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Answer (4/11)

2020.09.09.Wed.


 戸惑う俺を男は手招きする。ここにつっ立っていても仕方ない。中に入った。

 中は一面板の間。必要な以外、壁や柱はない。入って右手はキッチン、左手に水周り。 奥はテーブルと黒のソファ、その後ろに散髪台が二台、奥にはシャンプー台があった。ここは美容室らしい。俺は散髪したいなんて思ってないぞ。

「難しい顔してどうした? ヒシから俺のこと、聞いてないのか?」

  手に酒の入ったグラスを持った男がソファに座って言う。俺は黙って頷いた。あの人はそんな親切な人じゃない。

「あんたが北野?」
「そうだよ。ヒシから聞いていたより君がいい男で嬉しいよ。座ったら」

 座れと言われても北野の隣しか座る場所はない。なんとなくヤバそうな雰囲気。しかし尻込みしていると思われるのも癪で、言われるまま北野の横に腰をおろした。

 さっきから部屋に充満しているあまったるい匂いはこの男から発せられるらしい。近くに座っているとそれが一層濃くなる。この匂いに悪酔いしそうだ

「高3だって?」

 グラスを俺に手渡す。冷えたそれを受け取り、一口飲んだ。

「そういうあんたは?」
「25」
「老けて見えるな」
「よく言われるよ、傷つくなぁ」

 そう言うが笑っている。 得体が知れない。俺は警戒した。なんだかこいつは気に食わない。

「その制服、住大だよね、頭いいんだ」
「制服着てるだけで頭が良く見られるなら楽なもんだな。俺は何でここに連れて来られたんだ」
「ヒシが男もいける知り合いがいるって言うから会ってみたくなったんだよ。鉄雄君に振られたらしいね」

 菱沼さんがしゃべったのか。あの人には一度きちんと言って聞かせないと、この先会う人会う人みんなに俺の傷心の過去を言いふらしかねない。

「昔のことだ」
「俺も彼は好きだよ、なかなかいい男だよね」

 こいつ、ひょっとして。

「俺もゲイなんだ」
「なるほどね、あの人はゲイのあんたに俺を差し出したってわけね」

 菱沼さん、こういうのを余計なお節介って言うんだぜ。

「男の経験はあるの?」
「ま、少しはね。でも悪いな、今は間に合ってるよ」
「ほんとかい。ヒシからもらった電話では、振られて落ち込んでるって聞いたけど」
「菱沼さんの勘違いだ、振られてなんかない」
「じゃ、どうして落ち込んでたんだ?」

 青い目が俺の目を覗きこんでくる。何もかも見透かされそうな気がして目を逸らした。

「今付き合ってんのがノンケの奴だから、なかなか思う通りにいかなくて苛々してたんだよ」
「だったら犯しちゃえばいいだろ」

 なんともないふうに言う北野に驚いた。見つからないように丁寧に奥へ隠した俺の本音をあっさり見つけ、目の前に突きつけられた気がした。

「そんなこと、あいつに出来るわけないだろ」
「嫌われるのが怖いか? 嫌われたらまた次を探せばいいじゃないか」
「それはあんたのやり方だろ、俺のやり方じゃない。俺は段階踏んでじっくりやるよ」
「あはは、気が長いことだ。大人びて見えたけどやっぱりまだ子供だな」

 北野はグラスをテーブルに置いた。ガチャンと耳障りな音。ソファの上で片膝をつき俺を見下ろしてきた。

「プラトニックなんて俺には考えられないね。そいつはこんなことしてくれないだろ」

 言って俺の股間に手を伸ばす。長い指がそれをなぞる。言葉通り、即物的で衝動的。こいつはやっぱり気に入らない。

 北野の舌が俺の首筋をねっとり舐め上げた。俺より背は高いが細い体。つき飛ばしてはなれるのは簡単だ。ぶん殴れば一瞬で終わる。だが、久し振りに他人から与えられる刺激が思いのほか気持ちよくて、ついそのままにさせてしまった。

「相手はどんな男だ?」
「あんたに関係ねえだろ」
「何もさせてくれない男を大事にしたって仕方ないじゃないか」

 笑いを含んだ北野の声。耳を塞ぎたくなった。

「ロン、君、ウケ? タチ?」

 俺の耳に舌を入れながら囁く。

「タチだよ」
「残念、俺もなんだ」

 言いながら北野は俺のズボンのチャックをおろし、中からひっぱりだしたものを扱き出した。

 一ノ瀬のことを思い出した。罪悪感がわきあがる。あいつ、俺が浮気してやると言っても、好きにしろとまったく取り合わなかった。本当に好きにしていいんだな。

 俺は欲求不満だった。キスだけでそれ以上の関係に進めないことに、我慢の限界だった。

「俺を呼び出したってことは入れてもいいんだろ」

 自暴自棄に似た加虐性。青い目をした北野は微笑んだ。

「好きな男がいるんだろ」
「バレなきゃいい。あんた相手だと気兼ねもしなくてすみそうだ」
「俺なら遊びと割り切って後腐れもないというわけか」
「そうだ」
「はっきり言う。そういうところも気に入った。が、俺は根っからタチでね、その要望には応えられないな」
「力づくでも? 俺は今頭にきてるんだ」
「君には無理だ。俺はこう見えても強いぜ」

 ぐいと腕をひっぱられ、その腕を後ろにねじりあげられた。関節が嫌な音を立てる。痛みに顔が歪む。

「趣味で格闘技をしていてね」

 悠然と笑う北野を睨み付けた。この細い体のどこにこんな力があるのかと驚く。

「俺を犯そうってわけ?」
「今はまだそんなことしない」

 今は、だと。ふざけやがって。

「じゃ、何する気だ」
「楽しむんだよ、さぁ、言えよ、どうして欲しい?」
「……口で、やれよ」

 北野は唇を吊り上げて笑った。赤い舌を出して俺のものを舐める。口にくわえて音をたててしゃぶる。なんて卑猥で下品な奴だ。

「俺に突っ込んで欲しくなったら言えよ、俺はいつでもOKだから」

 なんて馬鹿なことを言う。

 最後は北野の頭を押さえ、口の中にぶちまけた。久し振りに味わう満足のいく絶頂感。それも一瞬で消えた。どうして相手が一ノ瀬じゃないんだ。あとに残ったのは噛んで咀嚼することも出来ない大きな罪悪感だけだった。



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