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ピーキー(8/18)

2020.07.16.Thu.


  今日は先週まとめそこなった生徒総会の資料を全部片付けるつもりだった。

 生徒会室に向かう途中、放課後の廊下で友人に囲まれて笑っている木村を見かけた。見つかると面倒なので気付かれないようにそっと通りぬけ生徒会室へと急いだ。どうして俺がコソコソしなきゃならないんだ。

「木村君ってかっこいいもんね」

 生徒会室の戸を開けようとした時、中から岡田さんの声が聞こえ、手が止まった。

「でも男だからなぁ。一ノ瀬が落ちるとは思えないけど」

 これは松村の声だ。 二人で俺と木村のことを話している。

「うちのクラスに木村君となら付き合ってもいいって男子いるよ」
「まじでか、俺は無理」
「あたしも一度木村君と付き合いたいなぁ。顔も良くて頭も良くて背も高くて、おまけに運動神経も良いんだよ、文句なしじゃない」
「男も好きなんだぞ」
「木村君って受けなのかな、攻めなのかな」
「何それ」
「受けは女性役、攻めは男性役のこと」
「うげっ、一ノ瀬が木村と付き合ったらどっちかがそうなるのか」
「きっと一ノ瀬君が受けね」

 怒りで俺の手が震えだした。なんてくだらない会話だ。そんなことを話す暇があるならさっさと仕事を終わらせてくれ。

 勢い良く扉を開けると、中の二人は飛び上がって驚き、俺を見るとバツの悪そうな顔をした。

「い、一ノ瀬……」
「外で聞かせてもらった。ずいぶん愉快な話題だな」
「ごめんなさい、ちょっとした好奇心で」

 と岡田さんが小さく舌を出す。

「いい機会だから言っておく。俺は木村と付き合ったりしない、絶対にない。人類が滅んで木村と二人きりになったとしても、俺は奴を殺して一人を選ぶ」
「まぁまぁ」

 俺をなだめようと松村が手を広げた。それを払いのけ、席についた。

 引き出しから書類を取り出し、ノートパソコンの電源を入れる。立ち上がりを待つ間、苛々して指で机を叩いた。二人も静かに自分たちの作業を始める。重くるしい空気。それを破る大声。

「一ノ瀬くん、ダーリンが来たよ!」

 生徒会室に木村が顔を出した。いつものふざけた言動にブチ切れそうになる。奥歯を噛みしめなんとか押し殺す。まともに相手にしては駄目だ。余計に調子づかせてしまう。こいつのことは無視に限る。

「あれ、なんか暗いね、どしたの」

 それでも気にせず中に入ってきて生徒会長の椅子に座る。こいつは空気を読むということが出来ないのか。

「一ノ瀬、俺筋肉痛になっちゃった。マッサージしてよ」

  猫なで声で言いながら手を伸ばしてくる。それを叩いた。木村は「いてっ」と手を引っ込めた。

「なんか今日は一段とご機嫌斜めだねぇ」

 と問う目を松村に向けた。松村はそれに気付かない振りをして黙々と作業を続ける。自分たちが怒らせたとはさすがに言いにくいのだろう。

 岡田さんが好奇心に輝く目で俺と木村を交互に見ている。岡田さんは噂好きで困る。俺と木村のことを楽しんでいるのだ。

「せっかく土曜日頑張ったのにひどいなぁ、一ノ瀬は」

 前かがみになり重ねた手に顎を乗せて俺の顔を覗きこんでくる。

 確かに木村の活躍は賞賛に値する。みんなの予想をいい意味で裏切ってくれた。 嫌がる木村をむりやり引っ張り出したのは俺だし、無視し続けるのは少し悪い気がしてきた。

「バスケ、またやる気はないのか」

 パソコンの入力作業を続けながら言った。

「くどいなぁ、だから俺は好きでやってたわけじゃないんだって。だからもうやんない」
「あれだけ動けるのに勿体ないとは思わないのか。サンジャイ先輩も是非入部して欲しいと言っていたぞ」
「まぁたサンジャイ先輩か、そんなにあいつが好きなの? 一ノ瀬のタイプ?」
「そんなんじゃない」
「じゃなに」
「小学/校からの先輩なんだ」
「……俺の知らない一ノ瀬を知ってるのか、やっぱりあいつ気に食わねえな」

 横目に木村の表情を見た。不機嫌そう顔を顰めている。いや、これだってどこまで本気でどこまで芝居かわからない。こいつの言うことをいちいち真に受けていたら疲れるだけだ。

「長野さんと言ったっけ、試合相手の主将。中学で一緒だったのか」
「そうだよ。ちょっと見ない間にまたでかくなってやがんの、あいつ」

 木村は目を細めて笑った。あのあと一緒に食事に行くくらいだからずいぶん親しい関係だったようだ。俺の視線に気付き、「妬いてる?」と馬鹿なことを言い出す。視線をパソコン画面に戻して「作業の邪魔だ、帰れ」と吐き捨てた。

「安心しなって、あいつとはもう終わってるから」

 ここにいる全員が驚いて木村を見た。この馬鹿、自分のことならともかく他人の性癖を本人のいないところでバラすなんてなにを考えているんだ! 立ち上がり、木村の手を掴んで生徒会室を出た。 また松村と岡田さんにいらない情報を与えてしまった。




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