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言えない言葉(9/11)

2020.08.23.Sun.


 夏休み頭に行われた関東大会。結果はベスト8。途中まで調子が良かったのだが、相手チームのファウルでロンが転倒。捻挫してメンバーから外れたのが一番痛かった。

 ロンと公式戦で一緒にプレイするのはこれが最後になるのかと思うと寂しさが込み上げてくる。

 バスケは全中大会まで。そう決めていた。それに出られない以上、俺は受験勉強に専念するつもりだった。

 バスケをしない夏休み。勉強机に向かっても、時計を見ては今頃みんな練習しているのだろうなと溜息が出た。

 新しい主将は真田になった。監督と副キャプテンの栗原と俺の三人で話し合った結果だ。最初はロンをキャプテンに、という話だったが、ロンが嫌がるだろうと思い至り真田になった。そのかわりロンは副キャプテンになって、真田の手綱を握ってコントロールしてもらう、というわけで満場一致。

 ロンの反応は一瞬の間こそあいたが、嫌がらず引き受けてくれた。キャプテンになった真田は異様にはりきっていた。空回りして息があがらなければいいが。

 今日は練習が終わった頃ロンと落ちあう約束になっている。その時間が待ち遠しい。

 ロンに好きだと言った。好きにならなくていいと言われた。その言葉通りの意味なのだろう。最初から『試したい』だけの関係だったのだから。不毛な関係だ。それでも、俺はあいつに対する特別な感情を捨てることが出来ない。

 もうすぐ時間だった。少し早いが俺は家を出た。いつも別れる三叉路、そこでロンを待つ。十分ほどしてロンがやってきた。俺を見つけ、のんびり手をあげる。

「いつから待ってたの、汗だくじゃんか」
「ちょっと前だ」
「ふぅん。行こっか」
「ああ」

 行こっか。ああ。このなにげないやり取りが嬉しいなんて、隣のこいつは知りもしないんだろう。

「練習どうだった?」
「サージがはりきってうるさい」

 俺は笑った。真田がはりきる姿は容易に想像できた。

「俺もまた練習したいなぁ」
「すればいいだろ」
「受験が終わったらな。高校入ったらまたやるよ。お前もバスケ、続けるだろ?」

 学校が違ってもバスケをしていたら、いつかロンと試合ができる日がくるかもしれない。そんな期待をしていたのだが、

「俺はやんない」

 ロンはきっぱり言った。

「なんで」
「バスケは中学だけで充分。高校行ったら遊ぶ」
「遊ぶって……なんでっ」

 ロンくらいの才能があるなら高校でも続けるべきだ。中学まででやめてしまうのはもったいない。

「今遊ばなきゃいつ遊ぶの」
「いつだって遊べるだろ」
「バスケもいつだって出来るよ」

 続けろよ、言いかけて口を閉ざした。ロンは人からやれと言われることを嫌う。期待されることも嫌う。

 関東大会の時、みんな無意識にロンに期待して、苦しい局面にはロンにボールを集めた。ロンが捻挫してベンチに戻った時、負けるかもしれない、そう思った。その時点でもう負けていた。ロンはみんなのそんな期待を肌で感じていたに違いない。ロンは期待されることを嫌う。バスケを続けることは、かつてロンを失語症になるまで追い詰めた状況を再び作るようなものなのかもしれない。そう思うと俺は何も言えなくなった。

 大きな家に到着した。今日は誰もいない、ロンがそう言っていた通り、家の中は静まり返っていた。

 汗かいたからとロンがシャワーを浴びている間、俺は一人、ロンの部屋で待った。時間を持て余し、本棚を物色する。高校生向けの問題集を見つけた。まさか、と思って開いてみる。途中まで回答が書かれてあった。意外に綺麗なロンの文字。小学/生の時から高校の問題を解いていたのか。そりゃ壊れもするだろう。なんだかやるせない気持ちになった。

 することもなくベッドに寝転がった。ロンの部屋にはテレビがない。退屈だ。

 しばらくしてロンが戻ってきた。ボクサーパンツ一枚。手にお茶の入ったコップが二つ。そのひとつを机において、もうひとつは自分で一気に飲んだ。

「これからどうする? 外にバスケットゴールがあるけど少しする?」

 さっき俺が練習したいと言ったからそんなことを言い出したのだろう。俺は首を横に振った。ベッドからおりてロンの前に立つ。肩に手を置き、顔を近づけキスをした。石鹸の匂いがする。キスしたままベッドに倒れこんだ。ロンが俺の服を脱がせる。

