君が笑った、明日は晴れ(88/89)
2020.06.29.Mon.
<1話、前話>
先輩が僕から離れていくのを見送る。動けなかった。誰とでもキスできるなんて言われて、カンサイともした、なんて言われて、今朝も森下さんて人とやってきた、なんて言われたら、さすがの僕もショックで動けなかった。
先輩が僕に照れていたように見えたのはやっぱり僕の錯覚だったんだ。先輩が僕に照れるはずなんてないんだから……。
「今朝もやって来ただなんて……そんな報告いらないよ……」
森下さんてどんな人なんだろう。大学生って言ってたっけ。そんなに大人なのかな……。海の家で知り合った人。
ん。海。大学生。森下??
携帯電話を取り出し、電話をかけた。僕の初めての人、親戚の森下健一さん。この人も確か海好きだった。まさかとは思うが一応念のため。
数コールのあと、健兄ちゃんが電話に出た。
「健にい? 山口先輩と会ってる?」
『久し振りに電話してきたと思ったら、やっぱり用件はそれか』
のんびりと健兄ちゃんは言った。やっぱり! 先輩の相手って健兄ちゃんだったのか! なんて偶然! っていうか、
「健にい、ひどいよ! 僕が先輩を好きだって事知ってるだろ! それなのにどうして先輩と?!」
ゲイの知り合いなんて健兄ちゃんしかいないから、僕は中学の頃から先輩への片思いの相談をずっとしてきた。先輩の名前も何度となく健兄ちゃんに言ったはずだ。同じ高校に進学したのだって報告してるのに。
『あははっ、初めは気付かなかったんだよ。学校の名前聞いて思い出したんだ。それがわかったのもつい最近……おまえ、いつか、重夫の体中にキスマークつけただろ? その日だよ、おまえと重夫が繋がったのって』
キスマーク。カラオケボックスの時の……! どうしてそんなこと健兄ちゃんが知ってるんだ? 先輩が健兄ちゃんの前で裸になるようなことがあったってことだ!
「もう……最悪」
僕は項垂れた。健兄ちゃんの性格はよく知ってるつもりだ。おとなしそうな外見に似合わず、いけそうな男を見つけたら誰とでも寝る人なんだ。もう溜息しか出ない。
『謝るよ、おまえの好きな奴だって気付いた時には寝たあとだったんだ』
「健にいのおかげで先輩、ずいぶん慣らされてたよ。いったいどれだけやったの」
『さぁ、もう覚えてない』
電話の向こうでカラカラと明るく笑う。人の気も知らないで……。
「今朝もしたんでしょ」
投げやりな気持ちで確認すると、健兄ちゃんは『あっ、重夫から聞いたの?』とあっさり認めた。僕の傷口に塩を塗りこむ気軽さ。ほんっとに無神経!
『で、うまくいった?』
「はっ?! なんの話?!」
つい苛々と答えた。
『あれ? 重夫から好きだって言われなかったの?』
「言われるわけないでしょ、そんなこと」
『あれ? おかしいなぁ。あの子、おまえのこと好きなんだって気付いて動揺しまくってたよ。本人は最後まで認めたがらなかったけど、あの子って意外に純情なところあるよね』
ククッと健兄ちゃんは笑う。つい最近知り合っただけのくせに、僕の先輩を知った風に言わないで欲しい。
「先輩が僕を好きなわけないよ」
嫌われることならたくさんしてきたけど、好かれるようなことは何もしてない。
『ほんとに何も言われてないの? 可愛い従兄だから教えてやるけど……彼ね、怖いんだって。おまえと付き合ったとしても、終わりが来るのが怖いから好きだって認めたくないんだってさ。だから今までの関係を選ぼうとしてた。そんな馬鹿なことやめて告白してこいって俺が背中押してやったのに。意気地なしだなぁ、重夫も』
「……それってほんとなの?」
『ほんとだよ。ずばり聞いてみれば?』
嘘だ、嘘、嘘。ぜったいそんな都合のいい話、あるわけないんだ。健兄ちゃんの勘違いに決まってる。
……ほんとに?
今日、先輩が照れているように見えたのも勘違い? 保健室で先輩がキスしてきたのも、あの時見せた優しい目も、僕の勘違い?
体がブルッと震えた。
「僕、行かなきゃ……先輩のとこ、行かなきゃ……」
『行っといで。おまえのために俺は泣く泣く身を引いたんだ。うまくやれよ』
ありがと、健兄ちゃん。
先輩が消えた廊下の先を見据える。携帯を握り締めたまま僕は走り出した。階段を駆け上がる。教室に入っていく先輩の後姿を見つけた。
「先輩!」
僕の叫び声で先輩が振り返る。恐いくらいに難しい顔をして僕を睨む。その顔がほんのり赤いのは僕の勘違いなんかじゃない。
僕の手が、先輩の腕を掴む。
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先輩が僕から離れていくのを見送る。動けなかった。誰とでもキスできるなんて言われて、カンサイともした、なんて言われて、今朝も森下さんて人とやってきた、なんて言われたら、さすがの僕もショックで動けなかった。
先輩が僕に照れていたように見えたのはやっぱり僕の錯覚だったんだ。先輩が僕に照れるはずなんてないんだから……。
「今朝もやって来ただなんて……そんな報告いらないよ……」
森下さんてどんな人なんだろう。大学生って言ってたっけ。そんなに大人なのかな……。海の家で知り合った人。
ん。海。大学生。森下??
