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ピーキー(1/18)

2020.07.09.Thu.
※健全

「みーつけた」

 別に隠れていたわけでもないのに、生徒会室に顔を出した木村論は俺を見てそう言った。

「今忙しい」
「またまたぁ」

 俺の言う言葉を無視して中に入ってくる。 他の役員も毎度のことでもはや誰も驚かないし、顔もあげやしない。相手にしないほうがいいのだ。

 俺の背後にまわった木村が抱きついてきた。

「そんな書類放っておいて、俺との愛の時間を大事にした方がいいぞ、いくら俺でも浮気しちゃうかもしんないよ」
「いろいろ訂正したいところはあるが、浮気、おおいに結構じゃないか、俺のことは放っておいてどんどん浮気とやらをしてくれ」

 馬鹿馬鹿しい。木村論、二年一組、この学校の問題児。自らバイセクシャルだと公言し、男女問わず、誰彼構わず毒牙にかける性的破綻者。

 次の標的が俺になって二ヶ月。足繁く俺のクラス、放課後の生徒会室に通い、誰憚ることなく口説いてくる。

 はじめは面食らったが、きっぱり断っても一向めげる様子もなく、懲りずに何度も俺のところへやってくるので次第に慣れてしまった。

 木村の神経の図太さには、呆れるのを通り越して感心すらしてしまう。打たれ強いのか、ただのパンチドランカーなのか。どちらにせよ、付きまとわれる俺には迷惑な話だ。

  生徒会の面々も最初は戸惑い、作業が滞りがちだったが二ヶ月も経つと慣れてしまい、早く帰りたい一心で木村を無視して作業に打ち込んでいる。

 今も、間違いの多い木村の言葉を誰もつっこまない。まともに相手をするのは時間の無駄だと知っているのだ。

「つれないねぇ、俺のダーリンは」

 誰がダーリンだ。

 プッと書記の松村が吹き出した。俺が睨むと咳払いし、顔を背けた。

 まったくどうして俺がこんなしょうもない奴に捕まってしまったのか。

 ~ ~ ~

 あれは四月の風紀取締り週間の時だった。

 朝、校門の脇に立ち、登校してくる生徒の服装チェックをしていた俺は、金髪にピアスという男を見つけ、呼び止めた。

 名を聞くと木村論と名乗る。 聞き覚えのある名前だった。 確か女子に人気があり、おまけにバイだと有名な奴だ。

 こいつがそうか、と俺は長身の木村を見上げた。木村は確かに女子に受けそうな外見をしていた。近くで見ると目の色がグレーだった。カラーコンタクトか。

「君にはいろいろ是正してもらわなくてはならない事があるようだ。悪いが放課後、生徒会室まで来てくれ」
「いいよぉ」

 見るからに軽そうな木村は、口調も唾棄すべき軽薄さで承諾した。

 その日の放課後、木村を信用していなかった俺はわざわざ木村のクラスまで迎えに行った。案の定、木村は女子の肩に腕をまわし、背後に俺がいるとも気付かず下駄箱に向かって歩いて行く。

 その肩を叩いた。眠たそうな顔で振りかえった木村は、その表情を変えずに、

「誰だっけ?」

 と目を瞬かせた。 朝のことを忘れているのだ、この男は。

「生徒会からの呼び出しだ。一緒に来てもらうぞ、木村論」
「あぁ、朝の。悪いんだけど俺、今から彼女と帰るとこなんだよね」
「知ったことか、さぁ、来い」

 木村の腕を掴んで歩き出した。

「ごめんね、なんかよくわかんないけど、そういうことらしいから俺行ってくるね。帰ったらまた連絡するよ」

 木村は残された彼女に手を振った。背後で彼女の笑い声が聞こえてきた。 どいつもこいつもいい加減な奴ばかりだ。

 生徒会室の鍵を開け中に入った。今日は活動が休みなので誰もいない。木村を椅子に座らせ、俺もテーブルを挟んだ向かいに腰をおろした。

「なぜ呼ばれたかわかるか」
「まさか俺に愛の告白?」
「違う」
「じゃ何」
「その頭の色、ピアス、カラコン、明日までに校則に則ったものになおしてきてもらおうか」
「これ気に入ってんだけどなぁ」

 木村は名残惜しそうに前髪を指で掴んで引っ張った。

「ピアスも外せ、カラコンも必要ない」
「厳しいなぁ、カラコンはつけてくんなって校則に書いてないでしょ」
「わざわざ書くまでもないことだからだ」
「書いてないことまで守ってらんないよ、それに誰にも迷惑かけてないじゃん」
「俺が不愉快だ」
「うわぁ、生徒会長ってそんなことまで口出せんの?」
「俺は副会長だ」

 突然、木村が声を立てて笑った。

「面白い奴だなぁ、おまえ。そこまで横暴に言い切られるといっそ気持ちいいな」
「面白いか面白くないかじゃない、外せと言ってるんだ。学業に必要ない」
「必要かどうかじゃなくて、影響あるかどうかだろ。影響ないなら今のままでもいいんじゃねえの」
「影響があるかどうか判断材料がない。だからそんな屁理屈は受け付けない」

