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未成年のネクタイ(8/10)

2020.08.12.Wed.


 夏休みが終わった。 今日も俺は学校終わりに店に寄った。もう日課になっている。上にあがってテレビを見ていると携帯に着信。時間が早いがもしかしたらロンかもしれない。そう思ったが、電話の相手は菱沼だった。

「どうした」
『パーティに誘われたんだ、行くだろ』
「誰の」
『陣内さんの知り合い。ビルのオーナーの孫なんだって』

 陣内さんは去年卒業した俺たちの先輩。やくざと繋がりがあると有名で、学校では一目もニ目も置かれていた。なぜか俺たちは陣内さんに気に入られ、在学中よく可愛がってもらった。

『工事中のビルで今日パーティがあるらしい。陣内さんが誘ってくれたんだ、お前も行くよな?』

 パーティか。最近女っ気ゼロだったからな。ロンに手でイカされたことは今思い出しても顔が熱くなる。あれも女を相手にしていなかったせいだ。

「OK、何時からだ」
『陣内さんが車で迎えに来てくれるんだ。店に寄ってもらうから着く前に連絡する』
「わかった」

 携帯を切ったあとでロンを思い出した。あいつ、今日もうちに来るつもりだろうか。今連絡してもバスケ部の練習中で電話には出ないだろう。今日は出かけるから店に来るなとメールを打って送信した。制服を着替えて出かける準備をして待った。

 夕方の6時過ぎに迎えの車がきた。運転席にサングラスをした陣内さんが咥え煙草で座っている。俺を見て、

「久し振りだな、鉄雄、元気そうじゃないか」

 と笑う。

「ええ、陣内さんも、元気そうで」
「いいから乗れ」

 後部座席、菱沼の横に座った。

 そこから車で30分、五階建てのビルの地下駐車場に車は入って行った。工事中と聞いていたが外から見た限りでは完成しているように見えた。

 駐車場はすでに20台近い車が駐車してあった。地下からの入り口で見張りらしい男が二人立っている。陣内さんはポケットから黒いカードを取り出しそれを渡した。それが入場パスのようだ。二人が道をあけ、俺たちは中に入って階段をあがった。内装はまだのようで、あちこちにシートが張られてあったり、ペンキが置きっぱなしになっている。

 会場は最上階の5階。非常口の戸を開け中に入る。 途端、むっとした熱気。ワンフロアぶち抜いた広い空間に重低音の音楽が腹に響く。暗い照明で五メートル離れた場所にいる奴の顔もよく見えない。低い囁き声と女の嬌声。今までいた場所とは別世界で一瞬目が眩んだ。

 右手に急ごしらえのバーカウンターがあって、そこで黒服が酒を出していた。カウンターの奥にソファ、そこに何人かが座って話をしている。

「俺はちょっと挨拶に行ってくる。お前らは適当に楽しんどけ」

 陣内さんは外したサングラスをポケットに入れながらソファのほうへ歩いて行き、真ん中に座る一人に声をかけた。そいつは立ち上がって陣内さんの肩を抱き、親しげに笑いかけた。年は二十代半ばくらいだろうか。このパーティの主催者だろう。一体どこで知り合った人なんだか。陣内さんの人脈には驚かされる。

「とりあえず、なんか飲むか」

 隣の菱沼が言った。二人でカウンターへ。黒服の男がじろりと俺たちを見た。

「メニューだ」

 ダンボールの切れ端を渡された。そこに手書きで酒の名前がいくつか、その下に見慣れない文字。

「これは?」
「クスリだ」

 菱沼の問いに男は無頓着に答える。俺と菱沼は顔を見合わせた。

「合法のものだ」

 男が付け加える。嫌な予感がして隣の菱沼を見た。菱沼の目は見開かれ、口には笑み。

「じゃ、俺はビールとこのクスリ一つ」

 好奇心旺盛な菱沼は案の定クスリも注文した。やめておけ、と肘を引っ張ったが無視された。

「初めて飲むならこっちにしておけ。 効き目が出るのはだいたい一時間後くらいだ。幻覚作用があるから気を付けろ」

 菱沼はニヤニヤ笑ってそれを受け取り、酒と一緒に飲みこんだ。この馬鹿、知らないからな。

「そっちは」

 男が俺を見た。

「俺はウーロン茶。金は?」
「今夜は特別な招待客しかいない。全部無料だ」

 タダほど怖いものはない。 俺はウーロン茶だけもらって、窓際に立つ菱沼の隣に並んだ。

「陣内さん、すげえよな、こんなとこに招待されるんだから」

 興奮した様子の菱沼が言う。俺も頷いた。陣内さんはソファに座って笑顔で何か話している。いつの間にかその横に女が座っていた。

「俺たちも女探そうぜ」

 菱沼に尻を叩かれ、そこから移動した。

 このフロアにいる連中はみんな酒を飲むか、ドラッグをキメてるか、今夜の相手を探しているようだった。歩いているだけで何人かの女と目が合った。みんな目がぶっ飛んでいる。もっとまともな女はいないのか。菱沼が一人の女に捕まった。

「そのビール、私に頂戴」

 クスリをやっているのか舌ったらずな口調。菱沼は手にしたビールを女に飲ませてやった。口の端からビールが零れる。

「やだ、零れちゃった」
「俺が舐めてやる」

 女の首筋に菱沼は舌を這わせた。女がキャッキャと笑う。二人を残し、先に進んだ。一周して、非常口のところへ戻ってきた。そこで壁にもたれウーロン茶をちびちび飲む。

 ポケットの携帯が震えているのに気付いた。ロンからの着信だ。今日は店にいないとメールをしたのに何か急用だろうか。非常階段で電話に出た。

「どうした」
『今どこにいるの』
「知り合いのパーティに来てる。店には行かない」
『待ってるよ。泊まってもいいだろ』
「いつ戻るかわからないから帰れ」
『嫌だ、鉄雄さんに会いたい』

 今日は我儘をきいてやれない。本当にいつ帰れるかわからないのだ。

「駄目だ、帰るのは朝になるかもしれねえんだ」
『構わないよ、待ってる』

 一方的に言ってロンは電話を切った。あの馬鹿、人の話を聞いてるのか。今日は帰らないかもしれないと言っているのに。待ってたって時間の無駄だ。

  ニ、三時間待てば諦めて帰るだろう。携帯をポケットにねじ込み、部屋に戻った。



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