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Question (8/11)

2020.09.02.Wed.


 またしばらくして鉄雄さんたちの知り合いらしい面々が何人か店にやってきた。途端店内が騒がしくなったが、菱沼さんがそっちに移動したのでカウンターの俺たちは静かになった。

「いい奴とは言えないけど、悪い奴でもないんだ、気を悪くしないでくれよ」

 鉄雄さんが俺と一ノ瀬の前にコーラが置いた。 一ノ瀬は控えめな笑みとともに首を振った。

「俺の方こそお邪魔してしまってすみません。三人はどういう?」
「こいつがさっきの公園でバスケの練習してる時に知り合ったんだよ。確か、ロン、お前あの時中1だったよな。短い期間だったけど、一緒につるんでたんだ」
「俺が鉄雄さんに振られて終わりってわけ」

 さっき菱沼さんがバラしたから隠す必要もない。 一ノ瀬は「ふぅん」と興味なさそうに返事をしコーラに口をつけた。

「上も改装して綺麗になってるんだ。見て来るか?」

 鉄雄さんが煙草で二階を指す。好奇心で頷いた。

「一ノ瀬、ちょっとここで待ってて。 すぐ戻ってくるから」

 一ノ瀬の肩を叩いて店の奥の階段へ向かった。急勾配な階段とその狭さは昔のまま。軋む階段をあがり、引き戸をあけた。

 以前は畳だった部屋がフローリングになっていた。ベッドの位置はかわらず奥の窓際。左手に机とパソコンと小さな本棚。物とゴミで溢れ返っていたあの頃とは大違い。置いているものも必要最小限。

 ベッドのそばに煙草と灰皿。飲みかけのペットボトル。雑誌が数冊落ちている。

 少し胸が痛むような懐かしさ。俺は鉄雄さんが好きだった。

 ベッドに腰をおろした。枕もとにコンドーム。見つけて苦笑した。あいかわらずそっちも盛んらしい。

 下から菱沼さんの馬鹿笑いが聞こえてきた。ずいぶん盛り上がっている。一ノ瀬を一人残してきたことが急に心配になった。

 店に来てから一ノ瀬は無口だ。もともとあまり人と関わるのがうまい性格じゃないようだし、特に菱沼さんの強烈な個性にあてられて余計に大人しくなっているんだろう。帰ったら文句を言われるかもしれない。

 帰ったら。

 そうだ、今日は一ノ瀬と一緒に俺の家に帰るんだ。思い出したら顔が綻んだ。

 友人でもない、恋人とも言えない俺と一ノ瀬の関係。キスはしたけどそれだけ。それすら俺からむりやりしてるようなもの。

 一ノ瀬の言動一つ、表情一つに俺は振り回されている。二つの相反する欲求を抱え、こっちの頭がおかしくなりそうだ。

 こんなふうに不安定なのは、俺と一ノ瀬の関係がまさに不安定そのものだからだろう。

 今夜はそこのところをはっきりさせてもいい頃だ。せめて「好き」の一言は頂かないと、俺だって不安になってしまう。

 一ノ瀬は好きだと言ってくれない。自分からキスしてくれたこともない。嫌われてはいないと思うが、俺の事を好きだという自信は正直ない。

 また下が一際騒がしくなった。一ノ瀬が気になって下におりた。

 俺に気付いた鉄雄さんが、 顎をしゃくって一ノ瀬を指す。一ノ瀬はカウンターに肘をついて前かがみになっていた。

「どうした、一ノ瀬」

 顔をあげた一ノ瀬から強い酒の匂いがした。まさか飲んだ? あの一ノ瀬が? 確認のため鉄雄さんを見た。

「悪い、ヒシが飲ませたんだ」
「一ノ瀬、お前大丈夫か?」

 一ノ瀬の顔をのぞきこむ。うるさく手で払われた。

「お、ロン、次はお前だ」

 俺を見つけた菱沼さんが向こうのカウンターから人垣を縫ってこちらにやってきた。その手にはショットグラス。まさかと思うが一ノ瀬が飲んだのはテキーラか?

「俺はいいよ」
「何言ってんだ、こいつは飲んだぞ」

 一ノ瀬の肩に腕をまわし、顔を近づける。さっきから妙に馴れ馴れしくて距離が近い。その腕をほどき、間に立った。

「こいつは酒とか飲まないから勘弁してよ」
「何真面目ぶってんだ、お前はよ、昔のほうが付き合いよかったじゃねえか」

 しつこいな。苛々し始めた俺の背後で一ノ瀬が立ち上がった。

「俺が飲む」

 止める間もなく菱沼さんの手からグラスを取り上げ一ノ瀬は一気にそれを飲み干した。

「見かけによらず、面白い奴じゃないか。気に入った」

 菱沼さんが手を叩いて喜ぶ。さっき上にいた時に聞こえてきた歓声と同じもの。これだったのか。

「一ノ瀬、なに酒なんか飲んでんだよ」

 一ノ瀬の顔が赤い。これで二杯目。無茶しすぎだ。

「ロン、ここにいたらまた飲まされるぞ。そいつ連れて上に行っとけ」

 鉄雄さんに頷いて、 俺は一ノ瀬をつれて二階に避難した。くそ、こんなことになるなら一ノ瀬のそばから離れるんじゃなかった。一瞬でも目を離したことを後悔した。






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