携帯電話を取り出し、電話をかけた。僕の初めての人、親戚の森下健一さん。この人も確か海好きだった。まさかとは思うが一応念のため。
数コールのあと、健兄ちゃんが電話に出た。
「健にい? 山口先輩と会ってる?」
『久し振りに電話してきたと思ったら、やっぱり用件はそれか』
のんびりと健兄ちゃんは言った。やっぱり! 先輩の相手って健兄ちゃんだったのか! なんて偶然! っていうか、
「健にい、ひどいよ! 僕が先輩を好きだって事知ってるだろ! それなのにどうして先輩と?!」
ゲイの知り合いなんて健兄ちゃんしかいないから、僕は中学の頃から先輩への片思いの相談をずっとしてきた。先輩の名前も何度となく健兄ちゃんに言ったはずだ。同じ高校に進学したのだって報告してるのに。
『あははっ、初めは気付かなかったんだよ。学校の名前聞いて思い出したんだ。それがわかったのもつい最近……おまえ、いつか、重夫の体中にキスマークつけただろ? その日だよ、おまえと重夫が繋がったのって』
キスマーク。カラオケボックスの時の……! どうしてそんなこと健兄ちゃんが知ってるんだ? 先輩が健兄ちゃんの前で裸になるようなことがあったってことだ!
「もう……最悪」
僕は項垂れた。健兄ちゃんの性格はよく知ってるつもりだ。おとなしそうな外見に似合わず、いけそうな男を見つけたら誰とでも寝る人なんだ。もう溜息しか出ない。
『謝るよ、おまえの好きな奴だって気付いた時には寝たあとだったんだ』
「健にいのおかげで先輩、ずいぶん慣らされてたよ。いったいどれだけやったの」
『さぁ、もう覚えてない』
電話の向こうでカラカラと明るく笑う。人の気も知らないで……。
「今朝もしたんでしょ」
投げやりな気持ちで確認すると、健兄ちゃんは『あっ、重夫から聞いたの?』とあっさり認めた。僕の傷口に塩を塗りこむ気軽さ。ほんっとに無神経!
『で、うまくいった?』
「はっ?! なんの話?!」
つい苛々と答えた。
『あれ? 重夫から好きだって言われなかったの?』
「言われるわけないでしょ、そんなこと」
『あれ? おかしいなぁ。あの子、おまえのこと好きなんだって気付いて動揺しまくってたよ。本人は最後まで認めたがらなかったけど、あの子って意外に純情なところあるよね』
ククッと健兄ちゃんは笑う。つい最近知り合っただけのくせに、僕の先輩を知った風に言わないで欲しい。
「先輩が僕を好きなわけないよ」
嫌われることならたくさんしてきたけど、好かれるようなことは何もしてない。
『ほんとに何も言われてないの? 可愛い従兄だから教えてやるけど……彼ね、怖いんだって。おまえと付き合ったとしても、終わりが来るのが怖いから好きだって認めたくないんだってさ。だから今までの関係を選ぼうとしてた。そんな馬鹿なことやめて告白してこいって俺が背中押してやったのに。意気地なしだなぁ、重夫も』
「……それってほんとなの?」
『ほんとだよ。ずばり聞いてみれば?』
嘘だ、嘘、嘘。ぜったいそんな都合のいい話、あるわけないんだ。健兄ちゃんの勘違いに決まってる。
……ほんとに?
今日、先輩が照れているように見えたのも勘違い? 保健室で先輩がキスしてきたのも、あの時見せた優しい目も、僕の勘違い?
体がブルッと震えた。
「僕、行かなきゃ……先輩のとこ、行かなきゃ……」
『行っといで。おまえのために俺は泣く泣く身を引いたんだ。うまくやれよ』
ありがと、健兄ちゃん。
先輩が消えた廊下の先を見据える。携帯を握り締めたまま僕は走り出した。階段を駆け上がる。教室に入っていく先輩の後姿を見つけた。
「先輩!」
僕の叫び声で先輩が振り返る。恐いくらいに難しい顔をして僕を睨む。その顔がほんのり赤いのは僕の勘違いなんかじゃない。
僕の手が、先輩の腕を掴む。
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お願い、上手くいって……‼️
重夫、素直になってね?
明日が最終回ですか……?
数え間違いで、実はあと5話あった!
なんてことは
ないですよね?(笑)
ふたりが幸せになりますように…………☆☆☆
コメントありがとうございます!
ついに今日が最終回となりましたー!89日も毎日更新続けられるか不安でしたが案外なんとかなりました。
重夫はちゃんと素直になれたのでしょうか?!
河中の想いは成就したのか?!
ぜひぜひ、お確かめになって頂きたいと思います~w
正直エピローグ感が拭えない最終回なので、こんなに煽って大丈夫かって感じです汗
どうか、楽しんで頂けますように(祈)
長いあいだお付き合い、ありがとうございます!!^^