ピーキー(18/18)
2020.07.26.Sun.
<1→2→3→4→5→6→7→8→9→10→11→12→13→14→15→16→17>
午後になるとドラキュラ役から解放され生徒会室へ出向いた。先に来ていた松村と二人で学校の見回りへ向かう。ごみ拾いや揉め事の仲裁、使いっ走りなどの雑用で時間が過ぎていく。
二年一組の前に来た。木村のクラスは喫茶店のようでずいぶん繁盛している。廊下にたくさんの女の子が行列を作って順番を待ちまでしている。
中を覗くと女装姿の木村が客に愛嬌を振りまいているのが見えた。
「あんなデカイ女、いないっての」
松村が苦笑している。俺も思わず笑ってしまった。
「でもあいつ、やたらウケてんだ」
松村の言葉に納得する。この行列のほとんどが木村目当てで並んでいる子たちなのだろう。
木村が俺たちに気付き、わざとらしい仕草で投げキスを寄越してきた。数人がそれに気付き、俺と木村を交互に見る。
「行こうか」
好奇の目から逃れるように、俺は松村の背中を押してその場から離れた。
一通り見回りも終わり、今日の活動は終わることにして生徒会室の戸締りをした。放課後、木村が来ると言っていたから、鍵はポケットに入れた。
教室に戻り、今度はもぎりの仕事を手伝った。
驚いた客があやまって壊したセットを放課後に修理し、そのあと急いで生徒会室へ向かった。一組の前を通ったが、もう誰もいなくなっている。
生徒会室の前の壁に、木村がもたれて立っていた
「お疲れ」
俺を見て言う。
「女装姿、似合ってたじゃないか」
「だろ。俺売れっ子なんだ、指名ナンバーワン」
「喫茶店じゃないのか」
「喫茶店だよ、でも指名されちゃうんだなぁ」
満更でもなく笑っている。
生徒会室の鍵を開け、中に入った。暗い室内。明かりをつける俺のあとに続いて木村も中に入ってきた。
「ここ来るの、久し振り」
と呟く。木村が来なくなって二ヶ月が経っていた。
「俺がいなくて寂しかった?」
「別に」
短く答えながら机に鞄を置いた。俺は嘘をついた。
「なぁ、一ノ瀬」
木村が近づいてくる。また前みたいに抱きつかれるのかと身構えたが、木村は俺の真後ろで立ち止まった。
「おまえ、あいつに何かされたか?」
「あいつ?」
振りかえった。木村は眉間にしわを寄せ、難しい顔つきで俺を見ていた。わからず首を傾げた。
「あいつ、サンジャイだよ」
「俺がサンジャイ先輩に何をされるんだ?」
「何もされてないよな?」
「何わけのわからないことを言ってるんだ」
会話が噛みあわない。 木村は何のことを言っているんだ。
「前にさ、下駄箱んとこでおまえらに会った日さ、あいつが俺に、一ノ瀬を襲って自分のものにする、なんて言ってきやがったんだよ」
「先輩が? そんなことするわけないだろ」
「だよな」
呟き、顎を掻く。目を細め、次第に苦々しい顔つきになった。
「あいつ、俺をはめやがったな」
と舌打ちした。
先輩は俺のことを心配してそんな嘘をついたのだろう。俺と木村のことに先輩を巻きこんでしまったことが申し訳ない。
「おまえをからかっただけだろ」
「あいつほんとに気に入らねえ。まぁ、今回はちょっと感謝だけどな。でも、ほんとにおまえに何かしていやがったらぶん殴ってやるつもりだった」
物騒なことを真顔で言う。発言はともかく、こいういう顔をしていれば本当にいい男なのだ。
「中尾さんはいいのか」
二人でいるところを何度となく見た。休み時間も下校の時も、木村の隣にはいつも中尾さんがいた。
「あぁ、中尾さんね、振られた」
机に腰をおろした木村はなんともない風にさらっと言って俺を驚かせた。今日だって仲良くうちのお化け屋敷に来てたじゃないか。
「ど、どうして」
「おまえのせい」
ふっと笑って俺に人差し指を向ける。
「これ」
と、今度は自分の胸のあたりを指差した。制服に赤い汚れが見えた。
「あの時さ、おまえの口紅とファンデーションが俺の制服についたんだよ。それ見つかって怒られた」
二人で棺に隠れた時か。俺は女子に白く塗られ、口紅までつけさせられた。 それがあの時木村の制服についたのか。普段そんなもの塗らないから、制服につくなんて発想がなかった。
「すまない」
「いいよ、別に好きで付き合ってたわけじゃねえしさ」
表情を消した顔で木村が俺を見つめてくる。静かな間があいた。
「ほんとはあの時、おまえをつれてゴールしたかったんだぜ」
「あの時?」
「体育祭の借り物競争。俺の相手はおまえしかいないだろ。でもおまえは怒ってるし、サンジャイとイチャイチャしてやがんし、俺も頭くるでしょ」
