毒入り林檎(5/8)
2020.07.31.Fri.
<1→2→3→4>
試合当日。1位から4位の順位決定戦予備戦。対戦相手は去年のインハイでベスト8。戦力はお互い五分五分、もしくはうちが少し上と見ていた。
試合開始。相手チームは動きが鈍く、イージーシュートも外して最悪の雰囲気。島田さんが今が攻め時と檄を飛ばし、うちのフォワードが確実に点を取り、俺もリバウンドでチームに貢献して前半戦を終えた。後半戦になってようやく向こうは立て直して果敢に攻めてきたが、うちは冷静にパスをまわし結局点差は縮まることなく試合終了。辻さんが雄たけびをあげた。
着替えをすませ、明日の対戦相手の下見のために観客席へ。試合はすでに始まっていた。そこで一際目を引く奴が一人。身長は175cmあるかないかの小柄なほうなのに、やたら動きが素早く、ボール捌きが抜群にうまい。目にも止まらぬ早業、とはこういうことを言うのだろう。ボールを前後左右、自在に操って相手プレイヤーを惑わせる。その隙にするりとかわしてシュートを決める。会場にいる観客の視線をほとんど独占するようなプレイだ。
「サージか」
俺の斜め前に座る木村が呟くのが聞こえた。
「知り合いか」
隣の島田さんが聞く。
「中学で一緒だった。真田新二。あいつは要注意だぞ、厄介な野郎だ。あいつとは当たりたくねえけど、多分明日はあそことやりあうことになんだろうな」
点数が6対12。真田という男がいるチームがリードしている。たった今も真田のシュートが決まった。木村が真面目な表情で試合を見ていた。初めてみる顔だった。
結果、真田のいるチームと明日、 対戦することになった。
~ ~ ~
翌日の決勝戦。 チーム全体にピリピリした緊張感が走る。その中で木村だけはいつもの眠そうな顔をしていた。気合を入れてコートへ。ジャンパーは俺。
試合開始。ボールが投げられる。ジャンプした俺の手にボールが当たった。弾かれたボールを辻さんが取り、パスがまわされる。一斉に走った。島田さんがシュートを決めてポイント先取。悪くない出だし。
その直後、 真田にボールがまわって空気がかわった。昨日の試合を見た俺たちは皆身構えた。真田が突進してくる。スピードで誰も敵わず、ディフェンスに立ち向かった島田さんがあっさり抜かれ、俺の目の前へ。打たせるか! 真田がシュートしようとボールを構えた、と見えたのは俺の錯覚で、ボールは床をついて俺の後ろへ。相手プレイヤーが受け取ってシュートを決めていた。早い。
鳥肌が立った。真田を中心としたチーム。他のプレイヤーは真田の手足となって動いている。実際に対戦してそう感じた。そしてそれがうまく機能している。 これが高校三年生の実力。いや、高校生でもこいつはトップクラスだろう。
負けてたまるか。俺の闘志に火がついた。リング下で好き勝手にはさせない。 そう簡単にシュートさせてたまるか。
インターバルで、木村が島田さんに声をかけるのが聞こえた。
「15点以上あけられるなよ」
ベンチに座ってるだけのくせに、何をえらそうに言ってやがる。島田さんはただ、黙って頷いた。
「木村は後半投入だ。お前には起爆剤として働いてもらうぞ」
監督が木村の背中を叩いた。木村は返事をせずに肩をすくめた。
コートに戻って島田さんが皆に声をかける。落ち着け。取り返すぞ。その後、うちも点を取り返すが、じわじわ点差が開いていく。辻さんがてんぱってきている。チームプレイがだんだんくずれていく。嫌な空気のまま前半戦が終わった。
ハーフタイム。無言でベンチに戻る俺たちに監督が檄を飛ばす。気持ちを奮い立たせようとするが、真田の高校生離れした動きに手も足も出ない。
「辻、木村と交代だ」
