毒入り林檎(7/8)
2020.08.03.Mon.
<1→2→3→4→5→6>
帰りのバスの中、木村は一番後ろの席で不機嫌に窓の外を見ていた。誰も話しかけられない雰囲気。
というのも、表彰式のあと、サンジャイさんと一ノ瀬と合流したのだが、木村は一ノ瀬がサンジャイさんと一緒にいることにまず文句を言い、2人で一緒に帰ると知ると自分も電車で帰ると言い出した。疲れてるんだからバスで帰れ、と一ノ瀬は島田さんに木村を託すとサンジャイさんと体育館をあとにした。
サンジャイさんと一ノ瀬は小学校からの先輩後輩の仲で、一ノ瀬がサンジャイさんを慕っているのが木村は気に入らないのだと、島田さんがこっそり俺に教えてくれた。ただの焼もちじゃないか、馬鹿馬鹿しい。第一、サンジャイさんは男好きではないはずだ。心配することもないと思うのだが。
二人が一緒に帰って自分はバス。それで不機嫌になってずっと黙りこんでいる。せっかく優勝したのに雰囲気をぶち壊す人だ。
差し入れのジュースを紙コップに注ぎ、誰も座っていない木村の横に座った。木村の顔は窓を向いたまま俺の方を見もしない。
「お疲れす」
紙コップを差し出した。
「気持ち悪ぃ」
外を見たまま木村が言った。
「何がすか、酔ったんですか?」
「その喋り方だよ、タメ口はどうしたよ」
木村の実力を見た今、タメ口なんて無理だ。
「あれは……今まですみませんでした」
「つまんねえ奴」
「すみません」
完全に八つ当たりモードだ。それでも俺は頭をさげた。
「そんなにあの二人が気になるんすか」
一瞬の間。
「別に」
嘘だ。わかりやすすぎる。バスケのフェイクはあんなにうまいのに。
「あの人のどこがいいんですか」
俺の問いにようやく木村がこっちを向いた。怒られるのかと思ったが、木村は感情の読めない目で俺をじっと見てきた。俺は緊張しながらその目を見返した。あんまり長く見つめられ、顔が熱くなっていく。
「ひとことで言えば全部かな」
長く考えたあと、 木村は恥ずかしげもなく言ってのけた。
「女も好きになれるんですよね」
「あぁ」
「女よりあの人がいいんですか」
「あいつよりいい女がいないんだよ」
「はぁ」
気の抜けた返事が出た。俺には理解できない。
「お前はわからないままでいいんだよ。あいつに手を出す奴がいたら俺がぶっ殺すからな」
ニヤリと笑いながらずいぶん物騒なことを言う。でも冗談とも思えなくて俺は笑うことが出来なかった。
「バスケ、なんでやらないんですか」
この質問に木村は思いきり面倒臭そうに顔を歪めた。
「その話すんならあっち行け、俺の仕事は今日で終わったんだ。まったくどいつもこいつも。俺はもう飽きたんだ、やらねえよ」
予想外の強い拒絶にうろたえた。前髪を乱暴にかきあげる木村に急いで頭をさげる。
「すみません、バスケを教えて欲しいと思ったから、つい」
「お前が毛嫌いしてたホモに何教わろうってんだ」
「いや、今はそんな」
「男同士でどうやんのかだったら教えてやってもいいぜ」
間近に目を覗きこまれた。黒い瞳に思わず見とれた。慌てて目を逸らす。
「照れんな馬鹿、俺は今、一ノ瀬一筋だからな」
頬杖をついて窓の外に目をやる木村の横顔をこっそり見た。なんだろうこれは。どうしてこんなに心臓がどきどきするんだ。居心地が悪い。なのに、木村のそばから離れたくないと思う自分がいる。なんか変だ、俺。
「サンジャイの野郎、卒業しても邪魔な奴だぜ」
木村の呟きが聞こえた。木村はサンジャイさんに嫉妬している。 俺は一ノ瀬に嫉妬している。そんな自分に気付く。なんでだ?
