FC2ブログ

言えない言葉(7/11)

2020.08.21.Fri.


 悔しいほどに俺は木村を意識しまくっていた。それなのに木村はいつもとかわらず淡々としている。部にきてもひたすら練習に打ちこんで俺を気にもしない。無意識に木村を目で追っている自分に気付いて自己嫌悪する。

  何より最悪なのは、木村をオカズにしてしまったことだ。それも一度や二度じゃない。汚れた手を見て死にたくなる。

 あれ以来、木村はことあるごとに口実を作っては俺と二人になる時間を作り、隙を見つけてはキスしてくる。俺の股間を触る。でも直に触ってくることはあの日以来ない。それが俺を焦らしている。いけない行為だとわかっているのに、初めて他人から与えられた快感はそう簡単に忘れられるものじゃない。それが例え俺と同じ男だとしてもだ。

 六月の学力テスト、いつもの三十位ほど順位を落とした。年があければ高校受験だというのに気が引き締まらない。木村のせいにするのは嫌だが、四六時中あいつのことが頭から離れないのは事実だった。

 かつてダントツの成績をほこっていたという木村は、期末考査で赤点を取ったらしい。

 こいつは一年の時からテストの結果はあまり良くないようだ。真田がそのことで木村をからかっているのを何度か目にしたことがある。木村の方はそんな真田を相手にしない。それが真田をイラつかせているとわからないのだろうか。わかっていて、逆にからかっているのかもしれない。

 今も真田に1on1を挑まれ、相手をしている木村は実力を出しきっていない。どこか緩慢な動きで、それでも真田からボールを奪い取り、足の下をくぐらせるレッグスルーで真田を挑発している。真田の顔は真剣そのもの。対して木村は薄ら笑い。対照的な二人。

 真田は得をしていると思う。こうして木村と1on1をする機会が一番多いのは真田だ。木村もまだ発展途上ではあるが、部での実力はすでに上位。ボールの扱いに関して言えば部でも一、二を争うほど上手くなっている。その木村の相手をしていれば得るものも多い。事実、真田は二年の中で木村に次いで実力を伸ばしている。

 木村がフェイクで真田をかわし、レイアップシュート。リングを通過して落ちてきたボールを真田にパスするとベンチにやってきた。ドリンクを飲んでふぅと息をつく。

「お前、欠点とったんだって?」

 話しかけると木村はこちらを向いた。

「期末?」
「あぁ」
「取ったよ」
「取ったよって……お前、進路とかどうする気だ? 何か考えてるのか」
「あぁ、進路かぁ、住大にしようかなぁ。家から一番近いし」

 住大? 住永大学付属高校のことか?

「お前、あそこ偏差値高いんだぞ、わかってんのか?」
「そうなの?」

 知らないでそんなことを言ったのか。道理で。赤点をとるような奴が住大にいけるわけがない。

「お前の成績じゃ到底無理だな」
「そんなのやってみなきゃわかんないって。そっか、偏差値高いのか。ちょっと勉強したほうがいいかな」

 ちょっと勉強したくらいで入れるなら俺だって入りたい。そんなに甘くないってことがこいつはわかっていないらしい。練習に戻る木村の背中を見ながら呆れて溜息が出た。あれくらい楽観主義だと羨ましくなる。悩んでいる自分が馬鹿みたいだ。

 練習後、監督から次の試合のメンバーが発表された。俺はセンターで先発、木村はポイントガード。

  本来木村のプレイは徹底して点を取りに行くスタイルだ。いつか「バスケは点を取らなきゃ面白くない」と言っていた通り、木村のシュート決定率は高い。これも部活がない日にやっている個人練習のたまものだろう。

 そんな木村はシューティング・ガードやスモール・フォワードのほうが向いている。実際、過去の試合ではそのポジションで出場し、充分すぎる活躍をみせた。みんなが木村にパスをまわすようになり、期待も集まった。途端、木村がポジションをかえてほしいと言い出した。スモール・フォワードとして木村を育てようとしていた監督はそれを断り、試合に出した。木村の動きがあきらかに鈍った。試合にはかろうじて勝ったが、その後監督と木村で話し合い、木村はポイント・ガードに変更になった。

 ポジションがかわっても木村は活躍した。試合の流れを読む能力に長けていて、個人の能力を引き出すことも上手かった。ここぞと言う時には自ら点を取り、みんなの士気をあげた。

「天才的才能」

 監督がいつかそう呟いたのを聞いた。俺もそう思った。もちろん人一倍努力しているが、木村にはみんながどれほど努力しても持ちえない才能がある。それが日に日に開花していくのを見るのは楽しみでもあり、 恐ろしくもあった。こいつは底が知れない。

 スターティングメンバーに選ばれたのに木村は顔色一つかえず、それどころか退屈そうに欠伸をしている。試合にも、自分がスターターだということにも、まったく興味がないのだ。

 解散になって、俺は木村の背中を叩いた。

「勝って全国大会行くぞ」
「はは、行けたらね」

 興味のない顔で言う。木村の活躍なくしてこの関東大会勝ち進めない、俺はそう思っていた。ここで負ければ俺たち三年は即引退だ。こんなところで終わりたくない。

 着替えをすませ、俺は木村と体育館を出た。最近木村と一緒に帰ることが増えている。

 途中、工場と家の塀に挟まれた細い路地を通る。そこでいつも木村にキスされた。今日も木村にキスされながら、俺は熱におかされたように喘いだ。木村の手が俺の下半身に伸びる。今日も布越しに触れてくるだけ。中途半端に大きくされて、 いつも突き放される。 それが悔しい。

 今日は仕返しのつもりで木村のものを触った。触ったのはこれが初めてだ。

 驚いた木村がピクンと反応した。手でその形をなぞるように撫でる。大きくなっていくそれに悦びを感じる。

 キスをやめた木村が俺の目を見つめてきた。笑みを浮かべ、

「明日練習休みだろ、うち来ない?」

 返事は決まっているのに俺は少し考えるふりをしてから頷いた。

「じゃあ、続きは明日」

 言って木村は先の角を右に曲がった。いつもここで木村と別れる。明日は俺も右に曲がるのか。

 明日、今日の続きをすると言う。木村は何をするつもりなんだろう。期待と不安。ただの好奇心や欲求だけでない何かを俺は木村に感じていた。



関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する