言えない言葉(10/11)
2020.08.24.Mon.
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九月の学力テストの結果がきた。順位が前と同じくらいに戻りとりあえず一安心した。二年のテストの結果をロンに聞くと、
「まぁ、そこそこ」
との返事。また赤点か、赤点すれすれの点数を取ったのだろう。
九月の末、俺はクラスの女子に告白された。いつもよくしゃべっていた子で、気が合う友達のような存在だった。文化祭が終わった放課後に呼び出され、前から好きだったと告白された。咄嗟にロンの顔が思い浮かんだ。返事は保留にしてもらった。
悪い気はしない。可愛い感じの子だし、話をしていても楽しいし、彼女にするには申し分ない。
保留にしたのはロンの反応を見てみたかったからだ。なんとなく想像は出来るが、それでも怖いものみたさ半分、期待半分、そんな感じだった。
今日は久し振りに部に顔を出した。一際張り切って声を張り上げる真田が目に付いた。ロンは一年に付きっ切りで何やら指導している。
大雑把な指示は真田がし、個人への指示はロンの役目。そんな役割分担が出来ているようだった。
俺は静かに体育館の中に入って見学した。
ロンと谷口の会話が聞こえてきた。怯えていた谷口も今では普通にロンと話が出来るようになっている。
「僕の身長ではやっぱりバスケ、無理なんでしょうか」
自信なさげに谷口が言う。
「んなことねえよ」
「でもディフェンスでは圧倒的に不利です」
「お前は背が低いから、背の高い奴にはドライブが有効なんだよ。あとスリーポイント、これを確実に決められるようにするんだ。出来たら次はスリーポイントラインの1メートル外からでもシュートできるようになれば、お前より背の高い奴がマークについても外に引っ張り出すことが出来るだろ」
先輩らしいロンの姿につい頬が緩む。
ロンが俺に気付いた。谷口の肩を叩き、ロンがこちらへやってくる。
「どうしたの、珍しい」
「ちょっと話があって。終わるまで部室で待ってるよ」
「OK」
ロンが練習に戻った。途端に一年から質問攻めにされている。いつの間にこんなに慕われていたのか。
しばらく見学してから部室に向かった。懐かしい匂いがする。ずっと置きっぱなしになってる雑誌を拾い上げベンチでそれを読んだ。読みながら、ここでロンにいかされたことを思い出し、苦笑した。
練習が終わり、二年生がやって来た。俺を見つけてみんなが驚いた顔をする。適当に話をして、着替えを済ませたロンと部室を出た。
「で、話って?」
門を出たところでロンが先に切り出した。
「クラスの子に告白されたんだ」
「へぇ」
ロンは驚いた顔をした。だが、実際驚いていないことはわかっている。
「かわいいの?」
「まぁ、そうかな」
「で?」
「付き合おうかと思ってる」
「いいんじゃない」
気にするふうもなく、前髪をかきあげロンが言い放つ。やっぱりこういう反応だったか。予想はしていたが、内心落胆した。
「今までむりやり俺に付き合わせて悪かったね、 長野さん」
謝られる筋合いはない。俺が好きだと言ったことは忘れたんだろうか。なんだか少しやるせない。
「俺、ほんとにお前が好きだよ、ロン」
「わかってるって」
ロンが笑う。
お前は俺が好きだったか? 聞いてみたい言葉を飲み込む。傷つきたくはない。
「俺も次は女の子にしようかな」
眠そうな目つきでロンが言った。
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九月の学力テストの結果がきた。順位が前と同じくらいに戻りとりあえず一安心した。二年のテストの結果をロンに聞くと、
「まぁ、そこそこ」
との返事。また赤点か、赤点すれすれの点数を取ったのだろう。
九月の末、俺はクラスの女子に告白された。いつもよくしゃべっていた子で、気が合う友達のような存在だった。文化祭が終わった放課後に呼び出され、前から好きだったと告白された。咄嗟にロンの顔が思い浮かんだ。返事は保留にしてもらった。
悪い気はしない。可愛い感じの子だし、話をしていても楽しいし、彼女にするには申し分ない。
保留にしたのはロンの反応を見てみたかったからだ。なんとなく想像は出来るが、それでも怖いものみたさ半分、期待半分、そんな感じだった。
今日は久し振りに部に顔を出した。一際張り切って声を張り上げる真田が目に付いた。ロンは一年に付きっ切りで何やら指導している。
大雑把な指示は真田がし、個人への指示はロンの役目。そんな役割分担が出来ているようだった。
俺は静かに体育館の中に入って見学した。
ロンと谷口の会話が聞こえてきた。怯えていた谷口も今では普通にロンと話が出来るようになっている。
「僕の身長ではやっぱりバスケ、無理なんでしょうか」
自信なさげに谷口が言う。
「んなことねえよ」
「でもディフェンスでは圧倒的に不利です」
「お前は背が低いから、背の高い奴にはドライブが有効なんだよ。あとスリーポイント、これを確実に決められるようにするんだ。出来たら次はスリーポイントラインの1メートル外からでもシュートできるようになれば、お前より背の高い奴がマークについても外に引っ張り出すことが出来るだろ」
先輩らしいロンの姿につい頬が緩む。
ロンが俺に気付いた。谷口の肩を叩き、ロンがこちらへやってくる。
「どうしたの、珍しい」
「ちょっと話があって。終わるまで部室で待ってるよ」
「OK」
ロンが練習に戻った。途端に一年から質問攻めにされている。いつの間にこんなに慕われていたのか。
しばらく見学してから部室に向かった。懐かしい匂いがする。ずっと置きっぱなしになってる雑誌を拾い上げベンチでそれを読んだ。読みながら、ここでロンにいかされたことを思い出し、苦笑した。
練習が終わり、二年生がやって来た。俺を見つけてみんなが驚いた顔をする。適当に話をして、着替えを済ませたロンと部室を出た。
「で、話って?」
門を出たところでロンが先に切り出した。
「クラスの子に告白されたんだ」
「へぇ」
ロンは驚いた顔をした。だが、実際驚いていないことはわかっている。
「かわいいの?」
「まぁ、そうかな」
「で?」
「付き合おうかと思ってる」
「いいんじゃない」
気にするふうもなく、前髪をかきあげロンが言い放つ。やっぱりこういう反応だったか。予想はしていたが、内心落胆した。
「今までむりやり俺に付き合わせて悪かったね、 長野さん」
謝られる筋合いはない。俺が好きだと言ったことは忘れたんだろうか。なんだか少しやるせない。
「俺、ほんとにお前が好きだよ、ロン」
「わかってるって」
ロンが笑う。
お前は俺が好きだったか? 聞いてみたい言葉を飲み込む。傷つきたくはない。
「俺も次は女の子にしようかな」
眠そうな目つきでロンが言った。
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