FC2ブログ

ピーキー(10/18)

2020.07.18.Sat.


  七月に入り、もうすぐ期末考査という時期になった。

 俺は次こそ木村よりいい点数を取るためにいつも以上に勉強をしていた。学年一位になって、木村のふざけた髪の色を黒く染め直し、ピアスとカラコンを外させるのだ。その事を木村に言うと、

「まだ俺の髪狙ってたの?」

 とケラケラ笑った。

「実際そんなことはどうでもいい。おまえと俺の勝負だ。俺もおまえの実力がどれほどか見てみたい。期待しているぞ、俺をがっかりさせるな」

 勉強でこんなふうに誰かと張り合ったことはない。俺は純粋に楽しみで木村に言った。木村は無言で笑いながら肩をすくめただけだった。

 食堂横でのキス以降も、木村は相変わらずのニヤけ面で俺の教室や生徒会室に姿をあらわした。以前より体へのスキンシップが増えたせいで、学校中の好奇の的になっている。木村とキスしてしまったせいで、俺もそれを強く止められないでいた。

 木村が教科書を借りに俺の教室へやって来たことがあった。取り次いだ女子が「一ノ瀬くーん、彼氏が来たよー」とわざと大きな声を出した。その後教室中から笑いの混じった冷やかしの声があがり、俺は死ぬほど恥ずかしい思いをした。

 木村はその冷やかしを物ともせず、むしろ喜んでいるようだった。

「俺の一ノ瀬に手を出すなよ」

 そんなことを言い出す木村を追い返したあとも、クラスの男子から「早くあいつと付き合っちゃえよ、お似合いだぜ」とからかわれ散々な目に遭った。

 サンジャイ先輩はまだ木村に未練があるようで、たまに生徒会室に顔を出すと、そこにいる木村をバスケ部に勧誘するが、毎度断られている。 インターハイの出場が決まり、木村を引き入れたいという思いが強まったようだ。

「うちは二年の層が弱いからな。木村がいると俺たちも安心して引退出来る」

 以前そう言っているのを聞いた。

 木村はまったくバスケに興味がないようだった。俺からも何度か入るように言ってみたが絶対首を縦に振らない。これ以上言ってもこいつの意思はかわらないだろう。

※ ※ ※

 そしてついに期末考査が始まった。

 今までの成果を試すときだ。もちろん全力で打ち込んだ。今回は自信があった。以前と違って木村が底知れぬ実力の持ち主だと知っている。油断ならないとわかっている。

 一週間で結果が出て、いつものように順位表が張り出された。

 朝、教室に鞄を置いてからそれを見に行った。俺は無事二位から一位に返り咲いたのだが、結果を見て胸糞が悪くなった。木村論の名前がどこにもなかったのだ。

 あいつは手を抜いた。

 髪の毛が逆立つほどの怒りを感じた。握り締めた拳が震える。

 その足で木村の教室に向かった。戸口に立つ俺を見て、クラスの一人が木村に声をかける。

「おまえの男が来てるぞ」

 つまらん揶揄を相手にせず、俺はヘラヘラ笑う木村の胸倉を掴んだ。

「なんだ、あれは」
「なにそんなに怒ってんの」
「順位表を見た。おまえ、手を抜いたな」
「あぁ、なんか面倒になっちゃって。髪は明日染めてくるよ」
「そんな事言ってるんじゃない、 どうして本気を出さない」
「なに熱くなってんの?」

 片眉をあげ、俺を見下ろす。馬鹿にした表情と言い方。怒りが腸でのたうちまわるのを感じた。奥歯を噛み締める。強く噛みすぎてこめかみの辺りでミシリと音がした。

 こいつに何を言っても無駄だ。こいつはこういう性格だった。本気だか冗談だか区別のつかないことを言って人を弄び、飽きた途端知らない顔をする。こんな奴に期待した自分が馬鹿みたいだ。

 木村を突き放した。

「見損なった。そこまでクズだとは思わなかった。二度と俺の前に現れるな。生徒会室にも二度と来るな。おまえの顔なんか見たくもない」

 言い捨て教室をあとにした。背後で、

「ロン、おまえ振られたのか」

  という声が聞こえたが、木村の声は聞こえてこなかった。



関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する