監督の言葉に、辻さんはむしろほっとした表情を浮かべて頷いた。いつの間にかウォームアップしていた木村が加わる。その目が相手ベンチを鋭く射抜く。そして観客席を仰ぎ見た。俺もつられてみた。誰か知った顔があるんだろうか。木村は人を探して目を動かしていたが、諦めて視線を戻した。
そうか、一ノ瀬か。こいつは一ノ瀬が来るのを待っているんだ。こんな大事な局面にまで男のことを考えているのか。ぶん殴ってやりたいがいまは試合中だ。なんとか堪える。試合で足手まといになりやがったら、その時ぶん殴ってやる。
後半戦、開始。点差は15点。早速ボールが真田に渡った。木村が真田に迫る。真田の顔つきがかわったのが見えた。
「誰かと思ったけど、やっぱお前かよ。ベンチウォーマーがここで何してんだよ」
真田が木村に話しかけた。中学が一緒だったというから不思議はないが、真田の口調には敵意のようなものが感じられた。
「よぉ、サージ。今日は助っ人だ」
「バスケ、辞めるんじゃなかったっけ?」
「辞めたよ、だから今日は助っ人だって言ってんだろ」
木村の手が伸びる。真田はその動きを予想していたようにレッグスルーでボールを持ちかえた。
「とろいぜ、お前。なまってんな」
「これから調子あげてくんだよ」
「その前に試合終わらせてやるよ」
木村の横をすり抜けて真田が出た。 俺の真下に真田の顔。打つか、パスか。考える一瞬の間に俺の手の下を潜り抜け、真田がダンクを決めた。
「嘘だろ」
ぶらさがったリングから下りる真田を呆然と見た。不敵に笑う真田はまっすぐ木村を見ていた。
「お前には負けねえよ、へたれが」
と走りながら木村を指差し、戻って行く。木村が片頬をあげて笑った。目つきが鋭くなる。まさかこんな安っぽい挑発に乗ってブチ切れたか? まさか辻さんよりてんぱるんじゃないだろうな。大丈夫か、本当に。
ボールが木村に渡った。木村に張り付く真田が虎視眈々とボールを狙っている。
「勝負しろよ、補欠」
真田の挑発。そんなもんに乗るなよ。
「誰がてめえと。俺にはもっと大事な用があるんだよ」
低い位置でドリブルし、真田に負けないスピードでボールを捌いて後方の味方にパス。真田を背中で牽制しながらまたボールを受け取り、体を反転させ真田を抜いた。無駄のない動きでセンターをかわし、シュート。決まった。味方のベンチから歓声があがる。俺もほっとしたが、たかが一度シュートを決めたくらいでみんな大袈裟に喜びすぎだ。
木村は真田の動きをよんでパスをカットし、奪いにきた真田の足の間を潜らせボールを味方へパス。もらった本人が予想外のパスだったらしく一瞬出遅れたがシュートを放ち、バスケットに当たったボールを俺がリバウンドして得点した。相手チームの加点が止まった。
真田に余裕がなくなったのがその顔つきでわかった。ワンマンなチームはその中心人物が調子を崩すと全体が崩れる。チーム全体に動揺が伝わっているのがわかった。
「こっちだ!」
木村が声をあげた。島田さんがパスを出す。
「調子乗んなてめえ」
真田が追い縋る。木村は後ろ手で味方にパス。ボールを見失った真田を横目にすり抜け、パスをもらってドライブで切りこみジャンプ。 空中で体を捻りながらダンクを決めた。会場から歓声があがる。
あいつ、何してやがんだ! 大事な試合で格好つけてんじゃねえ!
木村は走りながら観客席に向かって指をさし、アピールしている。その方向を見ると、出入り口から階段を下りる一ノ瀬の姿があった。今来たところらしい。一ノ瀬も驚いた顔をしている。こいつは一ノ瀬が来たから急に張り切って格好つけたのか? まさか、嘘だろ。一ノ瀬にいいとこ見せるために、あんなプレイしたっていうのか?
