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Question (9/11)

2020.09.03.Thu.


「俺だって酒くらい飲める」
「はいはい、わかったわかった」

 文句を言う一ノ瀬をとりあえずベッドに寝かせた。いったん下におり、水をもらって戻った。

「水、飲むか」
「いらない」

 と言って俺に背を向ける。

「気持ち悪くない?」
「平気だ」
「どうして飲んだりしたの」
「俺が飲んじゃいけないのか」
「飲むタイプじゃないでしょが」
「お前は中/学生の時から飲んでたんだろう」
「あの二人と付き合ってたら避けて通れない道だったんだよ」

 なんだか機嫌の悪い一ノ瀬をこれ以上刺激しないよう二人のせいにした。

「お前はあの二人とどんな付き合いをしてたんだ。酒も煙草も女もだって? 中/学生だったんだろ」

 一ノ瀬は飲んだら絡み酒になるタイプなのかな。今後一切飲ますのはやめさせよう。

「少しだけ、試しただけだよ。一ノ瀬も好奇心で試したことあるでしょ」
「俺はない」
「だったら、どうして飲んだの今日は」
「うるさいな、もういいからお前は下に行け」
「心配だからここにいる」
「あの人が好きなんだろう」
「鉄雄さん? 昔はね。俺の初めての人だし」
「初めての人?」
「そ、初めて好きになった人。あと、俺の体に傷をつけた人」

 怪訝な顔で一ノ瀬が振りかえる。 言葉足らずだったな。

「こっちのピアスの穴、あの人にあけてもらったんだ」

 左の耳たぶを触った。 鉄雄さんに頼んであけてもらった。あの人の手によって、何か体に消えないものを残して欲しかった。ちょっと歪んだ愛情だと今だから思うが、当時は真剣そのものだった。穴を塞がないために学校から帰ってくるとすぐピアスをつけた。今では微笑ましい思い出だ。

「でも今は一ノ瀬しか眼中にないから」

 これは本心だ。懐かしいけれど、鉄雄さんに昔のような恋心は抱かない。

「今だってあの人の言うことには素直じゃないか」
「そうかな、俺、一ノ瀬にはもっと素直だよ」
「ここで働くのか」
「うん、金貯めて免許とって、一ノ瀬を隣に乗せてドライブする」

 考えただけで楽しい未来の想像が止まらなくなる。

「ここでないと駄目なのか」
「家からも学校からも近いからベストだと思ってるけど」
「ふぅん、俺には関係ない」

 と、また向こうをむいた。拗ねたような、怒ったような口調に聞こえた。これは俺の気のせいか。もしかして一ノ瀬は嫉妬しているのか。ベッドに手をつき、一ノ瀬の顔を上からのぞきこんだ。赤く険しい横顔。頬にキスした。

「妬いてくれるの」
「違う」
「嬉しいな」
「違うって」
「こっち向いて、一ノ瀬」

 動かない一ノ瀬の肩を持ってこちらに向かせる。仰向けになった一ノ瀬の唇にキスした。舌をいれたら酒の味がした。

「嫉妬したから、ヤケ酒だったんだ?」

 俺が言うと一ノ瀬は目を逸らした。図星。顔がにやけるのを止められない。今度は額にキスした。

「一ノ瀬は嫉妬しないんだと思ってた。俺が他の誰と話そうがいつも知らん顔してるんだもんな」
「あの人は、他の人と違ったから」
「俺のこと好き?」
「知らない」
「キスしてもいい?」
「さっきしたじゃないか」
「していい?」
「好きにすればいいだろ」

 怒ったように言う一ノ瀬が好きだ。 ベッドに体重を預け、一ノ瀬に覆いかぶさるようにキスした。左手を服の中に入れ、直にその肌に触った。まっ平らな胸に手を滑らせる。一ノ瀬の舌が震えていた。

 俺の手の動きに合わせて一ノ瀬が息を飲む。その反応に我を忘れそうになる。

 いつもならこんなこと絶対させてくれない。突き飛ばされる。最悪容赦なく殴られる。なのに一ノ瀬は俺にされるがままになっている。

 一ノ瀬は酔ってる。 まともな判断ができないに違いない。俺は素面だ。なのに俺まで酔ってしまったような気がする。

 ベルトに手をかけた。抵抗はない。本当にこのまま進めていいのかと一ノ瀬を窺う。どこかぼんやりした目が俺を見ていた。

 俺は二つの感情の間を行き来していた。めちゃくちゃにしてやれ。駄目だ、一ノ瀬は大切にすると決めたんだ。葛藤して手が止まる。

 残酷な試練。俺に全てをゆだねたような一ノ瀬を前に俺は理性を失いかけている。抵抗してくれれば俺も素面に戻るのに、一ノ瀬は無抵抗。

 こんな状態の一ノ瀬をものにしたって嬉しくない。そうだ、今日の俺の目標は一ノ瀬に好きだと言わせることだ。

 正気に戻り一ノ瀬から離れた。

「これくらいにしておかないと止まんなくなっちゃうね」

 ベルトから手を放し、服を元に戻した。一ノ瀬の上から退いて床に腰を下ろす。

 溜息が出た。どっと襲ってくる疲労感。一ノ瀬に手を出さなかった自分を褒めてやりたい。俺はいつからこんなに我慢強くなったんだろう。 いつからこんなに理性的な紳士になったんだろう。声をかけてその日のうちにセックスしていたかつての俺はどこへ行った?

 一ノ瀬はまた俺に背を向けた。もう少し一ノ瀬の酔いがさめるまでここにいさせてもらうか。そのあと、一緒に俺の家へ行こう。そこで素面の一ノ瀬から、好きだという言葉をもらうことにしよう。何も今焦る必要はない。楽しみはその時までとっておく。

 家に連絡して遅くなる旨伝えた。

 一ノ瀬に布団をかけてやり、俺もベッドにもたれながら座って少し眠った。


鬼と蛇

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