FC2ブログ

大人のスーツ(1/12)

2020.09.27.Sun.
<「ピーキー」→「毒入り林檎」→「未成年のネクタイ」→「言えない言葉」→「Question」→「Answer」→「OVERDOSE」>

  暗い室内に、一ノ瀬の吐息と布擦れの音。

「恥ずかしい」

 と言う一ノ瀬の体にキスをしながら、手を下半身へ伸ばし、今日二度目の反応を見せる屹立を優しく握った。

 先から零れる透明な液体を指にとり、先端を揉みしだくと一ノ瀬は小さな声をあげた。それが悪いことでもないのに、一ノ瀬は両手で自分の口を塞いだ。

「聞かせて、一ノ瀬の声」
「いやだ」

 首を横に振る。俺は苦笑する。

 ずいぶん前から用意して、なかなか出番のなかったローションを手の平に出し「ちょっと冷たいよ」と前置きしてから一ノ瀬の後ろに手を入れた。途端、一ノ瀬の体が強張り、不安そうな目が俺を見あげてきた。その目に微笑みかけながらそっと指を中に押し入れた。

「ごめんね」

 何に対して謝ったのか自分でもわからない。それでもまた俺は「ごめんね」と繰り返し、指を奥深くまで入れた。中でクイと動かす。

「変、な、感じ」

 一ノ瀬がポツリと言った。

 今まで感じた事がないほどの愛おしさが込み上げてくる。俺にはもう余裕がない。でも一ノ瀬を傷つけたくなくて、熱い息と一緒に劣情を吐き出した。肩で荒い息をしていると、自分が獣になったような気がしてくる。

 さらにローションを継ぎ足し、充分時間をかけて中をほぐした。

 顔の前で手を握りしめ、怖いのか、不安なのか、何かを耐えるような顔をした一ノ瀬の口から「もう、いいから」と聞いた時には、俺は汗だくになっていた。

「いいの? 俺、もう、途中で止められないと思うよ」
「いいから、木村、早く……」

 一ノ瀬のそんな言葉だけで頭の中に白い火花が散った。喘ぐように呼吸をしながら、俺は自身に手を添え、一ノ瀬の体の中に身を埋めていった。

「あ、う……」

 目を瞑り、顎をそらせる。そんな一ノ瀬を見下ろしながら、ベッドについた手で自分の体重を支え、腰を押し進めた。

 ずっと夢見ていたこの瞬間。高校二年の春に一ノ瀬と出会い恋をした。今まで付き合った誰にも感じたことのない感情を一ノ瀬には持った。あれから二年。性的に淡白らしい一ノ瀬に最後の一線をかわされ続けて今日ようやく、俺は一ノ瀬をこの手に抱くことが出来た。

 全部収まって俺は「あぁ……」と溜息とも喘ぎ声ともつかない息を吐いた。

「動いても大丈夫? しばらくこのままの方がいい?」

 目をあけた一ノ瀬が俺を見て驚いた顔をする。

「何を泣いてるんだ」

 と、俺に向かって手を伸ばしてくる。俺の頬に触れた一ノ瀬の手は熱い。

「俺、泣いてる? あれ、ほんとだ。感動してるからかな、ずっと一ノ瀬とこうしたかったから嬉しくて」

 手で涙を拭う。一ノ瀬は優しく微笑むと俺を引き寄せ、キスしてくれた。

「ごめん、焦らすつもりじゃなかったんだけど、どうしていいかわからなかったから」
「わかってる。男同士でセックスするの、抵抗あるよね、わかってるよ」

 一ノ瀬はノンケだ。男は俺だけ。いや、女とも経験がない。それでいきなり俺を受け入れるのは抵抗があるだろう。不安を感じていただろう。一ノ瀬の性格を考えるとそれは容易に想像できる。だから俺も無理強いはしたくなかった。体を触りあって射精に至る、そんな接触だけで今までずっと我慢してきた。それでも最後にはこうして俺を受け入れてくれた。だから涙が出た。

