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Question (1/11)

2020.08.26.Wed.
<「ピーキー」→「毒入り林檎」→「未成年のネクタイ」→「言えない言葉」>

 俺が愛してやまない一ノ瀬が、なぜか無条件に信頼し慕っている三年生のサンジャイが、もうすぐ任期終了で生徒会室からいなくなる。とにかく邪魔で目障りだった目の上のたんこぶがいなくなると喜んでいたのに、奴は最後に面倒なことを俺に押し付けてきた。

「お前、生徒会長にならないか」

 いつものように一ノ瀬に会いに生徒会室へ行った俺に、サンジャイはそうのたまった。一ノ瀬の机に座っていた俺は一瞬呆気に取られたが、

「誰がそんなもんになるかよ」

 と、笑い飛ばした。

 俺はサンジャイが嫌いだ。なぜなら俺が知らない小/学生の時から一ノ瀬を知っている。そして一ノ瀬に好かれている。理由はそれだけだが、俺には立派で正当な理由。

「お前なら案外向いてると思うんだがな」

 まだ言うサンジャイを無視して顔を背ける。

「先輩、こいつに会長が務まるわけありませんよ」

 一ノ瀬が口を挟む。

「先輩だって知っているでしょう、こいつの最悪に低俗でだらしない性格を。こいつが生徒会長になったら他の委員が迷惑します」

 何もそこまで言わなくてもいいんじゃないかと思う。俺はつい一ノ瀬を睨んだ。一ノ瀬はまっすぐサンジャイを見ている。畜生、そんなにそいつを見つめるなよ。

 一ノ瀬の顎に手を伸ばし、こちらを向かせた。一ノ瀬が眉を寄せる。

「何をするんだ」
「俺だけ見ててよ」

 一ノ瀬の顔が一瞬で赤くなる。サンジャイは苦笑し、他の委員二人は息を飲んだ。

「はなせ、お前だけを見ていたら目が腐る」

 こんなひどい台詞、普通言うかね。かりにもキスした相手に。俺は可笑しくなって笑ってしまった。こういうところも俺はたまらなく愛しい。こうやって突きはなされることも快感だなんて俺はマゾだったらしい。

「俺は一ノ瀬を目に入れても痛くないのに」
「よし、なら入れてみろ」

 椅子から立ち上がり、立てた人差し指を俺の目の前に持ってくる。ほんとに入れたら痛いでしょうが。その手を握り、指先にキスした。途端に頭を叩かれた。

「死にたくなければ帰れ、この変態! 俺たちは選挙の準備に忙しいんだ!」

  真っ赤な顔で怒鳴る。 こんな照れ隠しはいつものことだ。 これで素直に帰っていたら一ノ瀬の相手は務まらない。

「まぁまぁ、俺も手伝うからさぁ」
「お前がいると邪魔だ」

 顰めた顔のまま椅子に座り直す。最後まで俺を追い出そうとしないのは、やっぱりある程度の好意を俺に持っているからだと解釈する。俺は前向きなんだ。

「はは、お前らいいコンビだな」

 サンジャイが笑った。

「うるせえよ」

 こいつが言うとなんかいちいちむかつく。

「しかし、本当に立候補する気はないか?」
「ないって言ってんだろうが。しつこいな、てめえはよ」
「先輩になんて口きくんだ」

 一ノ瀬が怒る。俺は肩をすくめてみせた。サンジャイに敬語なんて使ったら俺の口が腐る。

「そうか、それは残念だな。会長は副会長を指名できるんだがな」

 ん? 俺はサンジャイを見た。サンジャイはかかった、とばかりにニヤリと笑った。

「俺の時も、副会長を一ノ瀬に指名したんだよ」

 一ノ瀬の顔を見た。一ノ瀬は頷いた。

「なんで?」

 なんでサンジャイは一ノ瀬を指名した? なんで一ノ瀬はそれを受けた?

「会長には副会長を指名する権利がある。先輩じゃなかったら俺も断っていた」

 一ノ瀬が言う。だからなんで? 嫉妬がふつふつわきあがる。

 一ノ瀬に話しかける奴がいたらとりあえず睨み付ける。一ノ瀬に触る奴がいたらとりあえずその手をひねる上げる。一ノ瀬に手を出そうとする奴がいたらぶっ潰す。俺の三か条。サンジャイもそろそろ叩き潰したほうがいいかもしれない。

「お前が会長になれば副会長に一ノ瀬を指名できるぞ。それでも立候補しないか?」

  餌をちらつかせるサンジャイのやり方は気に入らないが、その餌が一ノ瀬とあっては、それが例え罠だとわかっていても飛びつかずにはいられない。

「仕方ねえな、立候補してやるよ」
「じゃこれ、受付の用紙、これに記入してくれ」

 俺の返答を見透かしていたようにサンジャイが紙とペンを俺に寄越した。どこまでも用意のいい男だ。俺はそこに自分の名前とクラスを書き込み、サンジャイにつき返した。

「木村、本気か?」

 呆れ顔の一ノ瀬が俺を見る。

「当選したら副会長にはお前を指名するからな、俺のためだけに働いてくれ」

 一ノ瀬は表現できる限界まで馬鹿にした目で俺を見た。

「お前が当選したらこの学校もおしまいだ」

 学校のため、生徒のために立候補するんじゃない。俺と一ノ瀬、二人の時間のために俺は会長になるんだ。案外悪くないかもしれない。生徒会という正当な理由で一ノ瀬と一緒にいられる。あわよくば生徒会室で2人きり……

「来週、立候補者の演説があるから、公約とか考えとけよ」

 サンジャイの言葉に適当に頷いた。 公約か。そんなもの、何も思い浮かばない。まあぶっつけ本番で大丈夫だろう。


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