 さっきまでトロンと眠そうだった木村の目つきがかわった。くっきりとした二重の目を少し吊り上げ、ニヤリと笑う。

「いいこと思いついた。賭けしない?」
「賭博は禁止だ」
「じゃなくて、次の中間考査で俺が学年一位になったら影響なしってことで、見逃すってのはどう?」

 思わず笑った。入学した時から試験結果は俺が常に学年一位だ。こいつはそれを知っててそんなことを言ってきたのか? いいだろう、その挑戦受けて立つ。俺は負ける賭けはしない。

「木村論、その賭け、生徒会副会長として許可する」

 木村は気障に指をパチンと鳴らし、

「その言葉、忘れんな」

 と俺を指差して笑った。その日はそれで木村を返した。

 翌日、生徒会書記の松村が木村と同じクラスだと言うので木村のことを聞いてみた。

「あいつ、授業中いつも寝てるかなぁ。真面目なタイプではないよ。俺も二年になって初めて同じクラスになったからよくわかんないけど、あいつ、いつもクラスの中心にいるよ。目立つのは好きじゃないみたいで自分から騒いだりしないけど、気がついたら木村のまわりに人が集まってる。なんかあいつ、得体が知れないんだよな。フラフラしてるっていうか、何考えてるかわかんないっていうか。男もいけるらしくて、割ととっかえひっかえ相手かえてるらしいけど」

 奴の色恋沙汰に興味はない。授業もまともに受けていない奴に負けたとあっては末代までの恥だ。五月の中間考査まであと二週間。たった二週間で俺の学力まで上げられるはずはない。

 そう思っていた。そう思って俺は普段通り、もちろん手を抜かずに勉強し、中間考査に挑んだのだ。

 しかし廊下に張り出された順位表を見て俺は愕然となった。上位50名の順位表、俺の名前が木村論の下に書かれてあったのだ。自分の目を疑った。

 俺が二位。なぜだ。一年の間、木村論の名前など見た覚えはない。それがなぜたった二週間で俺より良い成績を取れるようになったんだ。何か不正があったのか? 真っ先にそれを疑った。

 その足で職員室に向かい、担任の畑中先生にわけを話した。なぜ木村が学年一位なのかを聞いた。

「俺も驚いたよ、まさかあいつが一番取るとはねぇ」

 畑中先生は顎の無精ひげを指でさすりながらニヤニヤ笑った。

「俺、一年の時、あいつの担任だったんだよ。だらしなくて軽薄そうに見えるけど、あいつああ見えて実は頭いいんだよ。入試の時もおまえと張るくらいの成績だったんだ。普段は面倒くさがって実力出さないけど、今回はそうか、おまえと賭けてたのか」

 そんな話、初耳だ。騙された気がした。あいつは自分の実力を隠して俺に挑んできた。俺を油断させて学年トップの座をかっさらって行った。

 しばらくショックで言葉もなかった。しかし、負けは負けだ。木村よりいい点数を取れなかったのは自分の勉強不足だ。悔しいが負けを認めるしかない。

 その放課後、俺は木村の教室に向かった。戸口に立つ俺を見つけた木村がニヤリと笑う。

「顔を貸せ」
「いいよぉ」

 ダラダラと俺のあとをついてくる。廊下の踊り場で木村と向き合った。

「俺の負けだ。特例としておまえのそのだらしない格好を不問とする」
「だらしないってのは酷い言い方だなぁ」
「次の期末では必ず俺が取り返す。 それまでの期間限定だ、覚えておけ」

 これ以上木村と顔を突き合わせているのも不愉快で、俺はそれだけ言うと背を向けた。突然腕を掴まれた。

「何だ」
「名前、聞いてなかったと思って」
「順位表でおまえの下にあった名前だ」
「あぁ、やっぱりあれか、一ノ瀬有」
「そうだ」
「なぁ、一ノ瀬、俺と付き合わない? なんかおまえのこと気に入っちゃったんだよね、俺」
「ふざけるなっ」

 腕を掴む木村の手を振り払った。男と付き合えるという噂は本当だったのか。

「俺としてはおまえのツラは今後二度と見たくない」
「いいね、それ、グサッとくる。 俺ってマゾだったんかも」

 何が嬉しいのかニヤニヤ笑っている。 変態か、こいつは。

「話は以上だ」

 歩き出す俺の背中に木村が叫ぶ。

「俺は諦めねえぜ、絶対落としてやるからな」

 それ以来、木村に付きまとわれる日が続いている。



灼熱カバディ 1

アニメ化おめ!

というわけで、コロナ収束祈願第二弾いきまーす!
アメリカは感染者数が300万越えしてて世界的に見たらぜんぜんそんな気配はなく。日本も各地でじわりと増えつつあるなかで。なんとか収束の方向へ少しでも向かって欲しいという一念で。こっ恥ずかしい大昔のやつを更新しますね!

12年くらい前に書いた奴です!若い!青い!恥ずかしい!
いろんな元ネタがつまったシリーズものになります。まずタイトルが某アニメの主人公の台詞「ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ」から。木村論のロンは、某魔法学校の赤毛からです。あの三人組で私は赤毛が一番好きでした。

毎日一話ずつ、当時の書いた順に更新していく予定です。なので途中で主役が違う番外編が挟まれていたりします。そっちは読まなくても大丈夫なくらい、メインの二人とは関係無い話になっております。

またしばらくお付き合いいただけたら嬉しいです。

今以上に拙さ目立ちますが、少しでも楽しんで頂けますように。
そして皆さまが健康で過ごせますように。
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