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ピーキー(6/18)

2020.07.14.Tue.


 木村はチームのメンバーから勝利の祝福を受けていた。飛び入り参加で期待していなかった木村の予想をはるかに上回る活躍を見せつけられ、一気に歓迎ムードにかわっていた。

 バシバシと体を叩かれる祝福から逃げて木村がベンチに戻って来た。俺からタオルを受け取ると床に倒れこんだ。

「大丈夫か」
「やっぱ久し振りに動くときついわ」

 胸が大きく上下している。荒い呼吸だ。

「すごかったじゃないか」

 サンジャイ先輩がやってきて言った。

「あそこまで動けるなら本気でうちに欲しいな」
「ぜってえ嫌だ。俺もうバスケはしねえんだって」

 サンジャイ先輩の言葉にまったく興味を示さない。こんなに才能があるのに続けないのは勿体ない。サンジャイ先輩も俺と同じようで何か言いたそうに木村を見ていた。

 試合相手のキャプテンがこちらにやって来た。「お疲れ」とサンジャイ先輩の肩を叩き、床に座る木村を見下ろした。その顔に笑み。

「ロン、なんだそのざまは」
「久し振り、長野さん」

 二人は知り合いなのか。驚きつつ二人の顔を見る。どちらも相手へ向ける目に親しみがこもっていた。

「バスケはやめるんじゃなかったのか」
「やめたよ、今日はたまたま。もうやんねえ」
「あいかわらずの性格のようだな。どうしてまた試合に出ることになったんだ」

 木村の指が俺を指す。

「かわいい恋人に頼まれちゃってね」
「ち、違うっ」

 俺は慌てて首を振って否定した。そんな恥ずかしいことを誰彼構わず言うな。そもそも恋人じゃない。

 笑みを消した長野は俺をじっと見た。いや、睨んでいるといったほうが正しいかもしれない。驚かないところを見るとこの人も木村がバイだと知っているようだが、品定めするような視線が俺の頭の先からつま先まで二往復したあとフイと逸らされた。どうしてそんなふうに見られなくてはならないのか。

「こいつがロンの新しい相手か」
「そ、なかなかのツンデレ。俺のマゾっ気を開花させられちゃった」

 なんてことを大きな声で言い放つ。この場から逃げ出したくなった。

「久し振りにおまえとバスケが出来て楽しかったよ。これから飯でもどうだ?」

 木村は俺を仰ぎ見た。

「行っていい?」
「どうして俺に聞く」
「俺はおまえのもんだし」
「俺のものにしてやったつもりはない。おまえとは何の関係もないんだ、好きなときに好きなところへ行け。行って二度と戻ってくるな、この変態!」
「な、いい感じだろ」

 自慢するように笑う木村に、さすがの長野も顔を引きつらせていた。こいつには何を言っても効かないようだ。

「あれ、一ノ瀬、どこ行くんだよ、もう帰っちゃうのか」

 呼び止める木村を無視して俺は急いで体育館を出た。からかわれているだけだとわかっているが、連日あいつから妙な言葉を聞かされ続けているとこっちまでおかしくなりそうだ。

「一ノ瀬」

 名前を呼ばれ振りかえる。サンジャイ先輩が走ってくるのが見えた。

「俺、ほんとにあいつとは何の関係もありませんから」

 何か言われる前に弁解した。今日のことでさらに誤解されただろう。そう思うと憂鬱で仕方がない。変に噂される前に体育館から離れたかった。サンジャイ先輩にまで好奇の目で見られたくなかった。

「俺はおまえがそう簡単に落ちるとは思ってないよ。それより木村のことなんだけど、あいつ、本当に高校入ってからバスケしてなかったのか」
「本人がそう言っていましたから多分そうだと思います。まだ付き合いは短いですけど、あいつは嘘をつく性格じゃありません」
「そうか。あいつはセンスがいい。冗談じゃなくうちに欲しいくらいだ。どうしてバスケをやめたのかおまえは知っているか?」

 俺は首を横に振った。木村の言う理由は、面倒臭い、暇つぶしでしていただけ、汗をかくのが嫌、女(男含む)遊びに忙しいから、そんなことしか俺に話さない。まさか本当にそんなくだらない理由が本心とも思えず、それは先輩には言わないでおいた。

「そうか……。おまえからもそれとなくバスケ部に誘ってみてくれないか」
「わかりました。でもあいつ、性格の方はかなり問題ありますよ」
「そうみたいだな」

 先輩は苦笑した。あの短時間でも、試合の活躍を帳消しにしてしまう木村のどうしようもない性格を垣間見たのだろう。

「俺はおまえが落ちないほうに賭けてるんだ。簡単にあいつのものになるなよ」

 と俺の頭に手を置いてポンポン叩く。先輩まで賭けに参加しているのか。

「その賭け、勝たせてあげますよ。絶対あいつのものになんかなりませんから」

 そう言い切って先輩に頭を下げ、俺はその場をあとにした。木村なんかに落とされてたまるか。



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