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君が笑った、明日は晴れ(84/89)

2020.06.25.Thu.
1話前話

「おはようございます」

 駅のホーム。河中が爽やかに笑って立っていた。思わず構えてしまう。昨日自分からしたキスを思い出して顔が熱くなっていく。いやいや、落ち着け俺。忘れろ、あのことは忘れるんだ。

「熱は。もう平気なのか」
「はい、一晩寝たらすっかり」

 そんなに簡単に下がるもんなのか?

「また無理してんじゃねえだろな」

 考えるより先に体が動いた。手を伸ばし、河中の額に手を当てた。確かに平熱のようだ……と思うと同時に自分のしていることに気付く。パッと手を引っ込め、ポケットに突っ込んだ。何やってんだ俺。

 河中が赤い顔で俺を見上げてくる。

「先輩、あの、昨日……の事なんですけど」
「あ、俺、忘れもんした。お前先に行っとけ」
「えっ、先輩!」

 呼び止める河中の声を無視してホームを離れ、改札を出た。駅前のコンビニに駆け込み、適当に雑誌を取り上げ、パラ読みする。内容なんてぜんぜん見てなくて、中/学生みたいに心臓をドキドキさせていた。

 どうしよう。あいつの顔、まともに見られない。ほんとにどうした俺。相手はあの河中だぞ。いくら顔が可愛くても俺と同じ男だぞ。そうだよ、男同士なんだよ。なのにどうしてあんなに可愛い顔してんだよ。なに無駄にいい匂いさせてんだよ。あんな熱っぽい目で俺を見るなよ。どうしてあいつ、男なんだよ……。

 あいつが女だったら……女だったら、もっと簡単に事は片付いたんだ。ドキドキしたって気持ちが惹かれたって何も不思議はない。あいつが男だってことが大問題なんだ。

 女じゃなく、男だから、だから、つまりは俺……。

 とにかく今日はあいつに会っちゃいかん。会えばみっともない醜態をさらすだけだし、戸田にもなんて突っ込まれるかわかったもんじゃない。

 家に帰っても親がいるし、どこかで時間を潰すか。時計を見る。もう学校に行ってるかもしれないと思ったが、森下さんに電話をしたら繋がった。

「今から会える?」

『ええ? 今から? どうしたの、何かあったのか?』
「大有りだよ。俺、いま人生で一番最悪な選択を迫られてるかもしんない」
『何かよくわからないけど……相当困ってるんだな。わかった、迎えに行くよ。今どこ?』

 居場所を伝え、コンビニで立ち読みをして時間を潰した。30分後、コンビニの前に乗りつけた森下さんの車に乗り込み、更に30分後、森下さんの部屋についた。

 向き合って座りながら、俯いて黙っている俺に、

「ねぇ、さっきから溜息ばっかり。相談したい事があるから俺を呼んだんじゃないの?」

 呆れ顔で森下さんが言う。相談……。するつもりで森下さんを呼んだんだろうか。よくわからん。もうわからん!

「あああぁぁ!!!」

 喚いて頭をかきむしった。

「やろう!」

 森下さんの手を掴む。

「やるって……朝から? どうしたの重夫。今日ほんとに変だよ」
「変なんだよ、もうとっくに! 昨日から! 自分でもそんなことわかってんだよ!」

 怒鳴りながら森下さんに抱きついた。それを抱きとめた森下さんが俺の頭を撫でる。

「とりあえず落ち着こうか。話聞くから。何があったの? 何をそんなに悩んでるの?」
「……言いたくねえ」
「それじゃ相談に乗れないよ」
「言えるかよ、あんな……恥ずかしいこと」

 まさか自分から河中にキスして、まともに顔も見られないくらいドキドキしてるなんて口が裂けても言えない。言ったら俺の中で何かが終わる気がする。

「もしかして……以前、君の体中にキスマークを作った一年生のことで悩んでるのか?」

 ガバッと顔をあげた。どうしてわかったんだ。森下さんは目を細め「やっぱりそうなんだ」と微笑んだ。

「俺、死にたい」

 再び森下さんの胸に顔を埋める。ユニセックスな香水の匂い。少し気分が落ち着く。少なくとも河中の甘ったるい匂いを忘れられる。

「どうして死にたくなるんだ?」
「俺らしくないから」
「もしかして、その子のこと、す」
「言うな!」

 途中で遮った。その言葉を言われたら終わりだ。あいつとはもうやってけない。俺は今のままがいいのに、それを認めたらもう先輩後輩でなくなる。お気に入りのおもちゃでも、そこに油性マジックで自分の名前を書きたくない。

「別にいいんじゃないの? 付き合ってる彼女に悪い?」
「そういうんじゃなくて!」
「男同士だから? さんざん俺と寝たのに今更?」
「だから!」

 顔をあげて森下さんを睨む。今の俺の顔、きっと真っ赤だ。

「だって……俺もあいつも男なんだぞ。絶対うまくいかないって! どっちかが浮気して終わるに決まってんだ」
「まぁ、その可能性はあるけど。そんな事気にしてるの? 彼女がいるのに俺とセックスしてる君が?」
「あんたには一切恋愛感情ないから」

 あ、森下さんの目が据わった。横を向いて溜息をつく。

「そうだったね、前から言ってたもんね。俺とは体だけの気楽な関係だって。だからって……他の男の相談してくるなんてちょっと無神経なんじゃないか? 俺は君に好意を持ってるのに」
「いや、持たれても困る」

 言ってからマズッたと思った。森下さんはまたわざとらしく溜息をついた。口の端をあげた皮肉な笑みを浮かべて、呆れきった目が俺を見ている。

「はぁ、なるほどねぇ、そういうことか。君が自由に遊んでいられるのはそういう理由か。気持ちがないうちは君は好き勝手に誰とでも遊びで寝ることが出来る。でも『気に入った』相手とは終わらない関係を選ぼうとする。前に言ってたよね、どうせいつか終わるのに、くだらない感情に振り回されたくないって。その子とは終わらせたくないから、そんなに悩んでるんだろう?」

 つまるところ、そういうわけだった。



ハルが丸くなってるー!(>q<)
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