第3クォーターが終わったインターバル、荒い息をしながらドリンクを飲む木村に、みんなの信頼が集まっているのを感じた。前半戦の重い空気がなくなっている。みんなが、こいつなら何とかしてくれると期待している。
どうしてこいつはバスケ部に入らなかったんだ? どうしてポイントガードなんだ? こいつは謎だらけだ。
試合当日。1位から4位の順位決定戦予備戦。対戦相手は去年のインハイでベスト8。戦力はお互い五分五分、もしくはうちが少し上と見ていた。
試合開始。相手チームは動きが鈍く、イージーシュートも外して最悪の雰囲気。島田さんが今が攻め時と檄を飛ばし、うちのフォワードが確実に点を取り、俺もリバウンドでチームに貢献して前半戦を終えた。後半戦になってようやく向こうは立て直して果敢に攻めてきたが、うちは冷静にパスをまわし結局点差は縮まることなく試合終了。辻さんが雄たけびをあげた。
着替えをすませ、明日の対戦相手の下見のために観客席へ。試合はすでに始まっていた。そこで一際目を引く奴が一人。身長は175cmあるかないかの小柄なほうなのに、やたら動きが素早く、ボール捌きが抜群にうまい。目にも止まらぬ早業、とはこういうことを言うのだろう。ボールを前後左右、自在に操って相手プレイヤーを惑わせる。その隙にするりとかわしてシュートを決める。会場にいる観客の視線をほとんど独占するようなプレイだ。
「サージか」
俺の斜め前に座る木村が呟くのが聞こえた。
「知り合いか」
隣の島田さんが聞く。
「中学で一緒だった。真田新二。あいつは要注意だぞ、厄介な野郎だ。あいつとは当たりたくねえけど、多分明日はあそことやりあうことになんだろうな」
点数が6対12。真田という男がいるチームがリードしている。たった今も真田のシュートが決まった。木村が真面目な表情で試合を見ていた。初めてみる顔だった。
結果、真田のいるチームと明日、 対戦することになった。
~ ~ ~
翌日の決勝戦。 チーム全体にピリピリした緊張感が走る。その中で木村だけはいつもの眠そうな顔をしていた。気合を入れてコートへ。ジャンパーは俺。
試合開始。ボールが投げられる。ジャンプした俺の手にボールが当たった。弾かれたボールを辻さんが取り、パスがまわされる。一斉に走った。島田さんがシュートを決めてポイント先取。悪くない出だし。
その直後、 真田にボールがまわって空気がかわった。昨日の試合を見た俺たちは皆身構えた。真田が突進してくる。スピードで誰も敵わず、ディフェンスに立ち向かった島田さんがあっさり抜かれ、俺の目の前へ。打たせるか! 真田がシュートしようとボールを構えた、と見えたのは俺の錯覚で、ボールは床をついて俺の後ろへ。相手プレイヤーが受け取ってシュートを決めていた。早い。
鳥肌が立った。真田を中心としたチーム。他のプレイヤーは真田の手足となって動いている。実際に対戦してそう感じた。そしてそれがうまく機能している。 これが高校三年生の実力。いや、高校生でもこいつはトップクラスだろう。
負けてたまるか。俺の闘志に火がついた。リング下で好き勝手にはさせない。 そう簡単にシュートさせてたまるか。
インターバルで、木村が島田さんに声をかけるのが聞こえた。
「15点以上あけられるなよ」
ベンチに座ってるだけのくせに、何をえらそうに言ってやがる。島田さんはただ、黙って頷いた。
「木村は後半投入だ。お前には起爆剤として働いてもらうぞ」
監督が木村の背中を叩いた。木村は返事をせずに肩をすくめた。
コートに戻って島田さんが皆に声をかける。落ち着け。取り返すぞ。その後、うちも点を取り返すが、じわじわ点差が開いていく。辻さんがてんぱってきている。チームプレイがだんだんくずれていく。嫌な空気のまま前半戦が終わった。
ハーフタイム。無言でベンチに戻る俺たちに監督が檄を飛ばす。気持ちを奮い立たせようとするが、真田の高校生離れした動きに手も足も出ない。
「辻、木村と交代だ」
監督の言葉に、辻さんはむしろほっとした表情を浮かべて頷いた。いつの間にかウォームアップしていた木村が加わる。その目が相手ベンチを鋭く射抜く。そして観客席を仰ぎ見た。俺もつられてみた。誰か知った顔があるんだろうか。木村は人を探して目を動かしていたが、諦めて視線を戻した。
