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ピーキー(12/18)

2020.07.20.Mon.
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  翌日、木村は本当に髪を黒くしてきた。朝、登校すると教室がざわついていて、それを不審に思う俺にクラスの女子が教えてくれた。

「金髪も似合ってたけど、黒い髪もカッコよかったよ。あれって一ノ瀬君の趣味なわけ?」
「そんなわけないだろ」
「一ノ瀬君とロンってまだ付き合ってないの? 付き合う気がないなら、早くロンを解放してよ、後がつかえてるんだから」

 最後はなぜか怒られてしまった。俺が木村を繋ぎとめ、独占しているような言い方。心外だ。俺があいつに付きまとわれて迷惑しているのに。

 そういえば、木村は昨日顔を見せなかった。俺の言うことを素直に聞く性格とは思えないが、少しは反省したのだろうか。それとも本当にこのまま俺に会いに来ないつもりなのだろうか。そう考えたら急に胸の奥が苦しくなった。なんだこれは。 このままあいつが俺の目の前から消えてくれれば、以前の静かな生活に戻って清々するはずなのに、俺はいま何を焦ってしまったんだ?

 考えることをやめ、授業に集中することにした。

 昼休みになり、食堂へ向かう途中、木村を見かけた。木村は友人たちに囲まれて談笑している。その頭は噂の通り黒い。長身を差し引いても、別人のようになったのに木村だとすぐわかった。

 前を通り過ぎるとき、その中の一人が俺に気付いた。

「ロン、一ノ瀬」

 と顎をしゃくる。

「あぁ、もういいのいいの、顔も見たくないほど嫌われちゃったから」

 俺の方を一切見ずに木村が言う。それを聞いてなにか取りこぼしたような焦りがわいた。

「なんだよおまえ、振られたのか。俺たちうまくいくほうに賭けてたのに」
「悪いねぇ、ご期待に添えなくて。なんか馬鹿馬鹿しくなったんだよ」

 最後は吐き捨てるような言い方だった。胸の奥がひどく痛い。俺はその場から走り去りたいのを我慢して歩いた。強く奥歯を噛み締める。どうして俺は泣きそうになっているんだ。もう木村は俺に付きまとわない。変なことも言ってこない。学校の噂になることもない。それなのに、どうして俺は傷ついているんだ。

 食堂には行かずグラウンドへ向かった。急に食欲が失せた。何も食べたくない。何もしたくない。

 グラウンドへおりる階段に腰をおろした。昼休みの間そこで過ごし、授業が始まる直前、教室に戻った。

 それ以来木村が俺の前に現れることはなくなった。学校中に俺と木村が別れたという噂が流れた。そもそも付き合ってはいないのだが。

 クラスの奴らから残念だと言われた。話をしたこともない他のクラスの奴からも「お似合いだと思ってたのに」と言われた。

 生徒会の岡田さんは、

「珍しく木村君、長く続くんじゃないかと私は予想してたんだけどね。やっぱり一ノ瀬君、男は無理だったか」

 残念そうに言った。俺は力なく笑うしかなかった。

 それから夏休みに入るまで、木村は一度も俺に会いに来ず、一言も口をきくことはなかった。



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