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Answer (8/11)

2020.09.13.Sun.


 朝一で一ノ瀬がいるクラスに出向いた。まだ人数の少ない教室、一ノ瀬は窓際の席に座って外の景色を見ていた。

 中に入って一ノ瀬の前の席に座る。一ノ瀬は俺に気付いているはずなのに、横を向いたままこちらを見ない。

「昨日、北野が言ったことなんだけど。あれ、全部デタラメだから。俺、ほんとに鉄雄さんのことはもうなんとも」

 話の途中で一ノ瀬が立ち上がった。俺の顔を見ずに教室から出て行く。俺の存在は完全無視だ。一晩経ったら少しは怒りも収まって話くらいは聞いてくれるんじゃないかと思っていたがどうやら甘い考えだったらしい。

 一ノ瀬を追いかけて教室を出たら松村と出くわした。

「お、木村、ここで何してんの」
「ちょっと一ノ瀬を──」
「一ノ瀬ならさっき廊下走ってどっか行ったぞ」
「まじか」

 松村の言う通り、廊下に一ノ瀬の姿は姿はなかった。何も走って逃げることないじゃないか。

 休み時間の度に一ノ瀬のいる二組に出向いたが、それより早く一ノ瀬は教室を出て姿をくらましていた。クラスの奴らから「一ノ瀬を探してるのか、ラブラブだなぁ、お前ら」とからかわれたが、これのどこがラブラブに見えるのか教えてもらいたい。

 放課後になっても一ノ瀬を捕まえることは出来なかった。あいつが消えるまえに教室に辿りついたとしても、反対側の出入り口から脱兎のごとく駆け出し姿を消す。さすが元陸上部。

 そんなことが数日続いた。さすがに異変に気付いたらしく、今日も教室に現れた俺を見て二組の奴らは「お前、ほんとに一ノ瀬に嫌われてるなぁ。もう諦めれば?」と勝手なことをほざきやがった。

 苛々がだんだん焦りにかわる。今週から夏休みに入る。その前にあいつを捕まえてきちんと話をしなくては。

 なのになかなか捕まえることが出来ず、とうとう終業式当日を迎えてしまった。

 体育館でおこなわれた終業式。その帰りが狙い目。教室に戻る一ノ瀬を捕まえて、何がなんでも話を聞かせる。今日こそくだらない誤解を解く。

 終業式が終わり、三年生から先に体育館を出て行く。人混みをかきわけ、一ノ瀬のクラスへ追いついた。一ノ瀬の後姿を見つけ、その腕を掴む。

「こっち来て」

 耳打ちして、渡り廊下から一ノ瀬を引っ張り出した。保健室横の男子トイレに連れこむ。一ノ瀬が「はなせ」とわめくのを無視して個室の扉に押し付けた。

「もう俺に関わるな!」
「俺の話聞いて」
「聞きたくない!」
「俺が好きなのはお前だけだ、鉄雄さんじゃない。北野が言ったのは嘘だ、お前を騙すために言っただけだ」
「俺を騙していたのはお前だ」
「違う、俺を信じろ」
「信じられるか!」

 かっと頭に血がのぼった。初めて会った北野の言うことは簡単に信じたくせに、長く一緒にいる俺の言葉は信じられないというのか。俺がどれだけお前を思って、どれだけお前を大事にしてきたか、その全部を信じられないと言うのか。

『だったら犯しちゃえばいいだろ』

 頭に北野の言葉が甦った。理性で押し隠してきた俺の願望。手っ取り早く一ノ瀬をものにできる方法。俺の理性の箍が外れた。

 後頭部を掴んでぶつかるようにキスした。 一ノ瀬が抵抗して暴れる。強い力で胸を押してくる。それがむしょうに俺を苛立たせた。

 制服をたくし上げ、裸の胸に吸い付く。肩を押された。腹が立って一ノ瀬を後ろ向きにひっくり返し、扉に押さえつけた。手を前にまわし、ベルトを外す。下着の上から一ノ瀬のものを握った。

「木村っ、馬鹿な真似はよせ!」
「馬鹿はどっちだ、俺より北野を信じたくせに!」
「俺を瀬川さんのかわりにするなっ!」

 一ノ瀬の言葉にブチ切れた。自分では制御不能な激しい怒り。暴れる一ノ瀬を、それこそ力任せに扉に打ちつけた。一ノ瀬が小さく叫ぶ。その体がグラリと傾ぐ。膝から崩れ落ちる一ノ瀬を咄嗟に抱きとめた。

「一ノ瀬っ」
「……馬鹿ッ……何するんだ……」

 頭をおさえて一ノ瀬が顔を顰める。サッと血の気が引いた。

「ごめんっ、ごめん、一ノ瀬! 大丈夫? どこ? ぶつけたのどこ?」

 慌てて一ノ瀬の頭をまさぐる。俺はなんてことを一ノ瀬にしたんだ。

「ごめん、一ノ瀬、ごめん」
「うるさい、もう俺に構うな。誰かのかわりなんてごめんだ」

 頭をおさえたままふらつく足取りで一ノ瀬はトイレから出て行った。追いかけたかったが足が動かない。理性を失い、怒りに任せて一ノ瀬にひどいことをした。そんな自分が信じられなかった。



深潭回廊(1)

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