「イチャイチャなんかしてない」
俺と先輩をそんな風に見ていたのか、こいつは。
「してたろ、 こないだも肩抱き合って帰ってたじゃねえか、見せつけやがってあの野郎」
こないだ? いったい何の話をしているんだ? 先輩と肩なんか抱き合って……、あぁ、あれか。木村と中尾さんに偶然会った放課後、確かに校舎から出る時先輩は俺の肩を抱いた。でもあれは俺を慰めようとしただけで、イチャイチャしていたわけじゃない。こいつは何でもかんでもすぐそっちに結びつける。
「本当にサンジャイ先輩とは何でもない」
「……じゃあ、ちょっとは俺が好き?」
「どうしてそうなる」
「今日、なんで俺を引き止めた?」
「あれは、謝りたくて」
木村が立ち上がり、近づいてくる。
「ほんとにそれだけ?」
「そうだ」
「じゃ、なんで俺に抱きついてきたのかな?」
「あれは、隠れるために、仕方なく」
言いながら顔が熱くなっていく。
「俺、勘違いしちゃうよ」
木村に抱きしめられた。
「おまえには理性的でいられねえんだ。みっともないくらいおまえの事しか考えられないし、嫌んなるくらい他の奴らに嫉妬しちまうし、サンジャイの挑発には簡単に乗せられちまうし、ストーカーみたいにいつもおまえの事見てたし」
思わず吹き出してしまった。こいつの隠し事のない性格が羨ましい。俺も似たようなものだった。ずっと木村のことを考えていたし、木村の姿はすぐに見つけられた。木村の噂には耳聡くなったし、中尾さんと一緒にいるところを見たら嫌な気分になった。
「笑うなよ」
拗ねたように言う木村と目が合った。どちらともなく顔を寄せ合い、唇を重ねた。
「好きでもない奴とキスすんの?」
「何言ってるんだ。こんなの手を繋ぐのとかわらない、おまえがそう言ったんだ」
俺の言葉に木村がニヤリと笑った。
「そうだった。じゃ、もう一回、仲直りの握手」
二度目は、もっと長く。
午後になるとドラキュラ役から解放され生徒会室へ出向いた。先に来ていた松村と二人で学校の見回りへ向かう。ごみ拾いや揉め事の仲裁、使いっ走りなどの雑用で時間が過ぎていく。
二年一組の前に来た。木村のクラスは喫茶店のようでずいぶん繁盛している。廊下にたくさんの女の子が行列を作って順番を待ちまでしている。
中を覗くと女装姿の木村が客に愛嬌を振りまいているのが見えた。
「あんなデカイ女、いないっての」
松村が苦笑している。俺も思わず笑ってしまった。
「でもあいつ、やたらウケてんだ」
松村の言葉に納得する。この行列のほとんどが木村目当てで並んでいる子たちなのだろう。
木村が俺たちに気付き、わざとらしい仕草で投げキスを寄越してきた。数人がそれに気付き、俺と木村を交互に見る。
「行こうか」
好奇の目から逃れるように、俺は松村の背中を押してその場から離れた。
一通り見回りも終わり、今日の活動は終わることにして生徒会室の戸締りをした。放課後、木村が来ると言っていたから、鍵はポケットに入れた。
教室に戻り、今度はもぎりの仕事を手伝った。
驚いた客があやまって壊したセットを放課後に修理し、そのあと急いで生徒会室へ向かった。一組の前を通ったが、もう誰もいなくなっている。
生徒会室の前の壁に、木村がもたれて立っていた
「お疲れ」
俺を見て言う。
「女装姿、似合ってたじゃないか」
「だろ。俺売れっ子なんだ、指名ナンバーワン」
「喫茶店じゃないのか」
「喫茶店だよ、でも指名されちゃうんだなぁ」
満更でもなく笑っている。
生徒会室の鍵を開け、中に入った。暗い室内。明かりをつける俺のあとに続いて木村も中に入ってきた。
「ここ来るの、久し振り」
と呟く。木村が来なくなって二ヶ月が経っていた。
「俺がいなくて寂しかった?」
「別に」
短く答えながら机に鞄を置いた。俺は嘘をついた。
「なぁ、一ノ瀬」
木村が近づいてくる。また前みたいに抱きつかれるのかと身構えたが、木村は俺の真後ろで立ち止まった。
「おまえ、あいつに何かされたか?」
「あいつ?」
振りかえった。木村は眉間にしわを寄せ、難しい顔つきで俺を見ていた。わからず首を傾げた。
「あいつ、サンジャイだよ」
「俺がサンジャイ先輩に何をされるんだ?」
「何もされてないよな?」
「何わけのわからないことを言ってるんだ」
会話が噛みあわない。 木村は何のことを言っているんだ。
「前にさ、下駄箱んとこでおまえらに会った日さ、あいつが俺に、一ノ瀬を襲って自分のものにする、なんて言ってきやがったんだよ」
「先輩が? そんなことするわけないだろ」
「だよな」
呟き、顎を掻く。目を細め、次第に苦々しい顔つきになった。
