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ピーキー(15/18)

2020.07.23.Thu.
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  保健室のベッドで横になる俺の耳に、体育祭が終わり解散になった声が聞こえてきた。本当ならこのあと片づけをしなくてはならないのに俺はベッドの上。生徒会のみんなには申し訳ない。

 誰もいない静かな保健室。天井をぼんやり眺めながら、リレーのあとで見た木村の顔を思い出していた。

 優しい笑顔だった。木村はいつもあんな顔で俺に笑いかけていたのだろうか。思い出せない。つきまとわれている、そんな意識が強すぎて、俺は今までまともに木村と向き合ってこなかった。そんなことにいまさら気付いても仕方のないことだ。

 俺は手を抜いた木村が許せなかった。そのことで怒った俺を木村は許せなかった。 そして今までの妙な関係が終わった。ただ、それだけのことだ。そう自分に言い聞かせた。

 突然保健室の扉が開き、サンジャイ先輩が入ってきた。

「大丈夫か」
「はい、片付け出来なくてすみません」
「いいから寝てろ」

 起き上がろうとする俺を手で制す。 俺はまた横になった。

「最後のはすごかったな、おまえ」
「夢中でした」
「あいつのためか?」

 先輩の探るような目。あいつとは木村のことだ。

「わかりません」

 素直に答えた。ただ、木村にだけは絶対勝たなくちゃならない、そう思っただけだ。先輩は何も言わずにただ微笑んだ。

 また扉が開いた。今度は木村だった。サンジャイ先輩を見た途端険しい顔つきになり、舌打ちをする。

「邪魔して悪かったな」

 不機嫌に言い放ち、扉を閉めた。 足音が遠ざかっていく。

「なんか、タイミング悪かったな」

 先輩が頭を掻いた。

「あいつ、すごい目で俺のこと睨んでいきやがった。噂じゃ、おまえたちは別れただのなんだの言ってるけど、あいつまだおまえに未練タラタラじゃないか。おまえと入場門に行った時も俺を睨んできたしな」
「そんなことありませんよ。借り物競争であいつの紙になんて書いてあったか、先輩も知ってるでしょう」

 競技のあと、それがマイクで読み上げられたのだ。だから木村が今回誰を「恋人」として選んだのか全校生徒が知っている。

「ほんとにあいつ、あの子が好きなのかね。俺にはそう思えないけど」
「でも、もう俺じゃないことは確かですよ」
「一ノ瀬はそれでいいのか」
「もちろん」
「じゃ、どうしてそんな顔してる」

 目を細めて先輩が俺を見る。伸ばされた先輩の手が俺の頬に触れ、涙を拭った。

「なんでですかね、わかりません」

 笑おうとして失敗した。なぜ涙が出るのか自分でもわからない。 先輩は困ったような顔で俺の頭を撫でた。

「まったく、俺の可愛い後輩を泣かせるなんて、 木村の奴、許しちゃおけないな」

 と冗談めかして言う。俺は涙を拭いながら笑った。



馬鹿とハサミ

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