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Question (10/11)

2020.09.04.Fri.


 体を揺さぶられて目が覚めた。目の前に鉄雄さんが立っている。

「風邪ひくぞ、お前」
「今何時?」
「12時だ。俺は近くに部屋を借りてるから、お前たちはここに泊まって行くか?」
「ううん、帰るよ」

 今日は一ノ瀬と楽しい時間を過ごす予定なんだ。 一ノ瀬はこちらに背を向けたまま動かない。 まだ寝ているようだ。

「バイトのことだけど、本当にいいの?」
「あぁ、俺はいつでもいいぞ」
「ありがとう、鉄雄さん。 今日は誘ってくれて嬉しかった」
「俺も久し振りにお前に会えてよかったよ。じゃ、俺は店に戻るから」

 下におりて行く鉄雄さんを見送り、俺は一ノ瀬に向きなおった。動かない肩に手を置く。

「一ノ瀬?」

 呼ぶとすんなり瞼が開いた。むくりと起き上がり、目を伏せる。寂しげに見える、あの目だ。俺の庇護欲がかきたてられる。あの時手を出さなくて本当に良かった。

「そろそろ帰ろうか」

 一ノ瀬は無言で頷き、ベッドから立ち上がった。少しふらついたのを手で支えた。一ノ瀬が俺の顔を見る。まだ酔っているのか、目が潤んでいた。

「気分が悪いな」

 そう言って目を逸らす。テキーラを二杯も飲むからだ。気だるい様子の一ノ瀬をつれて下におりた。

 菱沼さんはまだ酒を飲んでいる。鉄雄さんと菱沼さんに挨拶をしてから店を出た。

 冷たい外気に首がすくんだ。吐く息も白い。早く家に帰らないと一ノ瀬が風邪をひく。一ノ瀬はマフラーを手に持ったままぼんやりして巻こうとしない。それを取って俺がかわりに首にまいてやった。酒が残っている一ノ瀬は俺のやることにいちいち文句を言わないからやりやすい。

「こっから歩いて20分くらいだから」

 一ノ瀬の手を握り、俺のコートのポケットに入れた。そのまま手を繋いで歩いたが一ノ瀬は無反応。 こんなふうに手を繋いで歩けるなら、絡み酒を我慢する価値はある。

 家までの道のり、二人とも黙って歩いた。ポケットの中で繋いだ手が温かい。どうしようもなく一ノ瀬が愛しかった。

~ ~ ~

 家の前に到着して一ノ瀬も正気に戻ってきたのか、

「こんな時間に非常識だ、やっぱり今日は帰る」

 なんていい出した。 今何時だと思ってんの。 電車ないよ。

「大丈夫、遅くなるって連絡したし、静かに入ればいいから」
「いや駄目だ、俺は失礼する」

 本当に帰ろうと背を向ける。慌てて腕を掴んだ。逃してたまるか。

「電車もないのにどうする気」
「どこかで時間を潰す」
「馬鹿なこと言うなって、頼むから中に入ってくれ。お前が来てくれなきゃ俺も野宿するぜ」

 一ノ瀬は口を噤んで眉を寄せた。

「……わかった、明日家の人にお詫びをする」

 どこまでも固い奴だ。そんなことより一ノ瀬の気が変わる前にとっとと家の中に入れてしまおう。

 勝手口の戸をあけ、一ノ瀬を中に押し込んだ。腕を掴んだまま玄関へ。そこもクリアし、家の中に入った。真っ暗な廊下を一ノ瀬の手を握って歩く。階段をのぼって俺の部屋へ。明かりと暖房をつけた。

「すごい本の量だな」

 一ノ瀬が本棚を見て呟いた。壁にはめ込んだ棚に数百冊の本がぎっしり。今はほとんど見ることのない無駄な本ばかりだ。

「コート、かけておくよ」

 一ノ瀬からコートを預かり、自分のものと一緒に奥のクローゼットにかけた。一ノ瀬は本棚の前に立って背表紙を見ている。その背中に抱きついた。

「何か興味のある本でもある?」
「全部読んだのか?」
「半分くらいしか見てないよ」
「それでも半分は見たのか」

 と壁一面の棚を仰ぎ見た。昔両親がせっせと買ってきたものだ。半分くらい目を通したところで飽きてしまった。

「なにか飲む?」
「いや、いい」
「もう酔いはさめた?」
「あぁ、大丈夫だ」

 そう言う時、一ノ瀬の顔が少し赤くなった。自分の失態を思い出して恥ずかしくなったのだろう。一ノ瀬が嫉妬するなんて初めてのことだ。あんなふうに素直になってくれるなら、たまに酒を飲ませるのもいいかもしれない。

