FC2ブログ

言えない言葉(11/11)

2020.08.25.Tue.
10

 木村と別れたあと、猛勉強のおかげでなんとか無事、志望校に合格した。そこでも俺はバスケ部に入った。ここのバスケ部は全国大会出場の常連校で、中学の時とは比べ物にならない練習のきつさだった。それでもなんとか食らい付き、実力を伸ばして行った。練習と試合に明け暮れ、あっという間に三年生になっていた。

 今日はうちと毎年全国大会をかけて争う住永大学付属高校との練習試合。俺はそこで信じられない顔を見つけた。ロンがベンチに座っていたのだ。あいつ、本当にここを受験して合格していたのか。

 久し振りに見るロンは、中学の時より背が伸びて、男らしい体つきになっていた。185cm以上はありそうだ。前より髪の色が明るくなっている。思わず目を奪われるいい男になっていた。

 俺は、男はロン以外知らないし興味もない。ロンと別れてから女にしか興味がわかなかったのに、ロンを一目見て一気に昔の感情がわきあがってきそうになり慌てた。

 練習試合が始まった。ロンはずっとベンチだった。ロンは出ないのだろうか。

 試合も終盤、諦めかかったラスト五分、ようやくロンが出てきた。俺はみんなに注意するよう呼びかけた。あいつの実力は俺が知っている。

 コートの中で目が合った。ロンがニッと笑う。俺を覚えているようだ。そんな些細なことが嬉しい。

 ロンにパスがいった。表情を消したロンがうちの選手を一人抜かし、二人抜かし俺の目の前へ。シュートの構え、目はバスケットを睨んでいる。打たせるか。ロンと一緒に飛び上がった。ロンの体がリングから離れる。フェイダウェイ・ジャンプショット! ボールがリングを通過した。

「うちが勝つぜ」

 戻っていく時ロンが俺に言った。 ロンの目つき、本気だ。ゾクリと寒気がした。ロンがこんなふうに闘志を露わにしたのを初めて見る。見ない間、いったい何があったんだ? その変貌振りに戸惑った。

 そして試合はロンの言葉通り、住大の勝ちで終わった。

 体調でも悪いのか、試合が終わった途端ロンが床に倒れこんだのが見えた。かなりスタミナ不足のようだ。練習をさぼっているのか? ロンを取り囲む部員の輪に俺も加わった。

「ロン、なんだそのざまは」

 声をかけた俺を、まわりの奴が驚いた顔で見る。

「久し振り、長野さん」
「バスケはやめるんじゃなかったのか」
「やめたよ、今日はたまたま。もうやんねえ」

 とロンが笑った。こういうところは前とかわらない。

 今日はたまたまということは、やっぱりバスケを続けていたわけではなかったのか。残念に思いつつ、試合に出たわけを尋ねると、

「かわいい恋人に頼まれちゃってね」

 と制服姿の男子生徒を指差した。真っ赤な顔で否定する男を思わず睨むように見てしまった。なんの変哲もなく、前の谷口のように中性的な顔をしているわけでもない。普通の、面白味もない真面目そうな男。こいつのどこに惹かれたのか。

 このまま別れるのも惜しくて食事に誘った。ロンはその男に行ってもいいかと聞いた。

「どうして俺に聞く」

 男が言う。俺もそう思う。どうしてわざわざこいつの了承が必要なんだ。

「俺はおまえのもんだし」
「俺のものにしてやったつもりはない。おまえとは何の関係もないんだ、好きなときに好きなところへ行け。行って二度と戻ってくるな、この変態!」
「な、いい感じだろ」

 俺を見て自慢するように言う。俺は引きつって笑いながらこの男に嫉妬した。俺の時とは違ってロンがこの男に夢中になっているように見えたからだ。

 学校を出て駅前のファーストフード店にロンと二人で入った。向き合って座りながら、目の前でポテトを口に放り込むロンを見つめた。

 中/学生の時はまだ幼さが残っていたが、高校生になったロンはその幼さが抜け、男らしさが増していた。男の俺でも見とれてしまう整った面構え。

「驚いたよ、まさか本当に住大に入っていたなんてな」
「がんばったからね、俺」

 がんばったくらいで入れる成績じゃなかったはずだ。どんな手品を使ったんだ。

「本当にバスケはしてないのか」
「してないよ、今日は一ノ瀬に言われて参加しただけだって」
「一ノ瀬って、あの制服の」

 そう、とロンが頷く。

「あいつ、お前の新しい男?」
「そうしたいんだけど、なかなか手強そうなんだよ」
「今度は諦めないのか?」
「諦める? なんで?」

 谷口の時はあっさり引き下がったじゃないか。谷口の前にも一度男に振られてる、そう言ったじゃないか。来る者は拒まず、去る者は追わず。お前はそういう性格だったじゃないか。

「あいつを諦めるなんて考えた事ないなぁ」

  ロンは食べ終わったハンバーガーの包み紙を手で丸めた。俺はその指先を見つめた。

 ロンと別れたのは過去の話だ。いや、付き合っていたと言っていいかもわからない関係だった。密な関係だったのは二ヶ月弱と短い期間。

 俺が女の子から告白され、付き合うつもりだと言った時、ロンは俺を引きとめもせず、怒りもせず、まったく感情を揺らすことなく「いいんじゃない」とだけ言った。それが全て。

 ロンが誰かに固執するなんて初めてのことだ。あの一ノ瀬という男のために中学までと言っていたバスケの試合に出た。そこでそいつのためだけにロンは本気を出した。

 もう終わった関係なのに、俺は一ノ瀬に嫉妬した。もう終わってるのに、ロンを前にすると心がざわついた。もしかして俺はまだロンを引きずっているのだろうか。忘れられない男であるのは確かだ。なんせ俺の初めての相手だ。

「長野さんは? 彼女と続いてんの?」
「彼女って、中三の時の? まさか、いつの話だよ」

 中学三年の時にロンと別れて付き合った子とは一年足らずで別れた。そのあと二人と付き合ったが、どれもあまり長続きしない。

「俺を振ったくせに、案外あっけないんだな」

 俺がロンを振った? その逆だろ。お前は最初から俺を好きじゃなかった。俺が他の女の話をしても、眉一つ動かさなかったじゃないか。あの時お前が俺を引きとめてくれたら、俺だって他の女と付き合ったりなんかしなかった。実質的に、あの時振られたのは俺のほうだ。

「あの一ノ瀬っての、そんなに好きなのか?」

 俺の問いに、頬杖をついたロンがニンマリ笑う。

「うん、好きだね、欲しい」

 そんな言葉、俺は一度も言われたことがない。あいかわらずあっけらかんと言う男だ。

「じゃあ──、」

 俺のことは好きだったか?

 今なら聞けるような気がした。が、開いた口をまた閉じた。

「ま、頑張れよ」

 別の言葉が出た。聞くのが怖い。ロンは「おう」と応える。

 やっぱり今もまだ、傷つきたくはない。


(初出2008年)
好きすぎて泣く(´;ω;`)
関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する