「あいつ、俺をはめやがったな」
と舌打ちした。
先輩は俺のことを心配してそんな嘘をついたのだろう。俺と木村のことに先輩を巻きこんでしまったことが申し訳ない。
「おまえをからかっただけだろ」
「あいつほんとに気に入らねえ。まぁ、今回はちょっと感謝だけどな。でも、ほんとにおまえに何かしていやがったらぶん殴ってやるつもりだった」
物騒なことを真顔で言う。発言はともかく、こいういう顔をしていれば本当にいい男なのだ。
「中尾さんはいいのか」
二人でいるところを何度となく見た。休み時間も下校の時も、木村の隣にはいつも中尾さんがいた。
「あぁ、中尾さんね、振られた」
机に腰をおろした木村はなんともない風にさらっと言って俺を驚かせた。今日だって仲良くうちのお化け屋敷に来てたじゃないか。
「ど、どうして」
「おまえのせい」
ふっと笑って俺に人差し指を向ける。
「これ」
と、今度は自分の胸のあたりを指差した。制服に赤い汚れが見えた。
「あの時さ、おまえの口紅とファンデーションが俺の制服についたんだよ。それ見つかって怒られた」
二人で棺に隠れた時か。俺は女子に白く塗られ、口紅までつけさせられた。 それがあの時木村の制服についたのか。普段そんなもの塗らないから、制服につくなんて発想がなかった。
「すまない」
「いいよ、別に好きで付き合ってたわけじゃねえしさ」
表情を消した顔で木村が俺を見つめてくる。静かな間があいた。
「ほんとはあの時、おまえをつれてゴールしたかったんだぜ」
「あの時?」
「体育祭の借り物競争。俺の相手はおまえしかいないだろ。でもおまえは怒ってるし、サンジャイとイチャイチャしてやがんし、俺も頭くるでしょ」
「イチャイチャなんかしてない」
俺と先輩をそんな風に見ていたのか、こいつは。
「してたろ、 こないだも肩抱き合って帰ってたじゃねえか、見せつけやがってあの野郎」
こないだ? いったい何の話をしているんだ? 先輩と肩なんか抱き合って……、あぁ、あれか。木村と中尾さんに偶然会った放課後、確かに校舎から出る時先輩は俺の肩を抱いた。でもあれは俺を慰めようとしただけで、イチャイチャしていたわけじゃない。こいつは何でもかんでもすぐそっちに結びつける。
「本当にサンジャイ先輩とは何でもない」
「……じゃあ、ちょっとは俺が好き?」
「どうしてそうなる」
「今日、なんで俺を引き止めた?」
「あれは、謝りたくて」
木村が立ち上がり、近づいてくる。
「ほんとにそれだけ?」
「そうだ」
「じゃ、なんで俺に抱きついてきたのかな?」
「あれは、隠れるために、仕方なく」
言いながら顔が熱くなっていく。
「俺、勘違いしちゃうよ」
木村に抱きしめられた。
「おまえには理性的でいられねえんだ。みっともないくらいおまえの事しか考えられないし、嫌んなるくらい他の奴らに嫉妬しちまうし、サンジャイの挑発には簡単に乗せられちまうし、ストーカーみたいにいつもおまえの事見てたし」
思わず吹き出してしまった。こいつの隠し事のない性格が羨ましい。俺も似たようなものだった。ずっと木村のことを考えていたし、木村の姿はすぐに見つけられた。木村の噂には耳聡くなったし、中尾さんと一緒にいるところを見たら嫌な気分になった。
「笑うなよ」
拗ねたように言う木村と目が合った。どちらともなく顔を寄せ合い、唇を重ねた。
「好きでもない奴とキスすんの?」
「何言ってるんだ。こんなの手を繋ぐのとかわらない、おまえがそう言ったんだ」
俺の言葉に木村がニヤリと笑った。
「そうだった。じゃ、もう一回、仲直りの握手」
二度目は、もっと長く。
(初出2008年)
終わりましたー!今までありがとうございます!
と言ってもまた明日から別の話が始まるわけですが。別と言っても番外編みたいなものです。
2人が3年生になり、後輩の一年生目線の話になります。メインの二人の話ではないっちゃないので、読まなくても大丈夫っちゃ大丈夫ですw
お時間あるときに暇つぶしにでも読んでやってください!
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と言ってもまた明日から別の話が始まるわけですが。別と言っても番外編みたいなものです。
2人が3年生になり、後輩の一年生目線の話になります。メインの二人の話ではないっちゃないので、読まなくても大丈夫っちゃ大丈夫ですw
お時間あるときに暇つぶしにでも読んでやってください!
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