「で、いつまで俺に抱きついてる気だ」
「寒いかと思ってね」
「寒くない」
「俺が寒い」
「暖房が効いてきてる」
「こういうの嫌?」

 一ノ瀬は黙った。嫌じゃないって解釈でいいんだよな。

「一ノ瀬は俺のことどう思ってる?」

 一ノ瀬のにおいがする首筋に顔を埋めて聞いた。皮膚すれすれに唇を這わす。一ノ瀬は首をすくめた。

「不真面目で軽薄でお調子者でいい加減な奴だと思ってる」

 そういう意味で聞いたんじゃないけど、ひとつも褒め言葉がないのはさすがに酷くないか?

「ひでぇな、一ノ瀬にはいつだって真面目だぜ」
「どこが」

 心底馬鹿にした言い方。

「俺を怒らせたな」

 首筋にキスした。抵抗する一ノ瀬を強く抱きしめる。力は俺の方が勝ってる。

「放せ、馬鹿」
「俺が本気出したら 一ノ瀬なんか簡単に組み敷けるんだぜ、それをしないのはどうしてだと思う? お前に本気だからだ」

 引きずるように移動してベッドに押し倒した。暴れる一ノ瀬の肩を掴んで仰向かせる。上から押さえ込み、ベッドに磔にした。下から一ノ瀬が俺を睨んでいる。

「さっきだって酔ったお前に手出ししなかったんだ。酔った一ノ瀬をものにしたって嬉しくないからな。素面のお前でなきゃ、俺はいらない」

 怒った表情だった一ノ瀬が不意に笑った。

「だったら俺はずっと酒を飲んでいよう」

 脱力して一ノ瀬の上に覆いかぶさった。

「そんなに俺が嫌か」
「嫌だなんて言ってない」

 背中をポンポン叩かれた。心地いい。

「だったら好き?」
「おまえはそればかりだな。 その前に何か忘れていないか?」

 俺を見て不敵に笑う。あまり見せない表情に引きこまれる。反射的にキスしていた。一ノ瀬の舌を絡め取る。服の中に手を入れながら一ノ瀬の言葉を考えた。

 俺が何を忘れた?

「わからないなら宿題だ」

 俺を押し返し、一ノ瀬は立ち上がった。服の乱れをなおし、

「さ、もう寝るか」

 涼しい顔で言う。

 俺はその宿題を寝ずに考えた。 一ノ瀬と何か約束したか? 俺は一体何を忘れているんだ? 

 思わせぶりな言い方に、何か大事なものを取りこぼしているような焦燥感が募る。隣の一ノ瀬は寝息を立て眠っている。むしょうに腹が立った。一度ならず二度までもチャンスをフイにしたのだ。完全に一ノ瀬のペース。

 外が白んでくるまで考えてみたが、結局答えは見つからなかった。



映画化…!

長さのアレで分けただけで、次回の11話にたいしたオチがないことを先にお詫びしておきます…!

さて、超大型台風が近づいています!
西日本、特に九州の方はどうぞお気を付けください!
強風がきてからでは危険ですので、台風対策は早めがおすすめです。
私も以前、風が吹いてからベランダ出て作業したら一瞬でビショビショに濡れたし飛ばされそうで怖かったです。
どうぞ皆さんがご無事でありますように。

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コメント
ロンが何を忘れてるのかな?と思って、最初から読み返してみました。

ホントだ!!
大事なこと忘れてる!!

私の答えが合ってるといいなー。
一ノ瀬の心の鍵にピッタリはまって欲しい~(*´▽`*)♪
お返事
そめおさん

当たっておりましたでしょうか?
狙ったものじゃなく、書いた私もあとになって気付いたのであとで使ったろ!と思った次第ですw
言わなくても伝わるだろ系じゃなく、本当にただのうっかりです(私が)

ほんとに言ってないよね?と不安になって読み返しました。…言ってないよね…?

まだこの2人の話が続きますが、気が向いたら読んでやってください^^


ストーリー上の狙いかと思ってました!
昨日読み返すまで気づいてなかったし。

今後の進展が楽しみです(*´▽`*)♪
お返事
そめおさん

私にそんな高度なプロットは組めませんよ~笑
ちゃんと伝えるって一大事をまさかすっぽかしていたなんて書いた本人も思っていませんでした。
続編で使えたので結果オーライです!!
今日から始まった新しい話ではちょっと2人の仲が進展します。が木村が浮気します!
あんがい浮気ものも好きだな私(^q^)デヘ

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