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Answer (9/11)

2020.09.14.Mon.


 俺はいま、千葉県の自動車教習所にいる。予約していた合宿に参加中だ。

 一ノ瀬とは終業式のあの日から一言も口をきいていない。会ってもいない。電話しても繋がらない。一ノ瀬を怒らせた。完全に嫌われた。自分の愚かさに溜息しか出ない。

 ツインで同室になった高校生の荻窪という男が、合宿で一緒になった女の話をしているのを上の空できいていた。

「なぁ、木村、お前も今晩ボーリング行くだろ。お前が来るなら彼女たちも行くか考えるって言うんだよ、頼むから来てくれよ」
「そうだな」
「聞いてるか、人の話」
「そうだな」
「聞いちゃいねえよ」

 まだここにきて10日しか経っていない。あと一週間近くここにいなくちゃならない。一ノ瀬に会いたい。会ってちゃんと謝りたい。あんなことしたくなかったのに、頭にきて焦って理性を失って、一番してはいけないことを一ノ瀬にした。あいつ、頭打ったの、大丈夫だったんだろうか。

 心配すればするほど、悪いと思えば思うほど、どんどん胸が苦しくなる。苦しい。痛い。辛い。なんでこんなに苦しいんだ。どうして一ノ瀬だけは簡単に割り切ることができないんだ。

 会いたい。一ノ瀬の姿を一目でいいから見たい。声が聞きたい。 もうそれすら俺には許してもらえないんだろうか。

 携帯を出し、一ノ瀬に電話した。留守電に繋がる。

「この前はごめん、また電話する」

 何度目かわからないメッセージを吹き込み、電話を切ってベッドに寝転がった。

「ここ来てから何回目だよ、その電話。まだ彼女に許してもらえないのか?」

 向かいのベッドから荻窪が言う。

「もう諦めたら? ここ来てる子で可愛い子たくさんいるぞ。だから今晩のボーリング行こうぜ」
「俺、パス。もう寝るわ、おやすみ」

 荻窪に背中を向けた。早く帰りたい。どうしてこんな時に俺、合宿来てるんだろう。

~ ~ ~

 最短の日程で合宿を卒業した。帰る途中一ノ瀬に電話をしたがやっぱり繋がらない。そういえば俺は一ノ瀬の家を知らない。会いに行こうにも、どこへ行けばいいのかわからない。

 いつか、一ノ瀬が俺のことを良く知らないと言ったが、それは俺も同じだった。 俺も一ノ瀬のことを何も知らない。今更気付いて愕然となる。俺はこの一年、いったい何をしていたんだろう。

 試験場で適性検査と学科試験をパスし、免許証を手に入れた。今は何の意味もない免許証。嬉しくもなんともない。

 その足で鉄雄さんの店に向かった。俺が免許を取ったというと、お祝いだと酒を出してくれた。

「あとは車だな」

 そう言う鉄雄さんに無言で頷いた。

「元気がないな、嬉しくないのか」
「うん? まぁ、嬉しいよ」
「まだ一ノ瀬と仲直り出来てないのか」
「うん、って、気付いてたの?」
「そりゃあれだけ派手に北野さんとやりあったんだ、俺だって気付くよ」

 鉄雄さんに一ノ瀬のことは話していない。聞かれなかったし、わざわざ言うことでもない。確かに、北野のわざとらしい挑発に乗った俺を見たら、大概のことは想像がつくだろう。

「菱沼さんの言う通り、相変わらずなんだよ俺は」
「よくわからんが、早いとこ仲直りしちまえよ。あの子のために免許取ったんだろ」
「仲直りしたいのは山々だけど、その糸口がなぁ」

 なかなか見つからないのだ。俺は頭をかきむしった。

「電話しろよ」
「何回もしたよ」
「出るまでかけ続けろ」
「ストーカーじゃん俺」

 いや、もうすでにストーカー認定されるくらい何度もかけたか。 ポケットから携帯を出し、一ノ瀬に電話した。きっと出ない。また留守電だ。そう思っていたが、唐突に呼び出し音が途切れた。

『やぁ、ロン、久し振り』

 耳に飛びこんできた声は一ノ瀬とは別人のものだった。誰だこいつ。この声、この話し方、聞き覚えがある。

「てめぇ、北野か」
『声でわかってくれて嬉しいよ』
「なんでお前が一ノ瀬の携帯に出るんだよ、一ノ瀬はどうした」
『彼が俺の部屋に訪ねて来てね』
「だから、一ノ瀬はどうしたんだって聞いてんだよ、お前一ノ瀬に何しやがった!」
『あの子は今シャワー浴びてるよ。あぁ、もう出てくるみたいだ。邪魔するなよ、じゃあな』

 電話が切れた。もう一度かけた。電源が切られていて繋がらない。北野、あいつ、一ノ瀬に何する気だ。血が逆流する。体中が熱い。

「北野さんがどうしたんだ」

 鉄雄さんに答える時間も惜しく店を飛び出した。広い通りでタクシーを拾って北野の部屋の住所を告げる。怒りで体が震えてくる。畜生あの野郎、一ノ瀬に何かしやがったらただじゃおかない。

  もう一度一ノ瀬の携帯へ電話をした。やはり繋がらない。握り締める手の中で携帯が変な音を立て、壊れた。

「どうしたんですか」

 運転手が話しかけてきた。バックミラー越しに不安そうな目と合う。鼻息荒く体を震わせながら携帯電話を握り潰していたら不審がられても仕方がない。

「緊急事態なんです、急いでもらえませんか」

 運転席の横にある料金トレイに一万円を置いた。

「抜け道知ってるんで、そっち行きましょう」

 スピードがあがった。



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コメント
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お返事
KKさん

コメントありがとうございます!
果たして北野は良い奴なのか悪い奴なのか、一ノ瀬は手籠めにされてしまうのか!それは今日の更新で明らかになります!
私も優等生がヒイヒイ言わされるのが好きなのでお気持ちすっごくわかりますw
しかし如何せん、このシリーズはもう最後まで全部書き終わっているですよ…すいません汗
もうちょっと先になりますが、一ノ瀬もちゃんとえっちしますので、それを楽しんで頂けたら嬉しいです!


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