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続・ほんとにあったら怖い話(2/2)

2020.06.22.Mon.
<前話>

 夢と現実の狭間のような感覚のなか、父さんに抱えられて風呂場で体を洗われた。まだ熱を持つ肛門に指が入ったときははっきり覚醒して父さんにキスをねだった。

 勃起した俺のちんぽを父さんは優しく撫で、フェラでイカせてくれた。精も根も尽き果てぐったりする俺を父さんは寝室へ運び「おやすみ」と額にキスすると寝室を出て行った。リビングのほうから洗い物の音がする。あんなに激しいセックスをしたあとなのに家事をするなんて父さんはタフだ。

 ウトウトしていたら携帯電話が震えた。表示された「くそ野郎」という発信元を見てハッと飛び起きた。

 声をひそめ、電話に出た。

『明宏、考えてくれたか?』

 さっきまで体中を温めていた幸福感が霧散した。本当にただ忌まわしいだけでしかない。

「もう少し待ってよ。今日会ったばっかじゃん」
『向こうがゴネるなら、俺が出てやるからな』

 冗談じゃない。父さんとこいつを絶対会わせたくなんかない。でもこいつは俺がどんなに止めてもやってくるだろう。そして非常識なことを父さんに言うだろう。

 父さんに迷惑はかけられない。

「……ずっと血の繋がりのない俺を育ててくれたんだ。本当に優しくて良い人なんだ。傷つけたくない」
『優しいな、お前は』
「だから、なにも言わないで出てくよ。父さんが寝てから家を出るから……三時くらいにさっきの場所に迎えに来てくれる?」
『わかった。迎えに行ってやる』

 ニヤついた声を聞きたくなくて早々に通話を切った。家事の音に耳を澄ませながら鞄に荷物をつめ、机の下に隠した。

 ~ ~ ~

 0時過ぎになって父さんも寝室へやってきた。布団に入ると、寝たふりをする俺を抱きしめる。父さんの胸に飛び込んで思いきり甘えたいのを堪え、時間が過ぎるのを待った。

 父さんも疲れていたらしくすぐ寝息が聞こえてきた。俺を抱きしめる腕の力も緩む。その腕からそっと抜け出した。父さんの寝顔を見下ろす。

 母さんにも俺にも、もったいないくらいの良い人だ。優しくて、まっすぐで、人生に一点の曇りもない。そんな父さんに父との接点を持って欲しくない。そこから真っ白できれいな父さんが汚染されてしまう気がする。

 軽く揺さぶったり小さく呼びかけたりして、父さんが起きないか試してみた。静かに寝息を立てるだけで起きる気配はない。仕事のあと俺とセックスして家事までこなしたんだ。疲れていて当然。

 父さんを起こさないよう服を着替え、机の下に隠しておいた鞄を掴んだ。部屋を出る前に振り返り、父さんの顔を目に焼き付けた。
 人目を避けつつ夜の道を静かに移動した。約束の三叉路に、父はいた。

「近くのコンビニに車止めてるから、そこまで歩くぞ」

 とあくびをしなが先に歩き出す。

「コンビニって駅前の?」
「いや、携帯ショップのある角のコンビニ」
「そこならこっちの道の方が早いよ」

 父は俺の指さすほうを見て方向をかえた。

「荷物はそれだけか?」
「うん。あんまり用意する時間もなかったし」
「本当に何も言わずに出てきたのか? 気付かれなかったか?」
「大丈夫。父さんが寝てるときに出てきたから」

 俺は静かに鞄のチャックを開けてなかに手を入れた。

「あれか、お前ら。やっぱり一緒に寝てるのか?」
「えっ?」
「やっぱり俺が話つけてやろうと思って、夜になってからお前らの家に行ったんだ。そしたら妙な声が聞こえてくるから裏にまわってみたら……まあ驚いたなんてもんじゃなかったな。お前、いつからあいつと寝てるんだ?」

 振り返った父が俺に笑いかける。酒を飲み母さんと俺に暴力を振るったあと、興奮がおさまらない父が母さんを犯したときによく見せた顔に似ている。

「あれは昨日今日の関係じゃないだろ。ずいぶん仕込まれやがって。どこの淫乱かと思ったぞ。母さんが出てった本当の理由はお前らがデキたからじゃないのか?」
「ち───違う……」
「なにが違うんだ。聞いてるこっちが赤面するようなこと叫びながらイキやがって。あの男、案外最初からお前が目当てだったんじゃないのか?」

