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未成年のネクタイ(2/10)

2020.08.06.Thu.
<1>

  ロンが寝転がる俺の胸元を指で小突く。今度は何が言いたいんだ? 体を起こしてロンと向き合った。ロンは自分の生徒手帳と俺の顔を交互に見る。

「名前か、俺の名前を聞いてるのか」

 頷いた。正解。

「瀬川鉄雄だ、高2」

 ロンは唇を少し吊り上げ、ようやく笑顔らしい笑顔を見せた。本当に変わった奴だ。

 階下から物音がした。

「鉄雄、入るぞー」

 俺の中学からの仲間、菱沼がやってきたようだ。声を聞いたロンが緊張するのがわかった。

「俺のダチだよ、心配いらねえ」

 ロンは素早く立ち上がるとベッドの上に飛び乗って隅に小さく座りこんだ。 その直後襖を開けて菱沼が入ってきた。

「お、なんだ、あのガキ」

 菱沼が素早くロンを見つけて言う。

「てっちゃん、監禁か?」
「違うよ、そこの公園で拾った」
「拾ったって、てっちゃん、人間て拾うもんじゃないよ」
「ほんとにそこの公園で拾ったんだ。 喧嘩でもしたんだろ、ボロボロだったから連れて来た」
「はぁ、またお節介やいたわけね」

 菱沼は腰に手をあて、わざとらしい溜息をつく。

「そんなんじゃねえよ。あぁ、ロン、こいつは菱沼」

 ロンは小さく頷いた。警戒するように菱沼を見ている。菱沼は苦笑いを浮かべた。

「俺は嫌われたみたい」

 また下から物音。

「鉄雄さーん、お邪魔しますよぉ」

 聞き覚えのある声。あいつは確か……

「こんちは、また来ました」

 155cmあるかないかの背丈、愛嬌のある笑い顔、こないだ高校生に絡まれているところを助けてやった中学/生、真田新二。あれ以来ちょくちょくうちにやってくる。

「おぉ、サージか、また来たのか。ってか、鉄雄よぉ、ここはいつから中坊のたまり場になったんだ?」

 菱沼に言われて気付く。

「ま、ロンはたまたま拾ってきただけだし」

 言い訳めいたことを言っていた。

「あれ、そういや真田、お前、こいつと同じガッコの制服着てんな」

 ベッドの上のロンを顎でしゃくった。真田が首を傾げ、ロンを見た。

「こいつ、木村すよ。なんかしたんですか」

 やっぱり同じ中学だったか。

「いや、怪我してたみたいだったから連れて来たんだ。知り合いか」
「まぁ、同じバスケ部ですけど」

 そういえばこいつ、 バスケットボールを持っていたっけ。あそこで練習していて、何かあったんだな。

「そいつ、何もしゃべんないからあんまりよく知らないんです」

 学校でもしゃべらないのか。俺はロンを見た。ロンは俯いて顔を隠している。

「おーい、鉄雄、ずっとここでくっちゃべってるつもりかよ。外行こうぜ、今日は渋谷でナンパだろ」
「あぁ、そうだった、忘れてた」
「俺も連れてって下さい」

 真田が手をあげる。

「ばぁか、ガキは帰れ。おい、ロン」

 俺の声にロンは顔をあげた。

「ここ閉めるから、お前も出ろ」

 ロンは首を横に振る。

「お前がいちゃ鍵閉められないだろ」
「おい、木村、鉄雄さんちから出てけよ」

 真田が言う。ロンは真田を睨んだ。「変な奴」真田が小さく言うのが聞こえた。こいつは学校でもクラブでも浮いた存在なんだろうと想像できた。友達もおらず孤立して、だから公園のコートで一人、バスケの練習をしていたのだろう。

「ロン、今日は帰れ。いつでも好きな時にここ来ていいから」

 菱沼が溜息をつくのが聞こえた。俺の悪いクセなのはわかってる。でもこういう奴を放っておけない性格なんだ。

 ロンはしばらく考えてから腰をあげた。鞄とバスケットボールを拾い上げ、俺に向きなおり、小指を突きだす。

「え? 約束しろってか」

 頷く。真田が木村に向かって何か言うのを手で制し、指切りしてやった。菱沼が口を押さえて笑っている。恥ずかしくて顔が少し赤くなってしまった。こんなことするの何年ぶりだ?

 満足したらしく、ロンはそのまま下におりて帰って行った。妙な奴に懐かれてしまった。

「おい、真田、あいつ、なんでしゃべらないんだ?」

 真田は首を傾げた。

「俺もほんとによく知らないんすよ。なんか、噂では、あいつすげぇ頭良くて、中学受験で勉強しすぎておかしくなったって聞いたことありますけど。バスケ部も背が高いからって、先生にむりやり入れられたみたいだし、言われたメニューを一人で黙々とやってるから、みんな気味悪がって、あいつには近づかないんです」
「ふぅん、そうか」

 むりやりバスケ部に入れられたにしては、一人で公園で練習する熱心さはあるのか。よくわからんが、ちょっと興味を引く奴ではある。

 一緒について行きたいと食い下がる真田を帰して、俺は菱沼と渋谷に出かけた。



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