~ ~ ~
大会が終わって一週間が経った。大会優勝の興奮もさめ、木村の武勇伝の熱もようやくさめた。
俺は諦め切れずにいた。一週間に一度、いや一ヶ月に一度でもいい、1on1で木村に指導してもらいたい。一時間でもあの人と付きっ切りでバスケをすれば、自分は色んなテクニックを盗むことが出来る。そう思って、部活が休みの今日、意を決して生徒会室に向かった。
きっと断られるだろう。そう思ったが、ダメ元でも一度頼んでみなければ気がすまない。
生徒会室の前にやってきた。中は静かだ。もしかしたら誰もいないのかもしれない。来る日を間違えたか。
一応戸に手をかけ、引いた。鍵はかかっていなかった。そっと中を覗く。机につっぷす茶髪が見えた。木村は一人だった。丁度いい。
物音で気がついた木村が顔をあげた。
「一ノ瀬?」
俺だと気付くとあからさまにガッカリした顔をする。
「なんだ、岡崎か」
名前を覚えていてくれたことが妙に嬉しかった。薄情な木村は試合が終わるとぱったり部に来なくなった。俺たちはすっかり忘れられたような寂しい気分だったのだ。
「お疲れさまです」
中に入って斜め前に立つ。
「何か用か」
「はい、まぁ」
「なんだ? 早く言えよ、もうすぐ一ノ瀬が帰ってくるんだ」
「一ヶ月に一時間でもいいんで、俺にバスケ教えてくれませんか」
「いやだ」
あっさり断られた。予想はしていたが、やっぱり落ち込む。
「用はそれだけか? だったら帰れ、お前がいたら一ノ瀬と二人きりになれないだろ」
「ゆっくりして構わないぞ」
背後の声に振りかえった。一ノ瀬が中に入ってきたところだった。手に資料らしいたくさんの書類を抱えている。
「木村、先生が職員室に来て欲しいそうだ」
「えぇ、なんで俺が」
「生徒会長だろう、 次の生徒総会のことで話があるらしい」
面倒臭い、と文句を言いながら木村が立ち上がる。なんだかんだ一ノ瀬の言うことは素直に聞いている。横を通り過ぎる時に肩を叩かれた。
「じゃな、お疲れ」
俺が戻ってくるまでにお前は帰っていろ、そう目が言っていた。俺は完全に邪魔者扱いだ。
帰りのバスの中、木村は一番後ろの席で不機嫌に窓の外を見ていた。誰も話しかけられない雰囲気。
というのも、表彰式のあと、サンジャイさんと一ノ瀬と合流したのだが、木村は一ノ瀬がサンジャイさんと一緒にいることにまず文句を言い、2人で一緒に帰ると知ると自分も電車で帰ると言い出した。疲れてるんだからバスで帰れ、と一ノ瀬は島田さんに木村を託すとサンジャイさんと体育館をあとにした。
サンジャイさんと一ノ瀬は小学校からの先輩後輩の仲で、一ノ瀬がサンジャイさんを慕っているのが木村は気に入らないのだと、島田さんがこっそり俺に教えてくれた。ただの焼もちじゃないか、馬鹿馬鹿しい。第一、サンジャイさんは男好きではないはずだ。心配することもないと思うのだが。
二人が一緒に帰って自分はバス。それで不機嫌になってずっと黙りこんでいる。せっかく優勝したのに雰囲気をぶち壊す人だ。
差し入れのジュースを紙コップに注ぎ、誰も座っていない木村の横に座った。木村の顔は窓を向いたまま俺の方を見もしない。
「お疲れす」
紙コップを差し出した。
「気持ち悪ぃ」
外を見たまま木村が言った。
「何がすか、酔ったんですか?」
「その喋り方だよ、タメ口はどうしたよ」
木村の実力を見た今、タメ口なんて無理だ。
「あれは……今まですみませんでした」
「つまんねえ奴」
「すみません」
完全に八つ当たりモードだ。それでも俺は頭をさげた。
「そんなにあの二人が気になるんすか」
一瞬の間。
「別に」
嘘だ。わかりやすすぎる。バスケのフェイクはあんなにうまいのに。
「あの人のどこがいいんですか」
俺の問いにようやく木村がこっちを向いた。怒られるのかと思ったが、木村は感情の読めない目で俺をじっと見てきた。俺は緊張しながらその目を見返した。あんまり長く見つめられ、顔が熱くなっていく。
「ひとことで言えば全部かな」
長く考えたあと、 木村は恥ずかしげもなく言ってのけた。
「女も好きになれるんですよね」
「あぁ」
「女よりあの人がいいんですか」
「あいつよりいい女がいないんだよ」
「はぁ」
気の抜けた返事が出た。俺には理解できない。
「お前はわからないままでいいんだよ。あいつに手を出す奴がいたら俺がぶっ殺すからな」
ニヤリと笑いながらずいぶん物騒なことを言う。でも冗談とも思えなくて俺は笑うことが出来なかった。
「バスケ、なんでやらないんですか」
この質問に木村は思いきり面倒臭そうに顔を歪めた。
「その話すんならあっち行け、俺の仕事は今日で終わったんだ。まったくどいつもこいつも。俺はもう飽きたんだ、やらねえよ」
予想外の強い拒絶にうろたえた。前髪を乱暴にかきあげる木村に急いで頭をさげる。
「すみません、バスケを教えて欲しいと思ったから、つい」
「お前が毛嫌いしてたホモに何教わろうってんだ」
「いや、今はそんな」
「男同士でどうやんのかだったら教えてやってもいいぜ」
間近に目を覗きこまれた。黒い瞳に思わず見とれた。慌てて目を逸らす。
「照れんな馬鹿、俺は今、一ノ瀬一筋だからな」
頬杖をついて窓の外に目をやる木村の横顔をこっそり見た。なんだろうこれは。どうしてこんなに心臓がどきどきするんだ。居心地が悪い。なのに、木村のそばから離れたくないと思う自分がいる。なんか変だ、俺。
「サンジャイの野郎、卒業しても邪魔な奴だぜ」
木村の呟きが聞こえた。木村はサンジャイさんに嫉妬している。 俺は一ノ瀬に嫉妬している。そんな自分に気付く。なんでだ?
