ピーキー(5/18)
2020.07.13.Mon.
<1→2→3→4>
体育館に戻り、みんなと合流してすぐ、練習試合が始まった。俺はベンチの後ろで見学させてもらった。
サンジャイ先輩の活躍が目立つ前半戦、うちがポイントリードでハーフタイムを向かえた。練習試合とは言え、両者凄まじい気迫だ。ベンチに座る木村も静かに試合を見ていた。監督が選手に指示したあと、全員で円陣を組んで気合を入れ、試合再開。
俺は試合に集中している木村を見た。今まで見たことのない真剣な表情。こういう顔をしていれば軽薄な雰囲気もなくなる。いつもこの顔でいられないのだろうか。
俺の視線に気付き、木村が顔をあげた。ニッと笑って片目を瞑る。げんなりした気持ちで俺は目を逸らした。これさえなければ悪い奴ではないのに。
第3クォーターで逆転された。ワンゴール差とは言え、後半で逆転されて雰囲気が悪くなる。
インターバルになってサンジャイ先輩が監督と何か話をし、監督が木村に声をかけた。
「準備しとけ、最後の五分、出してやる」
サンジャイ先輩は荒く呼吸しながら静かに微笑み木村を見ている。
「俺、1年以上ボールに触ってなかったぜ」
「構わん。昨日のおまえの動きを見て俺も使ってみたくなった。最後の5分位なら体力も持つだろう」
監督の言葉に他の部員たちの視線が木村に集まる。ざわつき、不安そうな顔だ。それもそうだろう。チームメイトでもない男がいきなりコートに立って試合をするのだから誰だって不安に思う。
「面倒くせえなぁ」
言いながらも木村は立ち上がって屈伸を始めた。
2分経ち、第4クォーターが始まった。サンジャイ先輩が声を張り上げてチームに渇を入れる。気合の入ったメンバーがなんとか点をもぎ取り逆転。しかしその直後に点を取られてまた逆転。また点を取り返す、ということをしばらく繰り返した。接戦。
ベンチの監督が立ち上がった。俺は木村を見た。鋭い目つきでまっすぐコートを見ている。しっかりやれよ、言おうとした言葉が出てこなかった。 声をかけられない雰囲気。いつもの木村とは違う。
「交代」
ラスト5分、ついに木村がコートに立った。
相手チームのキャプテンがメンバーに声をかけていた。実力は知らなくても上背はあるから要チェックというところか。
サンジャイ先輩がカットしたボールを木村にパスした。
「この前みたいに暴れてみろ」
表情を消した木村が走りだす。相手チームのプレイヤーを一人抜き、二人抜き、誰にもパスすることなくゴール下までドライブイン、相手のセンターに阻まれながらフェイダウェイ・ジャンプショットで初ゴールを決めた。一瞬の出来事。誰もまともに反応出来なかった。
「来るぞ!」
木村の声に我に返って自コートに戻る、そんな有様だった。
サンジャイ先輩がボールをカットした。
「こっちだ!」
先輩からボールを受け取った木村がフェイントでマークマンをかわしスリーポイント。入った! チームから大きな歓声が上がる。木村の顔に笑みはない。
木村は立て続けにゴールを決め、気がつくと連続9得点。残り1分。
「あいつ、本当に1年もブランクがあるのか」
監督の呟く声が聞こえ、俺は身体が震えるのを感じた。あいつはすごい奴だ。
サンジャイ先輩がダンクシュートを決め、また大歓声があがる。汗だくの木村が自分のポジションにつき、膝に手をついて荒い息をしていた。辛そうだが楽しそうだ。生き生きしているように見える。なぜバスケをやめてしまったのだろう。
残りわずか、木村にボールがまわってきた。相手のガードが固くパスを余儀なくされたが、木村は敵を素早くかわしてボールを受け取り、ドライブでリング下まで潜り込む。体を半回転させながらジャンプしてシュート。ボールはリングを通過し、試合終了の笛が鳴った。
