未成年のネクタイ(3/10)
2020.08.07.Fri.
<1→2>
セットした携帯電話のアラームで目が覚めた。手を伸ばして携帯を探すが見つからず、仕方なく体を起こしてベッドの下に転がっていた携帯を取り上げアラームを止めた。
今日は土曜で学校は休みだ。アラームを解除するのを忘れていた。
隣には裸の女が眠っている。昨日菱沼とナンパした女子大生。菱沼と別れたあと、親父の店に連れこんだ。寝顔を見て、こんな顔の女だったっけ、と考えながらベッドから抜け出し、下におりた。水道で顔と歯を洗い、冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲む。
上に戻ると女も起き上がって、シーツで胸を隠しながら手を伸ばしてきた。
「わたしにも一口ちょうだい」
ペットボトルを渡した。
「今何時?」
「6時半」
「わたし帰ってシャワー浴びなきゃ。10時から彼氏と会う約束してるから」
女は下着を身につけ、 鞄からポーチを取り出し、化粧を始めた。俺は煙草を吸いながら、壁にもたれてそれをぼんやりと眺めた。
「ねぇ、またここに遊びに来てもいい?」
マスカラを塗りながら言う。
「いいよ」
「鉄雄くんからもメール頂戴ね」
「わかった。駅まで送る?」
「いいよ、近いし」
グロスを塗ったばかりの唇で俺にキスする。
「じゃ、またね」
女は手を振って出て行った。腹がなった。煙草をもみ消して立ち上がる。服を着て店を出た。
近くのコンビニでパンとコーヒーを買って戻る途中、公園からボールをつく音が聞こえてきた。まさか、と思って中を覗くと案の定、昨日の中学/生、木村論がバスケットの練習をしていた。
ドリブルしてシュートする。リングに弾かれたボールを拾ってまたシュート。それを何度も繰り返す。
「ロン」
声をかけるとこちらを向いた。
「こんな朝早くから練習か」
こくんと頷く。まだだんまりか。
俺もコートの中に入り、壁にもたれて座った。コンビニの袋から取り出したパンを食べる俺を見て、ロンはまたシュートの練習を始めた。
昨日聞いた真田の話では、むりやりバスケ部に入部させられたようだったが、休日の朝早くから練習しているところをみると嫌々というわけではないようだ。
ロンが腕で汗を拭った。真剣な表情でリングを睨む。シュート。入った。何度も何度もシュート練習し、入る確立があがっていく。
パンを食べ終わり、俺も立ち上がった。
「ボール貸してみ」
ロンが無言で俺にボールを投げて寄越す。地面に何度かつき、リング目掛けてボールを放る。 届かず地面に落ちた。
「あれ、おかしいな」
簡単そうに見えたが、案外難しいものだ。意地になって何度も投げた。ようやく初ゴール。
「見たか」
得意になって言う俺をロンは笑ってみていた。こいつ、ちゃんと笑うことできるんじゃないか。
「昨日の傷は大丈夫か」
手で目の上の絆創膏を触りながらロンが頷く。頬の腫れもひいている。
「良かったな。じゃ、俺帰るわ」
ボールをロンに返した。置きっぱなしにしていたコンビニの袋を拾い上げる。
「鉄雄」
名前を呼ばれた気がした。気のせいかと思ったが、振りかえった。
「鉄雄」
ロンの口が動いて俺を呼んた。
「お前、今俺を呼んだか?」
頷く。空耳ではなかった。ようやくロンが喋った。俺は笑った。
「さんを付けろよ、中坊が」
「鉄雄さん」
はっきり耳まで届いたロンの声。まだ子供っぽさの残る透き通った声だった。
「なんだ」
「一緒に」
とだけ言い、ボールを差し出す。一緒に練習しようと誘っているのか。
「面倒臭ぇな、ちょっとだけだぞ」
嬉しそうにロンが笑った。
昼までロンの練習に付き合った。俺はクタクタになったが、ロンは平気な顔で飽きずにシュート練習している。
「ストップ、昼飯にしようぜ」
俺が止めなければこいつは飯抜きでぶっ続けで練習しているだろう。二人でコンビニに行って弁当を買い、親父の店の二階で食べた。
「バスケ、好きなのか」
食べ終わったあとロンに聞いた。ロンは首を横に振る。
「好きじゃないのか」
頷く。
「じゃ、どうしてあんなに熱心に練習してるんだ」
「他にする事がない」
「そんな事ねえだろ」
煙草を口にくわえた。ロンがライターを手に取って火をつけてくれた。煙を吐き出す俺をじっと見ている。
「吸いたいのか?」
頷く。煙草の箱をロンに差し出した。が、ロンはいま俺が吸っている煙草を取りあげ、口にくわえた。
「おい、新しいの吸えよ」
「これでいい」
昨日は一言も喋らなかったことを思えば今日はたいした進歩だ。だが、あいかわらず何を考えているのかはわからない。俺は箱から新しい一本を取り出し、火をつけた。
ロンが俺をじっと見つめてくる。
「なんだよ」
俺が言うと目を逸らす。まったく妙なガキだ。
しばらくしてロンがボールを持って立ち上がった。また練習に行こうというのか。座って動かない俺をじっと見ている。
「俺はもう行かないって」
「行こう」
腕を持って引っ張られた。溜息をつきながら、諦めて立ち上がった。たまには健康的に体を動かすのもいいか。
セットした携帯電話のアラームで目が覚めた。手を伸ばして携帯を探すが見つからず、仕方なく体を起こしてベッドの下に転がっていた携帯を取り上げアラームを止めた。
