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言えない言葉(4/11)

2020.08.18.Tue.


 みんな帰って誰もいなくなった更衣室。先に入った俺は後ろから木村に抱きすくめられた。前にまわった手がズボンのジッパーをおろし、中から取り出したものを扱き上げる。思わず息が漏れた。

「学校でするの、興奮するなぁ」

 耳元で木村が囁く。言葉と裏腹に冷静な声だった。俺だけが心身共に木村によって興奮させられている。自分でするのとは比べ物にならない気持ち良さ。木村の言う通り、男も女も関係ない。

 小さく声を出してしまった。肩口から木村が俺の顔を覗きこんでいる。ニヤけた顔。

「タンマ。木村、ストップ」
「駄目だって。出そうなんでしょ? 出せばいいじゃん」
「馬鹿なこと言うな」
「途中でやめて辛いのは長野さんだよ」

 首筋にキスされた。ゾクゾクする。目の前が霞む。堪えきれず射精した。更衣室の床に白い水たまりができる。全部出しきると体から力がぬけた。

「すごい飛んだね」

 俺からはなれた木村がティッシュで床を拭く。それを直視できない。俺も自分の汚れを拭き、急いで身繕いした。

 終わってから自分がした事の重大さに気付く。木村相手にとんでもないことをした。 木村にイカされた。それも更衣室で。落ち込んで顔色をなくす俺の肩を木村が叩いた。

「今日はこれで満足しておくよ。これから色々よろしく、長野さん」

 ニヤリと笑う。実際の年齢より大人びた顔。俺は木村から顔を背けた。とんでもないことになった。

~ ~ ~

 木村とのことで頭が一杯だった俺は谷口のことをすっかり忘れていた。翌日の練習の時、谷口がチラチラこちらを見ているのにしばらく気がつかなかった。俺はつい木村の姿ばかり目で追っていたのだ。

 木村は昨日のことなど忘れてしまったかのように振る舞っている。俺のことなんて意識してもいない。いつも通り黙々と練習し、人から声をかけられると対応し、時に笑みを見せた。目を合わせたって困るのに、つい見てしまう。嫌になる。

 だから急に谷口から声をかけられた時は驚いた。木村を見ていたことに気付かれたかもしれない、そう思うと顔がぼうっと熱くなる。だが谷口はそんな俺に気付かず、

「昨日、あれから木村さん、どうでしたか」

 と怯えた目で木村と俺と見比べた。

「あぁ、大丈夫だ。あれはちょっとお前をからかう程度のことなんだって」

 男同士はどうするか興味がある、そう言っていたのだから、谷口が特別好きだというわけじゃなさそうだ。谷口のために、これからの部活動を円満なものにするためにも、俺はちょっと嘘をついた。

「からかわれたんでしょうか、僕」

 俺の言葉を信じきれず、疑わしい目で俺を見る。昨日の谷口の怯えようを思い出した。木村は一体どんな迫り方をしたのだろう。

「木村が本気でお前を好きになるわけないだろ。からかわれたんだよ、谷口は」

 笑って谷口の背中を叩いた。それだけで華奢な谷口は前によろめく。

「僕もそう思いたいですけど、木村さんて何考えてるかわらかなくて、いまいちまだ不安なんです」
「はは、確かにあいつってよくわかんない奴だよなぁ。でももう大丈夫だよ、また何か言ってきたら俺に言えよ」
「あのあと、木村さんと何話したんですか」

 ギクリとなった。不自然に顔がひきつったのを谷口に見られただろうか。幸い、谷口の目は木村を見ていた。

「何って……お前をからかうのをやめるようにって」
「それで木村さんはなんて?」
「え、えっと」

 谷口のまっすぐな目が俺の目を見る。俺はつい目を逸らした。その先にこちらへ向かって歩いてくる木村がいた。

「長野さん、サージが俺と1on1したいって言うんだ、いいだろ」

 サージ。真田新二。木村と同じ二年生で、一年の時からなぜか木村に対抗意識を燃やしている。

 急に木村が目の前にあらわれ、谷口は小柄な体を更に小さくして俺の後ろに隠れた。

「あ、あぁ、いいよ、やれよ」

 動揺がモロ出た。そんな俺を見て、木村が片頬をあげてふっと笑う。

「何赤い顔してんの、長野さん」

 背中を向けてコートに戻って行った。その先では敵意むき出しの真田が待っている。

「長野さん」

 谷口が声に我に返る。

「木村さん、僕のことちっとも見ませんでした。昨日まではいろいろ絡まれたのに、今日はまだ一言も話しかけられてない……」

 呟きながら谷口の顔が明るくなっていく。

「昨日、長野さんが言ってくれたおかげです。ありがとうございました」

 ペコリと頭をさげ、谷口は一年の仲間のもとへ戻って行った。俺はバッシュの紐を結びなおす振りをしてその場にしゃがみこんだ。まだ顔が熱い。木村と話をすることが出来ない。まともに顔を見ることも出来ない。俺だけがこんなにも木村を意識しまくって、無様だった。


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