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体育館に戻り、みんなと合流してすぐ、練習試合が始まった。俺はベンチの後ろで見学させてもらった。
サンジャイ先輩の活躍が目立つ前半戦、うちがポイントリードでハーフタイムを向かえた。練習試合とは言え、両者凄まじい気迫だ。ベンチに座る木村も静かに試合を見ていた。監督が選手に指示したあと、全員で円陣を組んで気合を入れ、試合再開。
俺は試合に集中している木村を見た。今まで見たことのない真剣な表情。こういう顔をしていれば軽薄な雰囲気もなくなる。いつもこの顔でいられないのだろうか。
俺の視線に気付き、木村が顔をあげた。ニッと笑って片目を瞑る。げんなりした気持ちで俺は目を逸らした。これさえなければ悪い奴ではないのに。
第3クォーターで逆転された。ワンゴール差とは言え、後半で逆転されて雰囲気が悪くなる。
インターバルになってサンジャイ先輩が監督と何か話をし、監督が木村に声をかけた。
「準備しとけ、最後の五分、出してやる」
サンジャイ先輩は荒く呼吸しながら静かに微笑み木村を見ている。
「俺、1年以上ボールに触ってなかったぜ」
「構わん。昨日のおまえの動きを見て俺も使ってみたくなった。最後の5分位なら体力も持つだろう」
監督の言葉に他の部員たちの視線が木村に集まる。ざわつき、不安そうな顔だ。それもそうだろう。チームメイトでもない男がいきなりコートに立って試合をするのだから誰だって不安に思う。
「面倒くせえなぁ」
言いながらも木村は立ち上がって屈伸を始めた。
2分経ち、第4クォーターが始まった。サンジャイ先輩が声を張り上げてチームに渇を入れる。気合の入ったメンバーがなんとか点をもぎ取り逆転。しかしその直後に点を取られてまた逆転。また点を取り返す、ということをしばらく繰り返した。接戦。
ベンチの監督が立ち上がった。俺は木村を見た。鋭い目つきでまっすぐコートを見ている。しっかりやれよ、言おうとした言葉が出てこなかった。 声をかけられない雰囲気。いつもの木村とは違う。
「交代」
ラスト5分、ついに木村がコートに立った。
相手チームのキャプテンがメンバーに声をかけていた。実力は知らなくても上背はあるから要チェックというところか。
サンジャイ先輩がカットしたボールを木村にパスした。
「この前みたいに暴れてみろ」
表情を消した木村が走りだす。相手チームのプレイヤーを一人抜き、二人抜き、誰にもパスすることなくゴール下までドライブイン、相手のセンターに阻まれながらフェイダウェイ・ジャンプショットで初ゴールを決めた。一瞬の出来事。誰もまともに反応出来なかった。
「来るぞ!」
木村の声に我に返って自コートに戻る、そんな有様だった。
サンジャイ先輩がボールをカットした。
「こっちだ!」
先輩からボールを受け取った木村がフェイントでマークマンをかわしスリーポイント。入った! チームから大きな歓声が上がる。木村の顔に笑みはない。
木村は立て続けにゴールを決め、気がつくと連続9得点。残り1分。
「あいつ、本当に1年もブランクがあるのか」
監督の呟く声が聞こえ、俺は身体が震えるのを感じた。あいつはすごい奴だ。
サンジャイ先輩がダンクシュートを決め、また大歓声があがる。汗だくの木村が自分のポジションにつき、膝に手をついて荒い息をしていた。辛そうだが楽しそうだ。生き生きしているように見える。なぜバスケをやめてしまったのだろう。
残りわずか、木村にボールがまわってきた。相手のガードが固くパスを余儀なくされたが、木村は敵を素早くかわしてボールを受け取り、ドライブでリング下まで潜り込む。体を半回転させながらジャンプしてシュート。ボールはリングを通過し、試合終了の笛が鳴った。
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