 俺の父さんをこいつの汚い言葉で穢されていく。目の前が真っ赤になったような気がした。

「調べたらあいつ、金は持ってるっぽいな。田舎だけど山も持ってるようだし。未成年者に手を出した慰謝料くらいもらっておかないとな」

 鞄から出した手を振りあげた。ニヤついた顔のまま父はそれを見上げ、何かわかると目を見開いた。俺は手を振り下ろした。鈍い感触と父の呻き声。陥没の形状が同じだと事故死だと思われなくなるかもしれない。だから今度は金槌の側面で父の頭部を殴った。

 頭を庇いながら俺から逃げるために父が後ずさる。俺は金槌を持って追い詰める。恐怖に歪んだ顔。そこへもう一発。父の体が大きく傾いで、消えた。見下ろすと、父は長い階段の下にいた。

 素早く階段を駆け下り父の傍らに膝をついた。鞄から出した軍手を手にはめ、父のポケットを探る。見つけた携帯電話。着信履歴やメール、データフォルダを確認する。俺への着信があるだけで、父さんとのセックスを記録したデータは出てこなくて安心した。着信履歴には××ローンとか○○金融といった怪しげな名前が並んでいた。俺や母さんへの愛情じゃなく、金に困って会いに来たのだとわかってこれも安堵した。いまさら親子の情に目覚められても迷惑なだけだ。

「んっ……ううっ……」

 呻き声がして驚いた。てっきり死んだとばかり思っていたのに父は生きていた。虫の息だ。放っておいてもいずれ死ぬ。でも不安は取り除いておくにこしたことはない。あたりを見渡し、誰もいないことを確認してから、もう一度金槌を振り下ろした。

 ~ ~ ~

 朝から振り続いた雨は夜になっても止む気配がない。

 今日は父の通夜だ。最後だから、と祖父母に言われて父の死顔を見た。あの夜血だらけだった顔は修復されて綺麗になっている。ただ生気がないだけ。

 父の遺体は朝になって犬の散歩をしていた通行人に発見された。コンビニに車を置きっぱなしにして、別れた元妻の家の近くで死んでいたからうちにも警察が聞きとりにやってきた。母さんがいないと知って警察は一瞬表情を変えたが、半年もまえに男を作って出て行ったと聞くと同情にかわった。

 俺は学校帰りに父に会ったこと、その時連絡先を交換し、その夜電話がかかってきたことを話した。母さんを探しているようだ、本当は家にいるんじゃないかと疑っている、ずっと見張ってるからな、と言われたと警察には話した。

 通話記録は残っているからうまく嘘と真実を織り交ぜないといけない。アリバイ確認をされたときは父さんが憤慨して警察に抗議してくれた。身内の証言は意味がないと知りつつ、一晩中俺は家にいたと胸を張って言いきってくれた。

 俺はその間、突然の実父の訃報に驚きショックを受け、まだ現実が飲みこめず茫然とする子供を演じた。警察が引きあげる頃に、ようやく父の死を実感したように泣いてみせた。

 警察は、金に困った父が元嫁を頼ってやってきたのだろう、と思っているようだった。元嫁を見つけだすためにコンビニに車を置いて家の周辺を探っていたら暗い夜道で階段を踏み外し、転落死したと。

 俺が警察から話を聞かれたのはその一度だけだ。でもまだ安心はできない。どこに綻びがあるかわからない。

 警察が帰ったあと、どうして父に会ったことを黙っていたのかと父さんに少し責められた。一緒に暮らそうと誘われたことを知ったら、父さんは俺を追い出そうとするんじゃないかと思うと怖かった、と話した。これは本当だ。父に会って、俺があんな奴の息子だと知ったら嫌気がさすんじゃないかと怖かった。

 父さんは「そんなことあるわけないだろう」と、怒ったように言って俺を抱きしめた。何があっても一生離さない、とも言ってくれた。

 俺が父を殺したとは疑っていないようで安心した。

 通夜が終わり、葬儀場の近くに取ったホテルへ父さんと戻った。

 部屋に入るなり父さんに抱きついてキスした。こんな時に不謹慎だと怒られるかもと思ったが、どうしても父さんが欲しくなった。

 父親を亡くした俺が悲しみ動揺しているせいだと思ったようで、父さんは殊更優しく俺を抱いた。

「もう俺には父さんしかいない」

 俺と父さん、2人きりだ。まったく悲しみはない。むしろ、その逆。

「大丈夫だよ。母さんの分も、明宏のお父さんの分も、僕がいっぱい愛してあげる。一生そばにいて守ってあげるから」
「ほんとに? 約束できる?」
「ああ、約束する」

 何も知らない優しい父さんを騙すのは心苦しいけれど本当のことは絶対言えない。俺は一生父さんから離れない。父さんを離す気もない。もし父さんが俺を捨てて他の女や男を取ったら、その時は──。

「もし嘘ついたら、その時は殺してやるから」



拒まない男1


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