~ ~ ~
大会が終わって一週間が経った。大会優勝の興奮もさめ、木村の武勇伝の熱もようやくさめた。
俺は諦め切れずにいた。一週間に一度、いや一ヶ月に一度でもいい、1on1で木村に指導してもらいたい。一時間でもあの人と付きっ切りでバスケをすれば、自分は色んなテクニックを盗むことが出来る。そう思って、部活が休みの今日、意を決して生徒会室に向かった。
きっと断られるだろう。そう思ったが、ダメ元でも一度頼んでみなければ気がすまない。
生徒会室の前にやってきた。中は静かだ。もしかしたら誰もいないのかもしれない。来る日を間違えたか。
一応戸に手をかけ、引いた。鍵はかかっていなかった。そっと中を覗く。机につっぷす茶髪が見えた。木村は一人だった。丁度いい。
物音で気がついた木村が顔をあげた。
「一ノ瀬?」
俺だと気付くとあからさまにガッカリした顔をする。
「なんだ、岡崎か」
名前を覚えていてくれたことが妙に嬉しかった。薄情な木村は試合が終わるとぱったり部に来なくなった。俺たちはすっかり忘れられたような寂しい気分だったのだ。
「お疲れさまです」
中に入って斜め前に立つ。
「何か用か」
「はい、まぁ」
「なんだ? 早く言えよ、もうすぐ一ノ瀬が帰ってくるんだ」
「一ヶ月に一時間でもいいんで、俺にバスケ教えてくれませんか」
「いやだ」
あっさり断られた。予想はしていたが、やっぱり落ち込む。
「用はそれだけか? だったら帰れ、お前がいたら一ノ瀬と二人きりになれないだろ」
「ゆっくりして構わないぞ」
背後の声に振りかえった。一ノ瀬が中に入ってきたところだった。手に資料らしいたくさんの書類を抱えている。
「木村、先生が職員室に来て欲しいそうだ」
「えぇ、なんで俺が」
「生徒会長だろう、 次の生徒総会のことで話があるらしい」
面倒臭い、と文句を言いながら木村が立ち上がる。なんだかんだ一ノ瀬の言うことは素直に聞いている。横を通り過ぎる時に肩を叩かれた。
「じゃな、お疲れ」
俺が戻ってくるまでにお前は帰っていろ、そう目が言っていた。俺は完全に邪魔者扱いだ。
本気でびっくりしてるんですが、昨日更新を忘れていたみたいですね?!本人してたつもりだったので本当に驚いています。もし楽しみに待っていてくださった方がいらしたら本当に申し訳ないです!更新したかしなかったかの記憶がまったくない。宇宙人に連れ去られたのかというくらい、昨夜の記憶がなくてびっくりです。
というわけで、ただの度忘れでお休みしてしまいすみませんでした汗
私は元気です!
- 関連記事
-
- 毒入り林檎(8/8)
- 毒入り林檎(7/8)
- 毒入り林檎(6/8)
- 毒入り林檎(5/8)
- 毒入り林檎(4/8)

[PR]

何かあったのかな?と思っていたのですが、まさか!ド忘れってコトあります?(笑)(笑)(笑)
良かった~!元気で。
毎日更新するのもきっと大変でしょうね。
今度更新のない日は
「お休みかな?」
「ド忘れかな?」
って思いながら待っていることにします(*´▽`*)♪
そうなんです、ただのど忘れで更新忘れちゃいました(/ω\)
お恥ずかしい。申し訳ないです。ほんとに自分ではしてるつもりだったのでめちゃくちゃ我が目を疑いましたとも。
もう次はないようにしたいとは思うんですが、もしまた予告なく更新しない日があったら「またど忘れしたなしょうもない奴」と笑ってやってくださいまし。
今日はちゃんと忘れず更新!しました!!w