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Question (4/11)

2020.08.29.Sat.



 投票の結果、俺は生徒会長なんて役職につくことになった。面倒だ。生徒会なんてただのボランティア雑用係じゃないか。

 まんまとサンジャイの策略にかかってしまたことを今更深く後悔した。まぁしかし副会長は一ノ瀬だし、プラスマイナスゼロということにしておくか。

 会計は二年の大月という女子、書記は佐藤という一年男子。お互いの自己紹介と、前任の委員からの引継ぎで初日は終了した。

 帰り支度を引き伸ばし、他の奴らを先に帰した。俺に引き止められた一ノ瀬は窓辺に立ち、黙りこくって外を見ている。顔は不機嫌そのもの。

「いつまで怒ってんの」

 無視。 そろそろ話してくれてもいいんじゃないかと思う。

「あれはウケるために言ったんだって」
「いい迷惑だ」

 ようやく一ノ瀬が口を開いた。

「あのあと俺がどれだけからかわれたか知ってるか。お前と関わるとろくな事がない」
「でも俺それで当選しちゃったしね」
「面白がってお前に票を入れただけじゃないか、みんな無責任すぎる」

 苦々しい顔で言う。一ノ瀬は真面目だ。俺はそんなところも好きだ。一番最初に興味をひいたのはこういうところだ。

 今までにないタイプ。真面目な堅物が制服を着ている、そんな印象だった。こいつを振り向かせてキスして喘がせたらどんなだろう、そんな好奇心で声をかけた。 ところが今は俺のほうがすっかり一ノ瀬のペースにはまっている。

「あんなもの演説なんて言わない、公約なんて代物じゃない」
「迷惑かけてごめんね。でも一ノ瀬は俺のものだってみんなに宣言したかったんだよ」
「いつ俺がお前のものになった」
「悪い虫がつかないように予防線はったんだって」

 窓際の一ノ瀬と向き合って立った。夕日が一ノ瀬の顔をオレンジ色に染めている。 日が落ちるのが早くなっている。来月には冬休みが始まる。一ノ瀬は俺と会えなくなることをなんとも思わないのだろうか。

 相変わらず一ノ瀬は窓の外を睨むように見ている。夕日が反射した茶色い瞳は俺を見ようとしない。

 こうして放課後の生徒会室で二人で向き合っていると、文化祭の初日のことを思い出した。

 その頃、俺と一ノ瀬は喧嘩してほとんど口をきいていなかった。 一ノ瀬のクラスの出し物はお化け屋敷で、彼女がここに入りたいと言い出した時、俺は気が進まなくて二の足を踏んでいたのだが、彼女にむりやり引っ張り込まれた。

 一ノ瀬はいないだろうと思っていたが、中でドラキュラの格好をした一ノ瀬を見た時は驚いた。俺たちを見た一ノ瀬も驚いた様子で慌てて棺の中に戻って行った。

 外に出て、彼女を残し、もう一度中に入った。一ノ瀬が隠れている棺をノックすると中から一ノ瀬が顔をのぞかせた。

「似合うな、それ」

 からかうつもりで言ったのに、一ノ瀬は無反応。内心焦った。

『二度と俺の前に現れるな。 お前の顔なんか見たくもない』

 期待を裏切った俺に一ノ瀬が言った言葉。また同じことを言われたら俺はショックで立ち直れない。合わせる顔もないのに、こうして目の前に立っているだけで相当な勇気がいる。頼むから何とか言ってくれ。

「口紅塗ってんの?」

 場を繋ぐために発した言葉。

「あ、ああ、女子に塗られた」

 一ノ瀬がそれに応えてくれた。 嬉しくて顔が緩む。

 次の客が入ってきた気配。まだ離れたくはなかったが、

「誰か来たみたいだな、じゃ、俺行くわ」

 出口へ向かって歩き出した。背中に、クイ、と抵抗を感じ振りかえると、一ノ瀬が俺の制服を掴んでいた。一ノ瀬が俺を引きとめた。嬉しくて言葉も出ない。

 すぐ近くで悲鳴が聞こえた。もうすぐここに誰か来る。俺は咄嗟に一ノ瀬と一緒に棺に隠れた。 足音をやりすごし、

「行ったみたいだな」

 俺の言葉に一ノ瀬が頷く。狭い棺の中で目を合わせ、二人共吹き出した。

「嬉しかった。さっきお前が俺を引き止めてくれて嬉しかった。死ぬほど嬉しかった」

 素直な気持ちを一ノ瀬に伝えた。安堵から一ノ瀬を抱きしめた。一ノ瀬は抵抗しない。それどころか俺の背中に手をまわしてきた。

「お、おい、お前ほんとに一ノ瀬か?」

 驚いて顔を覗きこむ。一ノ瀬は俺の肩に顔を埋めた。

「顔を見たくないなんて言って悪かった。本心じゃない」

 俺の不安も苛立ちも全部吹き飛ばす一言だった。やっぱりこいつを手放したくない。改めてそう思った。

 その日の放課後、生徒会室に一ノ瀬を呼び出した。そして、今と同じ、こんなふうに向き合って、俺は一ノ瀬と二度目のキスをしたんだ。

 その時のことを思い出し、俺は一ノ瀬の唇をじっと見つめた。真一文字に閉じられた唇。あれに触れていいのは俺だけだ。

 手を伸ばし、一ノ瀬の頬に手を当てる。一ノ瀬が俺を見る。意思の強そうな瞳。どうしてこいつはこんなに綺麗な目をしているんだろう。

 キスしてもいい?

 聞いてもきっと駄目だと言われる。だから黙って顔を近づけた。顔を背けられた。 顔にあてた手でこちらを向かせ、唇に触れる。抵抗はない。空いた手で体を抱き寄せる。軽く押し返されただけ。薄く目を開ける。一ノ瀬の閉じた睫毛が震えていた。舌を入れた。ぎゅっと強く瞼が閉じる。一ノ瀬の手が俺の腕を掴んだ。

 やばい、止められないかもしれない。二人きりでこんな状況、まず過ぎるだろ。

 いったん口をはなし、一ノ瀬の目を覗きこんだ。どこか怯えたような目。 それを隠そうと睨むように俺を見る。一ノ瀬、俺にはそれは挑発しているようにしか見えないんだよ。

 また口付けた。一ノ瀬の喘ぐような息遣いに理性の糸が切れていく。顎、首筋へ唇をずらした。

「木村、何するっ」

  慌てる一ノ瀬を無視して制服のネクタイを緩めて解いた。こういう時邪魔だから、真面目にネクタイなんかしてくるな。

 シャツのボタンをいくつか外したところで一ノ瀬に突き飛ばされた。俺を睨む一ノ瀬の目、据わっている。それに気付いた瞬間、腹に重い衝撃。せりあがるものを堪え、俺は腹を押さえてその場に蹲った。

「お、お前……」

 殴るか? こんなに強く、手加減なしで。普通殴るか?

「俺はまだ怒ってるんだ。その程度で済んでありがたいと思え」

 真っ赤な顔でネクタイを結びなおしながら一ノ瀬は吐き捨てるように言った。

 ありがたいのか? まじで痛いんですけど。

 でもま、一ノ瀬がしゃべってくれたし、キスできたから良しとするか。腹はかなり痛むが。俺は前向きなんだ。



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