今日は土曜で学校は休みだ。アラームを解除するのを忘れていた。
隣には裸の女が眠っている。昨日菱沼とナンパした女子大生。菱沼と別れたあと、親父の店に連れこんだ。寝顔を見て、こんな顔の女だったっけ、と考えながらベッドから抜け出し、下におりた。水道で顔と歯を洗い、冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲む。
上に戻ると女も起き上がって、シーツで胸を隠しながら手を伸ばしてきた。
「わたしにも一口ちょうだい」
ペットボトルを渡した。
「今何時?」
「6時半」
「わたし帰ってシャワー浴びなきゃ。10時から彼氏と会う約束してるから」
女は下着を身につけ、 鞄からポーチを取り出し、化粧を始めた。俺は煙草を吸いながら、壁にもたれてそれをぼんやりと眺めた。
「ねぇ、またここに遊びに来てもいい?」
マスカラを塗りながら言う。
「いいよ」
「鉄雄くんからもメール頂戴ね」
「わかった。駅まで送る?」
「いいよ、近いし」
グロスを塗ったばかりの唇で俺にキスする。
「じゃ、またね」
女は手を振って出て行った。腹がなった。煙草をもみ消して立ち上がる。服を着て店を出た。
近くのコンビニでパンとコーヒーを買って戻る途中、公園からボールをつく音が聞こえてきた。まさか、と思って中を覗くと案の定、昨日の中学/生、木村論がバスケットの練習をしていた。
ドリブルしてシュートする。リングに弾かれたボールを拾ってまたシュート。それを何度も繰り返す。
「ロン」
声をかけるとこちらを向いた。
「こんな朝早くから練習か」
こくんと頷く。まだだんまりか。
俺もコートの中に入り、壁にもたれて座った。コンビニの袋から取り出したパンを食べる俺を見て、ロンはまたシュートの練習を始めた。
昨日聞いた真田の話では、むりやりバスケ部に入部させられたようだったが、休日の朝早くから練習しているところをみると嫌々というわけではないようだ。
ロンが腕で汗を拭った。真剣な表情でリングを睨む。シュート。入った。何度も何度もシュート練習し、入る確立があがっていく。
パンを食べ終わり、俺も立ち上がった。
「ボール貸してみ」
ロンが無言で俺にボールを投げて寄越す。地面に何度かつき、リング目掛けてボールを放る。 届かず地面に落ちた。
「あれ、おかしいな」
簡単そうに見えたが、案外難しいものだ。意地になって何度も投げた。ようやく初ゴール。
「見たか」
得意になって言う俺をロンは笑ってみていた。こいつ、ちゃんと笑うことできるんじゃないか。
「昨日の傷は大丈夫か」
手で目の上の絆創膏を触りながらロンが頷く。頬の腫れもひいている。
「良かったな。じゃ、俺帰るわ」
ボールをロンに返した。置きっぱなしにしていたコンビニの袋を拾い上げる。
「鉄雄」
名前を呼ばれた気がした。気のせいかと思ったが、振りかえった。
「鉄雄」
ロンの口が動いて俺を呼んた。
「お前、今俺を呼んだか?」
頷く。空耳ではなかった。ようやくロンが喋った。俺は笑った。
「さんを付けろよ、中坊が」
「鉄雄さん」
はっきり耳まで届いたロンの声。まだ子供っぽさの残る透き通った声だった。
「なんだ」
「一緒に」
とだけ言い、ボールを差し出す。一緒に練習しようと誘っているのか。
「面倒臭ぇな、ちょっとだけだぞ」
嬉しそうにロンが笑った。
昼までロンの練習に付き合った。俺はクタクタになったが、ロンは平気な顔で飽きずにシュート練習している。
「ストップ、昼飯にしようぜ」
俺が止めなければこいつは飯抜きでぶっ続けで練習しているだろう。二人でコンビニに行って弁当を買い、親父の店の二階で食べた。
「バスケ、好きなのか」
食べ終わったあとロンに聞いた。ロンは首を横に振る。
「好きじゃないのか」
頷く。
「じゃ、どうしてあんなに熱心に練習してるんだ」
「他にする事がない」
「そんな事ねえだろ」
煙草を口にくわえた。ロンがライターを手に取って火をつけてくれた。煙を吐き出す俺をじっと見ている。
「吸いたいのか?」
頷く。煙草の箱をロンに差し出した。が、ロンはいま俺が吸っている煙草を取りあげ、口にくわえた。
「おい、新しいの吸えよ」
「これでいい」
昨日は一言も喋らなかったことを思えば今日はたいした進歩だ。だが、あいかわらず何を考えているのかはわからない。俺は箱から新しい一本を取り出し、火をつけた。
ロンが俺をじっと見つめてくる。
「なんだよ」
俺が言うと目を逸らす。まったく妙なガキだ。
しばらくしてロンがボールを持って立ち上がった。また練習に行こうというのか。座って動かない俺をじっと見ている。
「俺はもう行かないって」
「行こう」
腕を持って引っ張られた。溜息をつきながら、諦めて立ち上がった。たまには健康的に体を動かすのもいいか。
「さんを付けろよデコ助野郎」という有名な台詞があってですね…
唐突な自分語りになりますが、私がいま好きなキャラトップ3がAKIRAの金田と、あしたのジョーの矢吹丈、エスカフローネのバアンなんですよ。子供の頃の刷り込みってすごいです。4位以下もそりゃもうたくさんいるんですが、この三人は長いあいだ不動です。ジョーとバアンの色気パネエすよ!
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