「今日はちょっと先に進むよ」

 今までお互い触りあってイクだけだった。先に進むということはそれ以上のことをする、という意味。不安や恐怖に勝る欲。

 ロンが俺のものを手に握り、上下に動かす。俺の顔を見る目が優しい。ロンの背中に手をまわした。

「も、ムリ」

 いきそうなところで手をはなされた。 え、とロンを見る。ロンはいつの間にか手に小さなボトルを持っていて、その中身を手のひらに出していた。透明な粘り気のあるそれ。実物を見たのはこれが初めて。

「ローション?」

 ロンが頷く。手のひらをこすり合わせ、その手で俺のものを握った。 少し冷たい。

「力抜いて」

 息を吐き出す。ロンの手が俺のうしろへ伸びる。自分でさえ触った事のない場所をロンの指がなぞった。鳥肌が立った。

「ロン、何する気だよ」
「指入れるだけ、力抜いてて」

 俺はロンの言いなりだ。言われた通り力を抜こうとしたが、触られるとどうしても力が入ってしまう。

「ムリだよ」
「ちょっと入れるよ」

 異物感。俺の顔を見ながらロンが指を入れる。俺は目を閉じ、我慢した。人差し指が一本、根元まで入った。中で動かされ、眉間にしわが寄る。また冷たい感触。ローションがそこに垂らされた。 二本目が入る。中を広げられ、ローションが中に入るのがわかった。

「平気?」
「う、うん、まだ大丈夫」

 中で指が動く。

「このへんに性感帯があるはずなんだけどなぁ」

 ロンの呟きが聞こえた。俺は自分のものを握り、上下に扱いた。

「入れてもいい?」

 ロンが俺を見て言う。上気して顔が少し赤い。口で息をしながら、俺は小さく頷いた。 もうなんとでもしてくれ、そんな気分だった。

 ゴムをつけた自分のものにもたっぷりローションを垂らし、ロンが俺の中に入ってくる。指とは違ってやっぱりきつい。それでも指である程度ほぐしたせいか、ローションのせいか、案外すんなり入った。

「すごいな、きついよ、長野さん」

 ロンの声が擦れていた。ロンが腰を動かすたび、異物感に顔が歪んだ。だがそれに慣れると自分でも腰を振っていた。あたると気持ちいいところがある。そこがさっきロンが言っていた性感帯なのかもしれない。ロンにしがみついてみっともなく声をあげた。

 今回はロンのほうが先にいった。俺の上に覆いかぶさって荒い息を整え、それが終わると俺のものを握って扱き上げる。俺も簡単に果てた。

「どうだった?」

 後片付けをし、身繕いを終えてロンが俺に聞く。そんなふうに聞かれて俺はどう答えればいいんだ。

「ロンはどうだったんだ」
「俺は気持ち良かった」

 恥ずかしげもなく言う。あっけらかんとした性格がたまに羨ましい。

「長野さんは?」
「俺も、まぁ」
「気持ち良かった?」
「まあな」

 恥ずかしくて顔を背けた。そんな俺の頬にロンがキスする。顔が熱い。

「これから色々楽しめるな、長野さん」
「無理だよ、俺は受験生だからな」
「つまんないこと言うなよ」

 立ち上がったロンは机から煙草を取り出し火をつけた。

「お前っ、煙草なんか吸ってんのか」
「うん」

 振りかえって無頓着に頷く。

「吸う?」

 と俺に差し出してきた。少し悩んで俺もそれに口をつけた。吸い込み、吐き出す。まずい。

「うまくないだろ」

 頷いて煙草を返した。ロンは返された煙草の火を見ながら、遠くを見るように目を細めて笑う。なぜか嬉しそうだ。

「そろそろ帰るよ、もう遅いし」
「送る?」
「いいよ」

 玄関先でロンと別れ、家に帰った。

 それから何度かロンの家を訪ね、 そのたびに体を重ねた。

 ロンの好奇心は俺の想像を超えていた。俺の後ろに指を入れ、「一度肘まで入れてもいい?」そんな恐ろしいことを言い出した。さすがにそれは断った。

 たまにバスケで1on1をした。少し動かない間にずいぶん体がなまっていて、ロンの動きについて行くことができなかった。

 夏休みはあっという間に終わった。



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