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ピーキー(17/18)

2020.07.25.Sat.
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 生徒総会もおわり、次は創立記念日に行う文化祭の準備に忙しくなった。秋は行事が目白押しで、俺は木村を忘れて慌ただしく動いていた。

 クラスの出し物はお化け屋敷に決まった。女子が衣装と小物担当、男子は大道具担当。当日の役割も決まった。 午後は生徒会の仕事があるので俺は午前中にドラキュラの格好をし、来た客を脅かすことになった。

 文化祭まであまり日はなく、連日遅くまで作業に追われた。なんとか前日までには完成したが、絵の具の乾き切っていない場所や、立て付けの悪い道具なんかがあったりして心配は残る。

 文化祭当日。俺は朝からドラキュラに変身させられた。タキシードにシルクハット、黒いマントを身にまとい、顔を白く塗られ、口紅まで塗られた。必要だろうか?

 迷路の中程、壁に立てかけられた棺の中に隠れる。ここが俺の持ち場だ。

 棺は正面から見ただけではわからないが、後ろは板がないので、窮屈そうに見えて実は広い。気を抜くとマントが後ろからはみ出して見えてしまうので、そこに気をつけねばならない。

 しばらくして客が入ってきた。最初の脅しに悲鳴と笑い声があがった。なかなかウケているらしい。だんだん客が近づいてくる。タイミングを見て棺から飛び出した。客が驚いて声をあげた。恥ずかしくてすぐ中に戻った。

 30分くらい、そんなことを繰り返した。また客が入ってきた気配。聞こえてくる声で男女二人組らしいとわかる。

 女の悲鳴が聞こえた。男は無反応だ。気配が近づいて来る。俺は外に飛び出した。

「あっ」

 二人組みを見て思わず声が出た。客は木村と中尾さんだった。

 中尾さんは悲鳴をあげて木村にしがみついている。木村と目が合った。木村も俺を見て驚いた顔をしていた。俺は急いで棺に戻った。驚かせる立場の俺が逆に驚かされた。まだ心臓がどきどきする。

 5分ほどしてまた誰か入ってきた。正直なところもう出たくなかった。今度は一人らしい。うちのクラスに知り合いがいるようで、中に進んで来ながらお化け役の男子と話をしているのが聞こえた。それでも出なくちゃならないのか。暗い棺の中で溜息をつく。

 棺の蓋をノックされた。そんなことは初めてで、何かトラブルだろうかといぶかしみながら蓋を開けると木村が一人で立っていた。

「似合うな、それ」

 俺の姿を上から下まで見て木村は笑った。咄嗟に何も言い返せず、馬鹿みたいに木村の顔を見つめた。暗い室内で、木村は目を細める。

「口紅塗ってんの?」
「あ、あぁ、女子に塗られた」

 木村が小さく笑う。入り口で客が入ってくる声がした。もう次の客がここにやってくる。 まだ木村と別れたくない。

「誰か来たみたいだな、じゃ、俺行くわ」

 片手をあげ、木村が出口に向かって歩き出す。俺は反射的に木村の制服を掴んでいた。驚いた顔で木村が振りかえる。悲鳴がすぐそこの角から聞こえた。

 木村は俺の肩を掴むと一緒に棺の中に入ってきた。前から見えることはないだろうが、それでも身を寄せ合って息を潜めた。

 足音が前を通過し、遠ざかっていく。

「行ったみたいだな」

 木村が囁き、俺は頷いた。顔を見合わせ、思わず吹き出した。慌てて口を押さえる。

「嬉しかった」

 木村が小さな声で言って俺を抱きしめた。

「さっきおまえが俺を引き止めてくれて嬉しかった。死ぬほど嬉しかった」

  木村とのこういうスキンシップは本当に久し振りだった。俺は木村の肩に顔を寄せ、背中に手をまわした。

「お、おい、おまえほんとに一ノ瀬か?」

 驚く木村に顔を覗きこまれる。見られたくなくて肩口に顔を埋めた。木村のにおいがする。懐かしいと思うほど、木村は俺のそばにいた。そして急にいなくなった。俺があんなことを言ったから。

「顔を見たくないなんて言って悪かった。本心じゃない」

 ずっとこの事を謝りたかった。

「いいってそんな事。 俺だっておまえのこと裏切ったしな」

 と優しく俺の頭をポンポン叩く。

 また客が入って来た。今度は女子二人組のようだ。悲鳴が近づいてくる。木村に強く抱き寄せられた。2人で息を潜める。足音が前を通り過ぎ、出口へ向かっていく。いなくなっても木村は俺をはなさなかった。

「今日終わったあと、生徒会室行っていい?」

 木村の囁き声に頷いて返事をする。

「じゃ、あとで」

 木村が棺から出て行った。ふわりと匂いも離れていく。おそらく外で中尾さんが待っているのだろう。中尾さんのもとへ戻っていく木村の後ろ姿を見送っていたら切なくなった。



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