
「ごめん! 無茶なことした!」
「おまえが無茶なのは昔からだ」
「ごめん!」

 布団の上から一ノ瀬に抱きつく。

「大丈夫? 平気だった?」

 布団の中に手を入れて、さっきまで俺を受け入れていた場所を触ろうとしたら、顔を真っ赤にした一ノ瀬に突き飛ばされた。

「何するんだ、馬鹿!」

 指でもアレでも、存分に味わった場所なのに、そういう雰囲気がなくなると途端に恥ずかしがる。俺はそういう一ノ瀬も好きだ。

「ほんとに大丈夫だった? 俺、何回した?」
「知るか、馬鹿」
「もう途中から頭真っ白で」
「ただの飢えた獣だったぞ」
「いやぁ、ほんとに飢えてたから」
「馬鹿」
「馬鹿馬鹿言うなよ。おまえだって悪いんだからな。会いたいなんて誘い出して、エロい顔して俺を挑発して、やらしい声で俺を煽ってきたのはおまえなんだからな」
「俺がそんなことっ」

 素早く額にキスした。不意をつかれた一ノ瀬がびっくりして黙る。

「お帰り。帰って来てくれて嬉しいよ」
「う、うん」

 恥ずかしそうに目を伏せる。

「大好き」

 愛しい気持ちでいっぱいになり、一ノ瀬をぎゅっと抱きしめた。このときになってようやく、一ノ瀬が帰ってきたのだと実感し、心の底から安堵することができた。

 一ノ瀬のいない半年、俺もそれなりに色々考えさせられた。一ノ瀬のことを大事に思うなら我慢することも必要だということ。俺の自立が一ノ瀬の負担を軽くするということ。一ノ瀬が絡むと理性的でいられなくなることで、あいつには迷惑がかかるということ。今まで一ノ瀬でいっぱいだった視界を広げ、人間的に成長し、頼れる男になる。

 それらは一ノ瀬のためであり、俺のためでもある。

 白樫やサンジャイに言われたこともよくわかる。樋口の考え方にも共感できるものがある。そして最終的に俺が出した答えは至極シンプルなものだった。

 俺は俺らしく生きる。


(初出2008年)
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