「安心して。俺、たぶん長くもたない。もう、出ちゃいそうだから」

 恥ずかしいことを打ち明けたら、

「君が好きだ、論」

 好きだと言われ、初めて下の名前で呼ばれ、歓喜に体が震えた瞬間、自分では止めようがなくあっさり果てた。

 ~ ~ ~

「あっ……」

 絶頂感と自分の声で目が覚めた。慌てる俺の意思に逆らって射精は続く。

「嘘だろ……」

 二十歳になって夢精する自分が情けなくて溜息が出た。気持ち悪い下着の感触。自棄になって笑い飛ばした。

 時計を見ると朝の五時前。二度寝して夢の続きを見たい気もしたが、起きたままさっきの幸福感を味わっているほうを選んでシャワーを浴びる事にした。

 初めて一ノ瀬を抱いた日のことは忘れもしない。この先きっと一生忘れられない記憶だろう。

 大学に入って一年も終わろうという頃、俺は経済学部、一ノ瀬は外国語学部で、しめしあわせでもしない限り顔を合わすことのない構内を歩いていたら、一ノ瀬から一緒に帰ろうとメールがきた。

 一ノ瀬が、英語教師になりたいのだと教えてくれたのは高校を卒業するとき。そのぎりぎりまで教えてくれなかったのは、俺が一ノ瀬のあとをおいかけて進路を決めるのではと一ノ瀬が危惧していたからだ。さすが、よくわかっていらっしゃる。

 俺はそれを聞いた時、なんだか少し意外な気がした。それを言うと、

「祖父の影響かもしれない。あの年の人にしては珍しく流暢な英語をしゃべるからな。祖父は若い頃、外国のあちこちを見てまわっていたらしくて、それを子供の頃よく聞かされた」

 と一ノ瀬は言った。

 英語の教師ねぇ。俺はそれを想像して、愚かにもまだ見ぬ一ノ瀬の職場の同僚や一ノ瀬を慕う生徒に嫉妬したものだ。

 カフェで1コマ俺が待ち、合流した一ノ瀬と一緒に帰った。

「木村に話したいことがあるんだ」

 こういう前振りは妙に人を不安にさせる。まさか、俺と別れたいなんて言い出すんじゃないだろうな。

 身構える俺を見て「何を怖い顔してるんだ」と一ノ瀬は首を傾げた。きょとんとした顔がかわいくて抱きしめたくなる。

 大学に入って間もなく、法学部二年の白樫という男が俺に声をかけてきた。法曹ものの映画に出てくるお堅い弁護士そのままの風情の白樫は、自分もゲイだと告白し、高校で俺たちの噂を耳にしていた、とも言った。その男から俺は助言を受けた。

「本当に一ノ瀬と付き合ってるの? 彼のことは僕も少しは知ってるけど、彼はもともと男が好きってわけじゃないんだろ? 高校では、ただふざけているように見られていたけど、大学にはいろんなやつが集まってくる。高校と違って、君たちを面白おかしく思うだけじゃなく、あからさまに不快感を示して差別的なことを言ってくる奴もいるだろう。君はよくても、彼はそれに耐えられるのか? そろそろ時と場所をわきまえるべきだ。こんな忠告をするのは僕も辛いけれど、君は感情がストレート過ぎて見ていてハラハラする。こんなお節介を言うのは勇樹に頼まれたからなんだ。だから悪く思わないでくれ。僕も勇樹も、君たち二人が心配なんだ」

 勇樹。最初、誰のことかわからなかったがサンジャイのことだと思い出し、舌打ちしそうになったが堪えた。

 確かにこの男の言う通りだ。子供の頃なら男同士でイチャイチャしていたってからかわれて終わりだったが、大人に近づくにつれ冗談では済まなくなってくる。俺はよくても一ノ瀬が世間の目を気にしないはずがない。だから俺は、サンジャイのことはひとまず忘れて、白樫の忠言に従うことにした。

 だから今だって、不思議そうな顔をする一ノ瀬に触れたいのを我慢しているんだ。

「俺、絶対別れないからな」

 一ノ瀬を睨んだ。

「そんな話じゃない。おまえに話しておきたいことがあるだけだ」

 話しておきたいことって一体なんだ?




出てたの知らなかった!(><)
関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
お返事
KK様

うわああお返事遅くなってすいませんっ!!!お返事の内容考えてるうちに自分の中でお返事した気になってしまっていたみたいです。とんでもない失敗です。本当に申し訳ありません!!(土下座)

嬉しいコメントをくださったのに(泣)どうぞグレッチで打って。
この2人の初夜、だいぶ時間かかりました。木村はかなり待たされました。しかも回想!時間が経って振り返ると色々酷いな、と思いましたが、KKさんのように言ってもらえるとすごく救われるし嬉しいです。ありがとうございます!
(なのに私ときたら…)
これからも楽しんでもらえるように頑張ります!そしてちゃんとコメント送信したかどうか最後まで確認します。本当にすいません。懲りずにまた来てくださると嬉しいです。待ってます。

管理者にだけ表示を許可する