FC2ブログ

Question (3/11)

2020.08.28.Fri.


 今日は朝一で生徒会立会演説会がある。前日一ノ瀬に確認されて大丈夫だと言ったが実は何も考えていない。演説、公約。さて、何を話そうか。

 体育館に移動し、舞台袖で他の立候補者と一緒に出番を待った。サンジャイと一ノ瀬が何か打ち合わせをしているのが見えた。そんなに近づくな。なれなれしく一ノ瀬の肩に触るな。

 俺の視線に気付いたサンジャイがこっちを見た。むかつく顔で笑う。一ノ瀬も俺を見た。眉をひそめる。自分がいま険悪な顔をしている自覚はある。

 最初に書記立候補者の演説、次いで会計、そして会長の番になった。俺の他に二人の立候補者。そいつらの演説が終わり、俺の名前が呼ばれた。観客から声援があがった。他人事だと思ってみんな楽しんでいる。

 一ノ瀬の前を通って舞台へ行く。その時、

「俺が当選したら副会長になれよ」

 一ノ瀬に言った。苦笑する一ノ瀬に背中を叩かれ、舞台に立った。

 クラスの奴らが手を叩き、 口笛を鳴らして野次ってくる。他のクラスからも似た反応。俺って有名人らしいからな。とりあえず手をあげてそれに応えた。

「どうも」

 マイクを通した俺の声が体育館に響いた。観客から笑い声と口笛。

「生徒会長に立候補した木村です。俺は今の学校生活にとりたて不満を感じていません。だから何もしません。不満がある奴は俺のところに言いに来い。その言い分によってはなんとかしてやる。ただし、つまんねえこと言ってくる奴は容赦しねえ。俺は出来るだけ仕事はしたくない。俺と一ノ瀬の時間を邪魔する奴は許さない、それだけは念を押しておく」

 女子からは悲鳴のような歓声、男からは口笛と大きな拍手。

 こいつら全員に一ノ瀬は俺のものだと宣言するちょうどいい機会になった。

 前の体育祭の障害物競走で、俺が引いた借り物のメモは『恋人(いない人は友達でも可)』だった。一ノ瀬しかいない。それなのにその時は喧嘩中。俺も意地になって、目についた女の子の手を引いてゴールした。競技のあとそのメモがマイクで読み上げられ、皆が勘違いした。だから今日は本当のことを言えてよかった。

 舞台袖から一ノ瀬の凄まじい殺気を感じるが、今はとりあえず無視する。

「んで、公約なんだけど、何がいいかなぁ、何も考えてないんだよね」

 本当に何も考えてない。当選すると思っていないし、当選したとしても、何もする気はない。

「あっ、そうだ」

 俺は閃いた。

「公約っつうか、ここでみんなに約束するよ。一ノ瀬を必ず俺のものにする」

 俺の宣言に、鼓膜が震えるほどの大歓声があがった。俺は両手を上げてそれに応えた。舞台袖から飛び出して来た一ノ瀬が俺の襟首を掴みマイクから引きはなす。咽喉がつまって苦しいって。

「ふざけるな! こんなものは公約じゃない、無効だ!」

 一ノ瀬の怒鳴り声に一瞬静まり返ったが、次の瞬間にはスタンディングオベーションでまた歓声と拍手の嵐。慌ててやって来た先生に押され、舞台からおろされた。

 舞台袖で一ノ瀬が怒り狂う。サンジャイは腹を抱えて笑っている。他の立候補者は唖然としている。教師陣は頭を抱えて溜息をつく。俺だけが満足していた。

 教室に戻って投票、その後すぐ職員室で開票。昼には結果が出た。最悪なことに俺は当選してしまった。

 それから二日間、一ノ瀬は口をきいてくれなかった。



関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する