ピーキー(16/18)
2020.07.24.Fri.
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体育祭で木村が連れてきた一年生の女子は中尾さんと言うらしい。翌日には木村の新しい彼女としてその名前が全校生徒に知れ渡っていた。
今まで一切木村と接点のなかった中尾さんだが、体育祭の大抜擢で一躍有名人になった。
「あんな子がロンの新しい彼女に選ばれるんなら一ノ瀬君が彼氏のままでいてくれたほうが良かったのに」
ある日クラスの女子に言われた。前は早く木村を解放しろと言われたような気がするが。
女子生徒の大半はこの意見と同じようなものらしい。生徒会の岡田さんも、
「中尾さんて子、すっごい自慢しまくってるらしいの。なんか見てて腹立つっていうか、早く別れちゃえっていうか。どうして木村君は中尾さんを選んだのよ」
俺に聞かれても困る。
「そんなことより岡田さん、これコピーお願い、40部ずつね」
サンジャイ先輩から書類を渡され、岡田さんが立ち上がってコピーをとる。その間もずっと文句を言っていた。
9月は体育祭と学力テストがあってバタバタしたためまともに仕事が出来ず、今は10月の生徒総会の準備に追われていた。
先日行われた学力テストは上位30名までが張り出された。俺は1位だったが、木村の名前はやはりなかった。
夕方に作業を切りあげた。あとは専門委員から提出される予算をまとめれば終わりだ。
松村と岡田さんを先に帰し、俺とサンジャイ先輩は後片付けと戸締りをしてから帰った。職員室に鍵を戻し、下駄箱へ向かう。
そこで話し声に気がついた。こんな時間まで残っているのは部活動をしていた生徒だろう。そう思って気を抜いていたせいで、声の主が木村と中尾さんだとわかった時、みっともなく動揺して靴を落としてしまった。その音で二人が振り返る。 俺は急いで靴を履きかえ、立ち去ろうとした。
「木村じゃないか」
サンジャイ先輩が木村に声をかけた。
「最近生徒会室に顔出さないんだな」
「もう行く用事がなくなったからな」
ぶっきらぼうに木村が答える。
「みんな寂しがってるんだ、また遊びに来いよ」
「俺の顔を見たくないって奴がいるんだ、行けねえよ」
と俺をチラと見た。
「そういうのを気にするタイプとは思わなかったけどな」
「そんなこと言って、本当は俺にチョロチョロされたくないんじゃないの」
「まぁな、 俺も今いい感じだからおまえに邪魔されたくないんだ」
木村は無言で先輩を睨みあげた。一触即発の気配に見ているこちらがハラハラする。
「邪魔してるのはそっちでしょ!」
突然中尾さんが大声を出した。
「私たちの邪魔しないで下さい、一ノ瀬さんも、もうロンに構わないでっ」
中尾さんは木村の前に立ち、俺から隠すように両手を広げた。
構うな。また言われた。前は長野に言われた。次は中尾さんに。俺は木村を構っているつもりはない。木村に避けられているのに、どう構えと言うんだ。
「先輩、行きましょう」
サンジャイ先輩に声をかけた。頷いた先輩は、すれ違い様、木村に何か耳打ちするのが見えた。
「なっ」
驚いて絶句する木村の肩を叩き、先輩が俺の隣に並ぶ。
校舎を出たところで先輩に肩を抱かれた。
「頼むから、そんな泣きそうな顔するな」
と弱りきった顔で俺に言う。俺はそんな顔をしているのだろうか。そんなつもりはなかったが、先輩がそう言うなら、泣きそうな顔をしていたのだろう。
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体育祭で木村が連れてきた一年生の女子は中尾さんと言うらしい。翌日には木村の新しい彼女としてその名前が全校生徒に知れ渡っていた。
今まで一切木村と接点のなかった中尾さんだが、体育祭の大抜擢で一躍有名人になった。
「あんな子がロンの新しい彼女に選ばれるんなら一ノ瀬君が彼氏のままでいてくれたほうが良かったのに」
ある日クラスの女子に言われた。前は早く木村を解放しろと言われたような気がするが。
女子生徒の大半はこの意見と同じようなものらしい。生徒会の岡田さんも、
「中尾さんて子、すっごい自慢しまくってるらしいの。なんか見てて腹立つっていうか、早く別れちゃえっていうか。どうして木村君は中尾さんを選んだのよ」
俺に聞かれても困る。
「そんなことより岡田さん、これコピーお願い、40部ずつね」
サンジャイ先輩から書類を渡され、岡田さんが立ち上がってコピーをとる。その間もずっと文句を言っていた。
9月は体育祭と学力テストがあってバタバタしたためまともに仕事が出来ず、今は10月の生徒総会の準備に追われていた。
先日行われた学力テストは上位30名までが張り出された。俺は1位だったが、木村の名前はやはりなかった。
夕方に作業を切りあげた。あとは専門委員から提出される予算をまとめれば終わりだ。
松村と岡田さんを先に帰し、俺とサンジャイ先輩は後片付けと戸締りをしてから帰った。職員室に鍵を戻し、下駄箱へ向かう。
そこで話し声に気がついた。こんな時間まで残っているのは部活動をしていた生徒だろう。そう思って気を抜いていたせいで、声の主が木村と中尾さんだとわかった時、みっともなく動揺して靴を落としてしまった。その音で二人が振り返る。 俺は急いで靴を履きかえ、立ち去ろうとした。
「木村じゃないか」
サンジャイ先輩が木村に声をかけた。
「最近生徒会室に顔出さないんだな」
「もう行く用事がなくなったからな」
ぶっきらぼうに木村が答える。
「みんな寂しがってるんだ、また遊びに来いよ」
「俺の顔を見たくないって奴がいるんだ、行けねえよ」
と俺をチラと見た。
「そういうのを気にするタイプとは思わなかったけどな」
「そんなこと言って、本当は俺にチョロチョロされたくないんじゃないの」
「まぁな、 俺も今いい感じだからおまえに邪魔されたくないんだ」
木村は無言で先輩を睨みあげた。一触即発の気配に見ているこちらがハラハラする。
「邪魔してるのはそっちでしょ!」
突然中尾さんが大声を出した。
「私たちの邪魔しないで下さい、一ノ瀬さんも、もうロンに構わないでっ」
中尾さんは木村の前に立ち、俺から隠すように両手を広げた。
構うな。また言われた。前は長野に言われた。次は中尾さんに。俺は木村を構っているつもりはない。木村に避けられているのに、どう構えと言うんだ。
「先輩、行きましょう」
サンジャイ先輩に声をかけた。頷いた先輩は、すれ違い様、木村に何か耳打ちするのが見えた。
「なっ」
驚いて絶句する木村の肩を叩き、先輩が俺の隣に並ぶ。
校舎を出たところで先輩に肩を抱かれた。
「頼むから、そんな泣きそうな顔するな」
と弱りきった顔で俺に言う。俺はそんな顔をしているのだろうか。そんなつもりはなかったが、先輩がそう言うなら、泣きそうな顔をしていたのだろう。
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