そうか、一ノ瀬か。こいつは一ノ瀬が来るのを待っているんだ。こんな大事な局面にまで男のことを考えているのか。ぶん殴ってやりたいがいまは試合中だ。なんとか堪える。試合で足手まといになりやがったら、その時ぶん殴ってやる。
後半戦、開始。点差は15点。早速ボールが真田に渡った。木村が真田に迫る。真田の顔つきがかわったのが見えた。
「誰かと思ったけど、やっぱお前かよ。ベンチウォーマーがここで何してんだよ」
真田が木村に話しかけた。中学が一緒だったというから不思議はないが、真田の口調には敵意のようなものが感じられた。
「よぉ、サージ。今日は助っ人だ」
「バスケ、辞めるんじゃなかったっけ?」
「辞めたよ、だから今日は助っ人だって言ってんだろ」
木村の手が伸びる。真田はその動きを予想していたようにレッグスルーでボールを持ちかえた。
「とろいぜ、お前。なまってんな」
「これから調子あげてくんだよ」
「その前に試合終わらせてやるよ」
木村の横をすり抜けて真田が出た。 俺の真下に真田の顔。打つか、パスか。考える一瞬の間に俺の手の下を潜り抜け、真田がダンクを決めた。
「嘘だろ」
ぶらさがったリングから下りる真田を呆然と見た。不敵に笑う真田はまっすぐ木村を見ていた。
「お前には負けねえよ、へたれが」
と走りながら木村を指差し、戻って行く。木村が片頬をあげて笑った。目つきが鋭くなる。まさかこんな安っぽい挑発に乗ってブチ切れたか? まさか辻さんよりてんぱるんじゃないだろうな。大丈夫か、本当に。
ボールが木村に渡った。木村に張り付く真田が虎視眈々とボールを狙っている。
「勝負しろよ、補欠」
真田の挑発。そんなもんに乗るなよ。
「誰がてめえと。俺にはもっと大事な用があるんだよ」
低い位置でドリブルし、真田に負けないスピードでボールを捌いて後方の味方にパス。真田を背中で牽制しながらまたボールを受け取り、体を反転させ真田を抜いた。無駄のない動きでセンターをかわし、シュート。決まった。味方のベンチから歓声があがる。俺もほっとしたが、たかが一度シュートを決めたくらいでみんな大袈裟に喜びすぎだ。
木村は真田の動きをよんでパスをカットし、奪いにきた真田の足の間を潜らせボールを味方へパス。もらった本人が予想外のパスだったらしく一瞬出遅れたがシュートを放ち、バスケットに当たったボールを俺がリバウンドして得点した。相手チームの加点が止まった。
真田に余裕がなくなったのがその顔つきでわかった。ワンマンなチームはその中心人物が調子を崩すと全体が崩れる。チーム全体に動揺が伝わっているのがわかった。
「こっちだ!」
木村が声をあげた。島田さんがパスを出す。
「調子乗んなてめえ」
真田が追い縋る。木村は後ろ手で味方にパス。ボールを見失った真田を横目にすり抜け、パスをもらってドライブで切りこみジャンプ。 空中で体を捻りながらダンクを決めた。会場から歓声があがる。
あいつ、何してやがんだ! 大事な試合で格好つけてんじゃねえ!
木村は走りながら観客席に向かって指をさし、アピールしている。その方向を見ると、出入り口から階段を下りる一ノ瀬の姿があった。今来たところらしい。一ノ瀬も驚いた顔をしている。こいつは一ノ瀬が来たから急に張り切って格好つけたのか? まさか、嘘だろ。一ノ瀬にいいとこ見せるために、あんなプレイしたっていうのか?
第3クォーターが終わったインターバル、荒い息をしながらドリンクを飲む木村に、みんなの信頼が集まっているのを感じた。前半戦の重い空気がなくなっている。みんなが、こいつなら何とかしてくれると期待している。
どうしてこいつはバスケ部に入らなかったんだ? どうしてポイントガードなんだ? こいつは謎だらけだ。
バスケに詳しくないので所々おかしなところツッコミどころあるかと思いますが、そこはどうぞお見逃しください(><)
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