ピーキー(11/18)
2020.07.19.Sun.
<1→2→3→4→5→6→7→8→9→10>
最低だ。本当に最低な奴だ。全部無駄にされた。今までの努力も、少し芽生えたあいつへの友情も、全部踏みにじられた。あいつはそういう奴だったんだ。見た目通り、ちゃらついた軽薄な男だったんだ。少しあいつを見直してしまった俺が浅はかだった。悔しい。悔しくて涙が出そうだった。
教室に戻る気がしなくて生徒会室に向かった。鍵がかかっていると思ったいたが、予想に反して戸が開いた。中にサンジャイ先輩がいた。
「おう、どうした」
先輩は引き出しから取り出した書類に目を通しているところだった。
「いえ、先輩こそ、どうしたんですか」
「こないだの生徒総会で予算決めたろ、それをコピーして渡して欲しいと先生に頼まれたんだ。おまえ、どうした、目が赤いぞ」
言われて咄嗟に目を伏せた。
「木村と喧嘩したか」
「違いますっ」
どうしてそこで木村の名前が出てくるんだ。
「悪い悪い、他意はないんだけどな」
そんなふうには思えなくて黙った。先輩が失敗した、と舌を出す。
「何があった?」
「何もありません」
「そんな顔じゃないだろ」
丸めた書類で俺の頭をポンと叩く。
先輩は昔から優しい人だった。誰かが困っていると放っておけない。俺には真似できない包容力で周囲の人間の心を開く。先輩が生徒会長に推薦されたのもその人望のためだ。
「木村に頭に来てるんです」
言わないつもりだったのに、口をついて言葉が出た。
「何かされたのか」
驚いて早口になる先輩の口調。何か勘違いしているようだ。
「何もされてませんよ。ただ、あいつ、この前の期末で50位にも入ってなかったんです」
「あぁ、なんか、中間ではおまえを抜いて1位だったらしいな」
「はい。 やれば1位になれるのにあいつはそれをしない。それが頭に来るんです。あいつは俺を、みんなを馬鹿にしてる」
そうだ、あいつは結局誰に対しても、何に対しても本気になれないんだ。俺を気に入ったから付き合えというのも本気じゃなかったんだ。俺はからかわれていただけ。それなのにあいつの言葉にいちいち腹を立てたり、本気で怒ったりして馬鹿みたいだ。木村はこんな俺を見て陰で笑っていたに違いない。
「どうだろうなぁ」
先輩は指先でポリポリと頭を掻いた。
「あいつと少し話をして思ったんだけど、あいつ、本当はかなり負けん気が強いんじゃないかな。いつもああやってヘラヘラ笑ってるけど、たまに俺を睨み付けてくる目なんか俺でもおっかなくなる。実力があるのにそれを出さないのは何か理由があるんじゃないか? 負けるのが怖いんじゃない、何か別の理由があるんだよ。俺はそう思って、あいつを部に誘うことも諦めたんだ。もったいない人材だけどな」
実力を出さない理由。俺には木村が言う「面倒臭い」という理由しか思い浮かばない。
「結局やる気は本人にしか出せない。やる気のない奴にやれという方が無理な話なのさ。おまえもそんなにムキになるな。まさかあいつが好きなんじゃないだろうな」
「馬鹿言わないで下さい、誰があいつなんか」
本当に馬鹿な話だ。誰が木村なんか好きになるものか。ムキになっているんじゃない。期待を裏切られ、俺の努力を無駄にされたようで、そのことに腹が立つだけだ。
チャイムが鳴った。
「ほら、一ノ瀬、そんな顔するな。授業始まるぞ」
頭を撫でられた。 優しい仕草。木村が先輩のような男だったら、俺だってもっと素直に木村と向き合うことが出来ただろう。あいつとは最初の出会いから最悪だった。
生徒会室を出て先輩と別れ、教室に戻った。
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最低だ。本当に最低な奴だ。全部無駄にされた。今までの努力も、少し芽生えたあいつへの友情も、全部踏みにじられた。あいつはそういう奴だったんだ。見た目通り、ちゃらついた軽薄な男だったんだ。少しあいつを見直してしまった俺が浅はかだった。悔しい。悔しくて涙が出そうだった。
教室に戻る気がしなくて生徒会室に向かった。鍵がかかっていると思ったいたが、予想に反して戸が開いた。中にサンジャイ先輩がいた。
「おう、どうした」
先輩は引き出しから取り出した書類に目を通しているところだった。
「いえ、先輩こそ、どうしたんですか」
「こないだの生徒総会で予算決めたろ、それをコピーして渡して欲しいと先生に頼まれたんだ。おまえ、どうした、目が赤いぞ」
言われて咄嗟に目を伏せた。
「木村と喧嘩したか」
「違いますっ」
どうしてそこで木村の名前が出てくるんだ。
「悪い悪い、他意はないんだけどな」
そんなふうには思えなくて黙った。先輩が失敗した、と舌を出す。
「何があった?」
「何もありません」
「そんな顔じゃないだろ」
丸めた書類で俺の頭をポンと叩く。
先輩は昔から優しい人だった。誰かが困っていると放っておけない。俺には真似できない包容力で周囲の人間の心を開く。先輩が生徒会長に推薦されたのもその人望のためだ。
「木村に頭に来てるんです」
言わないつもりだったのに、口をついて言葉が出た。
「何かされたのか」
驚いて早口になる先輩の口調。何か勘違いしているようだ。
「何もされてませんよ。ただ、あいつ、この前の期末で50位にも入ってなかったんです」
「あぁ、なんか、中間ではおまえを抜いて1位だったらしいな」
「はい。 やれば1位になれるのにあいつはそれをしない。それが頭に来るんです。あいつは俺を、みんなを馬鹿にしてる」
そうだ、あいつは結局誰に対しても、何に対しても本気になれないんだ。俺を気に入ったから付き合えというのも本気じゃなかったんだ。俺はからかわれていただけ。それなのにあいつの言葉にいちいち腹を立てたり、本気で怒ったりして馬鹿みたいだ。木村はこんな俺を見て陰で笑っていたに違いない。
「どうだろうなぁ」
先輩は指先でポリポリと頭を掻いた。
「あいつと少し話をして思ったんだけど、あいつ、本当はかなり負けん気が強いんじゃないかな。いつもああやってヘラヘラ笑ってるけど、たまに俺を睨み付けてくる目なんか俺でもおっかなくなる。実力があるのにそれを出さないのは何か理由があるんじゃないか? 負けるのが怖いんじゃない、何か別の理由があるんだよ。俺はそう思って、あいつを部に誘うことも諦めたんだ。もったいない人材だけどな」
実力を出さない理由。俺には木村が言う「面倒臭い」という理由しか思い浮かばない。
「結局やる気は本人にしか出せない。やる気のない奴にやれという方が無理な話なのさ。おまえもそんなにムキになるな。まさかあいつが好きなんじゃないだろうな」
「馬鹿言わないで下さい、誰があいつなんか」
本当に馬鹿な話だ。誰が木村なんか好きになるものか。ムキになっているんじゃない。期待を裏切られ、俺の努力を無駄にされたようで、そのことに腹が立つだけだ。
チャイムが鳴った。
「ほら、一ノ瀬、そんな顔するな。授業始まるぞ」
頭を撫でられた。 優しい仕草。木村が先輩のような男だったら、俺だってもっと素直に木村と向き合うことが出来ただろう。あいつとは最初の出会いから最悪だった。
生徒会室を出て先輩と別れ、教室に戻った。
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