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未成年のネクタイ(9/10)

2020.08.13.Thu.


 さっき俺が立っていたところに女が一人立っていた。俺と目が合い、ぎこちなく笑いかけてくる。

「あなたも一人?」
「まあ、うん」」
「友達と来たんだけど、私だけ取り残されちゃって」

 と笑う。二十歳前後。顔つきは幼いが胸が大きい。アンバランスな体。大きな胸を強調するような露出の多い服装。ここがどういう場所かわかってきている。

 少し話をした。女の手のグラスが空になっていた。

「おかわり、もらってこようか?」

 女は「いい」と首を振って俺の腕を掴んだ。間近に俺の目を覗きこむ。

「下は個室になってるんだって」
「……行く?」

 頷く女を連れて下におりた。女の言う通り、壁でいくつかに仕切られている。まだ扉はついていない。廊下を歩いているとあちこちの部屋でシーツにくるまる男女の姿が見えた。とんだ乱交パーティだ。

「ここ、あいてるよ」

 女が指差した空き部屋に二人で入った。菱沼は今どうしているだろう。ふと思い出したが、女にキスをせがまれすぐ頭から消えた。

 女が上になった。ずっしり重い胸を揉みしだく。女が喘ぎ、腰を振る。果てた。少し横になってまた女を組み敷いた。雰囲気に飲まれている。興奮がなかなか醒めない。

 事のあと、疲れて少し眠った。体が痛くて目が覚めた。隣の女はまだ眠っている。服を着て部屋を出た。携帯で時間を確認したら23時過ぎ。五階に戻ってウーロン茶をもらった。

 部屋の隅に酔いつぶれて寝転がる女がいた。スカートがまくれて下着が見えている。悲惨な姿だ。

 菱沼を探したが見当たらない。陣内さんもどこにいるかわからない。

 女に声をかけられた。目がいってる。こいつはクスリをやっている。近寄りたくなかったが、腕を掴まれ引き寄せられた。

「私を一人にしないで」

 抱きつかれた。まわりを見たが連れはいないようだ。溜息が出た。

「俺行かなきゃ」
「一人にしないで」

 首に抱きついてくる。きつい香水のにおい。女を壁にもたれかけて座らせた。持っていたウーロン茶を飲ませる。

「私じゃ駄目なの?」

 潤んだ目が俺を見上げる。だらしなく開いた口から赤い舌が見えた。

「そういうんじゃなくて人を待たせてるから」
「待たせておけばいいじゃない」

 女の手がズボンのジッパーをおろし、中から俺のものを引っ張り出す。

「いや、無理だって」
「無理じゃないよ」

 言って俺のものを口にくわえる。なかなか反応しなかったものが次第に大きくなっていく。そばを通りすぎた誰かが俺たちを見てニヤニヤ笑った。

 女は俺の上に跨って腰を動かした。俺の前に誰かとやっていたんだろう。中は十分すぎるほど潤っていた。最悪だ。

 やけくそで俺も腰を動かした。もはや快感はない。空しいだけの虚脱感。隣に女が倒れこむ。俺も疲れて眠った。

 ~ ~ ~

 陣内さんに叩き起こされた。隣ににやけた顔の菱沼も立っている。

「起きろ、いつまで寝てんだ」

 菱沼の手を借りて立ち上がった。隣にいた女がいつの間にかいなくなっていた。

「帰るぞ」

 まだ頭はぼんやりするが 陣内さんについてビルを出た。いつの間にか太陽がのぼっている。今は何時なんだ? 携帯を見る。午前八時。学校は完璧遅刻だ。隣で欠伸をする菱沼は気にする素振りもない。

 陣内さんに車で店まで送ってもらった。菱沼と並んで車を見送り、のろのろと店に入った。二人とも疲れていた。中に入るとすぐ横になって眠った。

 次に目を覚ましたのは昼前だった。菱沼が頭が痛いと呻いている。二日酔いとクスリの後遺症だ。

 俺一人でコンビニに行って弁当を買って帰った。唸る菱沼に鎮痛剤を飲ませ、俺は下で弁当を食べた。携帯が鳴った。ロンからだ。そういえば、昨夜あれからどうしたんだろう。

『今どこ?』
「今は店で昼飯食ってる」
『良かった、もうすぐ着くから』
「もうすぐって、学校は?」
『今はテスト期間中だよ』

 プッと電話が切れた。しばらくしてロンが店にあらわれた。走ってきたのか息が荒い。

「よ、テスト中に遊んでんじゃねえぞ」
「昨日ずっと待ってたんだよ」
「ずっと?」
「朝までずっと」
「馬鹿か、お前」

 待ってても無駄だと言ったのに、テスト期間中、いつ帰ってくるかわからない俺をずっと待っていたのか。

「ちゃんと勉強しろよ、こないだ欠点とって追試だったそうじゃねえか、真田が言ってたぞ」
「テストなんかどうだっていい」

 口調が荒い。珍しくロンに余裕がない。どうしたんだ、こいつ。昨日俺が帰ってこなかったから怒ってるのか。でも俺はいつ帰るかわからないから待つなと言ったはずだ。

 脇に抱えるバスケットボールに気付く。今日も練習するつもりなのか。

「お前、もしかしてテスト中でも練習してんのか」
「そんなことどうだっていいってば」

 ロンがテーブルを叩いた。ロンがこんなふうに感情を表現することは今までなかったから面食らった。

「何怒ってんだよ」
「昨日、何してたんだよ」
「だからパーティに呼ばれたんだって言ったろ」
「パーティで何したの、女と寝たのか」
「まぁな」

 ロンが唇を噛み締める。顔が赤い。

「お前を呼ばなかったから怒ってるのか?」
「違う」
「じゃ、何だ、いい加減俺も怒るぞ」
「女を抱きたいなら俺にいえよ。また前みたいにイカせてやるから、もっと、気持ち良くさせてやるから」

 瞬間的に頭に血がのぼって手が出ていた。殴られたロンの体がよろめく。俺が忘れてやろうとしていたことを掘り返してくるからだ。

「なにふざけたこと言ってんだ、お前」

 頬をおさえ、ロンが俺を睨む。恨みがましい目。

「好きなんだ」

 擦れた声でロンが言った。

「はぁ?」
「鉄雄さんが好きなんだ、女なんか抱いて欲しくない」

 ついに言いやがった。

 俺は咄嗟にそう思った。薄々そうじゃないかと気付いていた。俺を見るこいつの目。過度な体へのスキンシップ。この前の晩の出来事。俺に好意を寄せているとしか思えなかった。俺は気付いていて知らない振りをしていた。今までの関係を続けるなら、ずっとそのまま知らないふりをするつもりだった。なのにこいつはそれをぶち壊した。裏切られたような気がして腹が立った。

「てめえとはこれで終わりだ。二度と俺の前にその面出すな、この店にも来るな。わかったな!」
「鉄雄さんっ」
「うるせえっ、二度も言わすな、とっとと出ていけ!」

 出口を指差す。青白い顔をしたロンが唇を震わせ俺を見ていたが、やがて目を伏せ、店から出て行った。



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